ぼくが三日月からおりるころ(短編小説)
ぽんっ。
シャンパンの栓を抜いたみたいな音でぼくは生まれた。
三日月のとき、ぼくは生まれてまた消える。
なんでってぼくが地上に降りれるのは、この月が三日月に欠けた時だけ。
上のとんがってる方からぼくは乗って、下のとんがりに向かって急カーブを使って勢いをつけて、「それっ」て飛んで降りていくんだよ。
カーブをすべるときに、ぼくはおまじないをかけて祈りの粉を空中にキラキラと舞わせながら、降りるんだ。
それはちょうど、小さな金色のスパンコールが宙に舞って広がって、キラキラしているのに似ているかもしれないな。
そして三日月が終わる頃、ぼくはその祈りの粉のじゅうたんを登って月に戻っていくの。
三日月の下のとんがりに、「えいっ」てぶら下がってからカーブにひょいっと乗っかる。それでぼくはしばらくすると消えちゃうんだ。
そしてまた、ぽんっていったら次の三日月で生まれてるよ。
今日の三日月で、ぼくはアーケードの端の古い一軒家に住んでいる小さな女の子に会いにいく。
彼女はりおん。りおんはからだが弱くていつも部屋の窓辺におかれたベットにいてそこから外をみてる。
ぼくはちょうど5歳くらいの男の子みたいな形をしている。りおんもちょうどそのくらい。
ぼくはいつもさみしそうなりおんの、窓辺に置かれた、つるやうさぎや犬や花の折り紙が大好きだ。
ぼくは今日は100のハートと100の薔薇のおりがみをもってきたの。それはそれはいろんな色のね。りおんのお部屋いっぱいに浮かばせて一緒にながめるんだよ。りおんの喜ぶ姿がはやくみたいな。
りおんの記憶には残らないけど、ぼくが帰るころにはりおんのさみしいきもちが少なくなってるはずだから。
え?大丈夫!りおんのお部屋散らかしてママに怒られたら大変!ぼくきれいにしていくからさ。
じゃあ、行ってくるね!
おわり