音無式「7七桂戦法」の現在地点 ~対居飛車編~
はじめに
私は先手番になった際に、▲7六歩△3四歩のオープニングで▲2二角成△同銀▲7七桂!という手を多用しています。
変わった立ち上がりですが、これは「7七桂戦法」と言われているもので、私が考えて指し始めた作戦ではありません。
7七桂戦法と私の出会いは将棋を始めた頃にまぁまぁの頻度で入り浸っていたハンゲームの「将棋弐」でした。野良で当たった人にこの作戦を指され、為すすべなく一蹴されたので特に印象に残ったのですが、その時にはこの戦法の名前すら知りませんでした。
後にネットの海を徘徊していた際におおよそ元祖?と思しき白砂青松さんのHPに辿り着き、ようやくその戦法の名前と概要を知ることになりました。
白砂青松の将棋研究室 7七桂戦法 (hakusa.net)
非常に実用的な作戦で、要するに振り飛車の理想形の一つと言われている立石流を一直線に目指すというものです。
なにせ特殊なオープニングと出だしなので、初手合いの相手ならだいたいこんな感じで進行して作戦勝ちできます。とても優秀な戦法です。
…という感じで通していきたいのですが、ここ数年でアマチュア将棋指しのトレンド?のようなものが結構変わってきていることもあり、上図のような理想形に組むどころか序盤早々から違う形を目指さざるを得ないことも多くなってきているのが現状です。
本記事では、7七桂戦法をまずまずの局数指している私が、現代ネット将棋で対峙する形とその対抗策・アイディアについて解説し、あわよくば7七桂戦法を指してみようというプレイヤーが一人でも増えないかなという欲望と打算を丸出しにしていこうと思っています。よろしくお付き合いください。
理想となる駒組みと仕掛け
ズバリ上図が理想図です。ここから▲5七角と設置して、▲8六歩△同歩▲7四歩と仕掛けていきます。
以下、△同飛に▲8六飛とするのがポイントで、飛車成りを防ぐ△8四歩に▲7五歩となれば飛車のタダ取り成功でいっちょ上がりです。
ということで▲5七角に△8二飛と先に逃げてみますが、▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩に▲7五飛がこれまた厳しい一着になります。
この手は次に▲8五飛から飛車交換を狙っていますが、どうにもぴったりした受けがなさそうです。
後手陣には飛車の打ち込みの隙が多すぎで、先手が指しやすい形勢です。
途中、△7三歩に代えて△7三角と反撃含みで角を打つ手も超早指しルールだと頻出しますが、これにはあっさり▲同飛成△同桂▲7四歩くらいで先手優勢です。以下、△7二飛には▲8四角がいい味出しています。
後手としては、この理想形の駒組みまで持っていかれると先手に手段が多く、どうにも旗色が良くなさそうです。
よって、そもそも「理想形に組ませない」という発想になってきます。
以下は、居飛車が早めに動いてくる順の中でも実際の早指し対局で遭遇しやすい形について解説をしていきます。
よくある居飛車の仕掛けや駒組み
①△5五銀~△6四歩
まずは△5五銀~△6四歩の仕掛けを見ていきます。これは△4四銀型を選択した居飛車が飛車を圧迫したいよ的な感じの指し手だと思います。
この仕掛けに対する反撃の基本方針は「▲6三角と打てるスペースがあるか」でだいたい2通りに分かれます。
上図の場合は6三地点に角が打てる形なので、▲5六歩△4四銀▲6四歩△同銀▲6三角(下図)のように進行して先手優勢です。
では▲6三角と上がれない時(下図)はどうすればいいのかですが、その場合は自然に▲7四歩の仕掛けを狙っていきます。
上図以下、▲5六歩△4四銀▲6四歩△同銀ならば▲7四歩と突くのが厳しい一着です。
△同歩ならば▲同飛△7三角▲6五歩△5三銀▲7三飛成△同桂▲7四歩(下図)で攻めが続きます。
また、▲7四歩に△6三金なら▲6五歩△5三銀▲7三歩成△同金に▲7四歩~▲7三角みたいに乱暴に攻めても十分に手になります。
以上のことより、後手の△5五銀~△6四歩の仕掛けははっきり動きすぎと結論付けてしまおうと思います。
②序盤早々の△6四歩
こちらの▲6六歩に△6四歩と突いた局面。
理想形に組めませんわ~!!とうっかりキレ散らかしそうになりますが、心肺ゴム用です。
これには▲6八飛△6三銀にいきなり▲6五歩(下図)と仕掛けていきます。
以下は△同歩▲同桂と桂馬を跳ねるのがミソで、ここで後手の指し手が悩ましいです。
△5二金なら▲7一角ですし、△4二玉には▲7三桂成△同桂▲6三飛成。
△6四銀なら▲8六角△6五桂▲同飛△5二金▲6三銀で絡みつけます。
△5二玉は▲7三桂成△同桂▲6四歩△5四銀▲7四角△4二玉▲6三歩成(下図)
で攻めが続きます。
よって▲6五同桂には△5二銀が最善なんですが、▲6四歩△6二歩の交換を入れてから左銀と玉をそれっぽく動かして目指すのは下図。
▲7四歩△同歩▲4六角(下図)が狙いの攻めです。
▲6三歩成~▲8二角成が入れば難しいながらもやや先手指しやすい形勢ですので、人間的には△9二飛なんですが、そこで▲8六歩として▲8二歩を狙ってどうかです。
ここまで進めば互角の範疇を出ませんが、先手が攻めているので悪い気分はしないと思いますし、やはり▲6五同桂の瞬間の罠の多さは魅力的です。
③△6二銀・△5二金型
最後に紹介するのは△6二銀・△5二金型。上図を見て頂いて分かる通りですが、すこぶる普通の局面です。
しかしながら、この陣形が非常に手強いのです。
理想形を目指そうと一直線に駒組みをすると上図になりますが、
ここですかさず△7四歩(下図)でなんと既に後手有利(-500)です。
▲同歩には△7二飛で、次に歩を取って△7六歩を狙っていますがもう既にピッタリとした受けが思い浮かばない局面になっています。
ここで反発するなら▲4六角ですが、以下△7三角▲同角成△同銀▲8五桂△8四銀▲4六角△9二飛▲7三歩成(下図)となった局面がどうか。
個人的にはちょっと選びたくない変化だと思っています。
玉形に差がありすぎるので実戦的に非常に勝ちづらいと判断しています。
さて、ではこの7七桂戦法は終わってしまったのか?というと、勿論そういうわけではありません。
ただし、序盤で「相手の形を見て他の戦型へのシフトする」ということは必要になってきます。
要するに、一直線に立石流に組むことを諦めて▲6八銀~▲6七銀型の角交換振り飛車、もしくは相居飛車を選択すればいいのです。
当初の目的とは違う形を選択する必要がありますが、背に腹は代えられません。生き延びてチャンスを伺うことが重要なのです。
おわりに
位を張る力戦振り飛車には速攻が有効とはよく言われますが、本戦法においてもその法則は例外ではありません。
しかしながら、相手の陣形を見ながらこちらの駒組みにも柔軟性を持たせることにより、変遷激しい現代将棋においても十分に戦えると考えています。
立石流は振り飛車における理想形の一つであるという事実は変わらないので、それを一直線に目指せる本戦法の魅力はいつになっても色褪せないものであると思っています。
さて、本戦法の最重要課題は対居飛車ではなく実は対振り飛車にあります。
簡単に理由を挙げますと、序盤早々に跳ねる▲7七桂が駒組みの自由度を阻害してしまい、後手の相振り飛車のシンプルな駒組みに対応できないという問題を抱えており、私が本戦法を採用する際の長きにわたる障壁にもなっていました。
しかしながら、将棋AIの採用した形を参考に人間ならではの構想を加え、現在ではどんな相手にも使える総合戦法に相成ったと自負しています。
また、対居飛車の工夫と対振り飛車の新構想をもって、「音無式」7七桂戦法と表現させていただきたく思っています。
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