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クラシックの音楽事務所勤務 好きな曲はブラームス:間奏曲 op.118-2/ラヴェル:ピアノ協奏曲第2楽章 好きな画家:有元利夫 好きな作家:須賀敦子 上智大学哲学科卒/お茶ノ水女子大学大学院修士課程修了(倫理学専攻)

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クラシックの音楽事務所勤務 好きな曲はブラームス:間奏曲 op.118-2/ラヴェル:ピアノ協奏曲第2楽章 好きな画家:有元利夫 好きな作家:須賀敦子 上智大学哲学科卒/お茶ノ水女子大学大学院修士課程修了(倫理学専攻)

最近の記事

宮城道雄:春の海

英語の問題集ばかり読むことにほとほと嫌気がさし、代わりにペーパーバックを読むようになって数年。ペーパーバックは軽くて、安価な紙のざらっとした感触もよく、インクと紙の匂いが昔小学校で配られたお便りみたいで気に入った。鉛筆の芯が紙にひっかかって書き込みしやすいのもいい。そして日本の文庫本ほど文字が小さくなく、読みやすくて幸せ。 次は何を読もうかなと思ったとき、かなり前に愛読した「モリー先生との火曜日」の25周年記念版が出ているのを知って、嬉しくてすぐに注文した。 モリー先生。

    • バッハ:羊は安らかに草を食み BWV208

      最近、いい言葉をみつけた。「〜と信じよう」だ。どうしたの、急に。今更、ポリアンナ症候群でもあるまいにと、鼻白んでしまわれるかもしれないが、やってみたら意外にも、おや、これはなんだかいい感じと思った。 試しに、なんでもいいので、最後に「と信じよう」をつけてみてほしい。例えば、毎日やると決めた英語の音読をする。朝15分、電車で10分、歩きながらNHKラジオ「ビジネス英会話」、夕食を作りながらシャドーイング、お風呂で洋書多読。湯船で寝てしまい、ペーパーバックを濡らす。また、翌朝、

      • モーツァルト/リスト編:アヴェ・ベルム・コルプス(一隅を照らす)

        台風が近い。大型で交通機関にも支障がでるという。こうなると会社のメールには、落ち着かないやりとりが、休日深夜関係なく入ってくる。各地で演奏会をしている複数のアーティストたちの動きに注意が必要になるからだ。早めに移動させる、万一の場合に備えて代役を立てる、早め早めの対応が重要になる。 そして多くの場合、さらに「気づいていない何かがあるかもしれない」と気になってくる。マネージャーは心配性の人が多い。ビックアーティストを成田空港に迎えにいって2時間待つことがざらでも、「フライトが

        • シューベルト:君はわが憩い D776(繰り返す)

          7月の終わりに担当しているアーティストがオール・シューベルト・プログラムの演奏会を行なった。晩年の、といっても31歳で短い生涯を閉じた青年の、死の淵をのぞきこむような凄みと不思議な朗らかさのある傑作に演奏会は沸いたが、主催者としては、渋めで通好みの、はっきりいえば地味で華やかさにかけるシューベルトのプログラムで集客できるのか、最後までチケットの売れ行きを心配した演奏会だった。 不思議なことに、最近、シューベルトをプログラムに取り上げる演奏会が多い。コロナの感染拡大であらゆる

        • 宮城道雄:春の海

        • バッハ:羊は安らかに草を食み BWV208

        • モーツァルト/リスト編:アヴェ・ベルム・コルプス(一隅を照らす)

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          ヘンデル:歌劇《リナルド》より 私を泣かせてください

          六月の綺麗な風の吹くことよ 子規 札幌に住んでいた頃、6月になるとライラックが咲いた。関東育ちの私は、この薄紫の小花が、初夏の札幌のあちこちに咲くことを知らなくて、近くを通るたびに特別にいい香りがすることに驚いた。どこまでも広がる青空とライラック。北海道に梅雨はなく、6月の札幌は神に祝福されたかのような明るさだった。 そもそも、どこにいても初夏の風は気持ちがいい。薫風とは言い得て妙だなと思う。お隣りの家のいちょうの木もたくさんの葉を茂らせて、仕事部屋の2階の窓を開ければ手

          ヘンデル:歌劇《リナルド》より 私を泣かせてください

          シューマン/リスト:献呈

          春爛漫。お茶室のお道具が春のものに入れ替わった。季節がかわるたび、その時節のお道具に再会するのは嬉しい。4月のお稽古で楽しみにしていたのは都鳥の香合だ。香合はお香を入れる蓋つきの小さな容器で、都鳥は桜が咲く頃、毎年お目見えする。 名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思う人は ありやなしや 「伊勢物語の東下りに出てくる在原業平が詠んだ歌で有名でしょう。隅田川の都鳥、ゆりかもめよ。」といつも先生が説明してくれる。ひっくりかえすと、朱色の足があるのも、愛らしい。 この季節は

          シューマン/リスト:献呈

          ブラームス:弦楽五重奏第2番 第1楽章

          この曲を初めて聴いたとき、冒頭は、海の上で鳥たちが羽ばたいているようだなと思った。波立つ海面からそう遠くないところで、ときに風に押されながら空へ舞い上がったあと、翼をのびやかにひろげているようなフレーズが、チェロ、ヴァイオリン、ヴィオラへと順に渡され、一緒にどこかへ行けそうな気がする。 演奏会の当日は、本番前にゲネ・プロ(General Prove)という通しリハーサルが行われて、私たちはこれを客席で聴くことが多い。誰もいないホールで音楽を独り占めするのはなかなか贅沢なこと

          ブラームス:弦楽五重奏第2番 第1楽章

          ショパン:ピアノ・ソナタ3番(ヴァルナビリティ 傷つく力)

          演奏会は夜が多いので、女性が出産後も働き続けられる音楽事務所はめずらしかったのかもしれない。出産後の女性の復職率は今でこそ6割ときくが、20年前、第一子の出産から職場に復帰するのは3割程度。平日の演奏会は開演19時、終演21時。春や秋のコンサートシーズンは、週に数回演奏会があるので、確かにマネージャー業と母親業とは両立しにくい。 そうはいっても、社内には何人もの先輩ママがいて、育休復帰後も普通に仕事をこなしていたので(少なくとも当時はそう見えたので)、私も当たり前のように、

          ショパン:ピアノ・ソナタ3番(ヴァルナビリティ 傷つく力)

          バッハ: 《無伴奏チェロ組曲》 第1番 BWV 1007 〈プレリュード〉

          画家の没後15年の展覧会で演奏していただきたいのです。美術館のロビーなのでピアノがなく、チェロの無伴奏でお願いしたいのです。チェリストを担当していた私に、そう問い合わせがあった後、届いたのが画家・有元利夫の資料だった。 有元利夫、名前を聞いただけではさっぱりわからなかったが、中世のフレスコ画のような、時間がとまったような、首と腕の太い女の人の絵を見て、この人の絵を知っているとすぐ気がついた。もう何年も見ていなかったが、家にあったバッハ全集のカセットテープの表紙、その絵と同じ

          バッハ: 《無伴奏チェロ組曲》 第1番 BWV 1007 〈プレリュード〉

          R. シュトラウス:明日(終わらせる)

          晩夏、素敵な響き。夕方の風が夏の終わりの気配を含んでいることに気がついたときはとても嬉しい。それはたいがい部屋の中が薄暗くなって、そろそろ水撒きをしなくてはと外にでた時で、ヒグラシがカナカナカナカナと鳴き、赤く染まった雲が紫とピンクの空に浮かんでいる。 今年もずいぶん暑かった。灼熱の日々は永遠に続くかと思われたけれども、夏はちゃんと終わりに向かっているのね。 どんな「終わり」にも「慰め」が含まれていることを感じる。夏の終わりの夕暮れはピンクで優しい。ぼんやりして、何が終わ

          R. シュトラウス:明日(終わらせる)

          クープラン:神秘的なバリケート(愉しむ)

          ブルーノート東京に行った。ブルーノート史上初、チェンバロの公演があったのだ。緊急事態宣言下で終演時間の制限があり、開演は17時。まだ昼間のように明るい平日の夕方、同僚たちと会社から、てくてく歩いて行った。 なんて言ったって、ブルーノートだ。みんなそれぞれに、この公演を楽しみにしていたようで、微妙に服装がいつもと違っていた。年下の同僚の髪型はムーミンのミミみたいな玉ねぎ頭になっていて(彼女はここぞという公演の時、この髪型になる)、いつもグレーのスーツに臙色のネクタイの同世代の

          クープラン:神秘的なバリケート(愉しむ)

          グリーグ:ホルベルク組曲(ホルベアの時代より)「前奏曲」 (感謝)

          クラシックの音楽事務所の新人が海外のアーティストを担当するとき、移動宿泊の手配が比較的シンプルなソリストからスタートする。私は指揮者を多く担当した。日本のオーケストラと共演する海外の指揮者は、一人もしくは奥様と来日して都内に宿泊、複雑な移動がない。 その国を代表するようなマエストロ(先生)とよばれる指揮者との仕事に、毎回最大限に緊張し、高い音楽性、知性、理性、品格、人格に圧倒された。滞在中、私のできることといえば、車とお水の手配ぐらい。大したことは何もできず、知らないことば

          グリーグ:ホルベルク組曲(ホルベアの時代より)「前奏曲」 (感謝)

          シューマン:ノヴェレッテン Op.21-1  (励ます)

          シューマンのノヴェレッテンは、大林宣彦監督の映画「ふたり」(原作:赤川次郎)で知った。事故で姉を亡くした実加が、姉の幽霊に励まされながらピアノの発表会で弾く。 この曲は冒頭から力強く弾み、前へ、前へ、突き進む。胸を張って、明るい陽射しの中を勇ましく、薫る風を胸いっぱいに吸い込んで、前へ、前へ。クララの父に長いこと結婚を反対されていたシューマン、それでも愛するクララと共にあれば、何も恐れるものはない、どんな困難もいとわない。そんな20代後半のシューマンのノヴェレッテンは、純粋

          シューマン:ノヴェレッテン Op.21-1  (励ます)

          振り返り note1-7

          noteを2ヶ月ほどやってみた振り返りです。 ある時思い立ってnoteを作ってみました。それはほんの思いつきですが、振り返ってみると、やはり、いくつかの伏せんがありました。直接の理由は、英語の勉強のために読んでいたAnthony Robbins の Awaken the Giant withinの中にあったprocrastination(ぐずぐず先送りすること)のくだりです。 人の行動を脳との関係でみると、ついついやってしまうこと(やめるのを先送りしていること)は何らかの

          振り返り note1-7

          ラヴェル:ピアノ協奏曲 第2楽章

          いい曲だなと思ったものが、いったい何だったのか、わからなくなることがよくある。交響曲は、うとうとしていると、あら?今何楽章?となり、リサイタルは、ソリストが曲と曲の間におじぎをしたり舞台袖に戻ったりせず小品を弾き続ければ、今、どれ?となる。薄暗い客席でプログラムはいつもよく見えない。しみじみ美しいと感じ入ったあの旋律は、どの曲の何楽章で、どのあたりのメロディーだったのか、手元のパンフレットに丸印をつけて、それを大切にとっておかない限り、記憶になかなか残らない。 20年前もそ

          ラヴェル:ピアノ協奏曲 第2楽章

          バッハ:マタイ受難曲

          マタイ受難曲とは、いかにも重いタイトルだ。絶対に私には書けないテーマだが、しかたがない。タイトルにはクラッシックの曲名を使うと決めてしまったし、自分とのお約束の締切を何日も過ぎて、こんな日になってしまった。あまりにも荷が重いので、今回はお休みにしてしまおうかとも思ったが、逃げるといいことはない。向き合うまで追いかけられる。   十字架にかけられるキリストの受難をテーマにした受難曲は「聖金曜日」前後に演奏されることが多い。今年は4月2日(金)。今日だ。 聖金曜日とはキリストの

          バッハ:マタイ受難曲