日本の街角のイタリアンでタイのファミリーに会った話
お正月も終盤にさしかかり、正月料理に飽きた頃、ランチタイムギリギリ滑り込みで、よく行くイタリアンのお店に行った。
入り口の扉に手をかけようとすると、すぐ後ろから大きな荷物を持った、おそらく観光客であろう海外のファミリーもいらっしゃった。
ランチのお客さんが1組帰り、2組帰り…としている間に、店内は私とそのファミリーだけになった。
ふと目を上げると、ご夫婦がとてもニコニコされていて、ちょうど目があったこともあり、話しかけてみようと思った。
どこからいらっしゃたのか拙い英語で尋ねると、「タイランド!」との返事。
タイは年中暑くて雪を見ることがない。
息子に雪を見せたくて。と話していた。
私の住む地域は雪国。
この日は朝から大雪。
小学校低学年くらいの息子さんは、窓から雪景色を見たり、時々外に出て雪をさわってみたり。
その様子を優しい表情で見守るご夫婦の雰囲気が、私の心も和ませてくれる。
もっと会話を続けたくなり、「私、タイに行きましたよ!」と伝えると、とても嬉しそうな表情。
そこからは、カタコトの英語と、翻訳アプリを駆使して、お互いの旅の写真を見せあいながら、「これは◯◯の写真だね」「これがおいしかった」「◯◯は食べたか」と大いに盛り上がった。
タイ語は何か覚えたか尋ねられたので、怪しい発音で「コップクンカー(ありがとう)」と答える。
タイ語は女性と男性で語尾が異なる。
女性は「カー」、男性は「クラップ」。
「ありがとう」の「コップクン」につけると、女性は「コップクンカー」、男性は「コップクンクラップ」になるのだけど。。。
実は私には、この違いがイマイチ聞き取れない。
どちらも同じに聞こえる。
単語の中にある破裂音(pやkの音)をどうにも聞き分けられないのだ。
聞き分けが難しいことを伝えると、ご夫婦は一生懸命に発音を教えてくれる。私も一生懸命マネしてみる。でもうまくいかなくて、一同大笑い。
食事の後も、お店のオーナーさんも加わって穏やかにおしゃべりをした。
こうやって、国も言葉も文化も超えて、この瞬間に、同じ時間を楽しく共有できることがとても素晴らしいことだと思えた。
100%は言いたいことが伝わっていないかもしれない。それでも、なんとかつながろうとお互いが心をチューニングして、会話が成立する。そのこと自体がとても嬉しい体験だった。
お店を後にする時、一緒に過ごせて嬉しかったことを伝えた。ご夫婦からの嬉しさも伝わってきて心が温かくなった。
お店を出ると、息子さんが雪遊びをしていた。
「バイバイ!」
「バイバイ!」
笑顔でお別れをしたあと、彼は何かを伝えようと一生懸命考えて、大きな声で一生懸命な表情で「コップクンクラップ!」とワイ(両手を合わせる動作)をつけて私に言う。
おそらく、英語ではうまく話せない、タイ語は私がわからない。でも、大人たちの会話の中に「ありがとう」が話題になっていたことを覚えていてくれたのだ。
この「ありがとう」に、きっとたくさんの意味が込められているだろうことを思い、私も心から「コップクンカー」とワイをつけて応える。
上手な発音はできなかったけれど、きっと、ありがとうの気持ちは伝わったはずだ。