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醜くも尊い、楽しくてせつない時間

中学校時代からの友人6人組で年に数回、定例会という名の飲酒会を開いている。昨年は後半になかなか予定が合わず、約1年ぶりの定例会だ。

わたしは普段、お酒をまったく飲まないけれど、6人中4人はとにかく酒が好きである。好きだが、すぐに酔う。わたしは酒には興味がないが、酒に強い。昔から、その会でくり広げられた会話の記憶と酔っぱらいたちの介抱を担当している。


酒豪たちは、席に着くやいなや健康について話し始めた。「ガンマ値(肝機能の数値)が高い」「内臓が攣る」「起きるともう疲れている」……ほとんどの症状が酒を断つことで解消されそうだが、健康状態を嘆きながら運ばれてきた生ビールを流し込んでいる。

そんな中、わたしと同じくほとんど酒を飲まない1人が「最近、早朝ランニングしてるんだよね〜。」と言い出した。酒豪Aは「わたしも運動しようと思って、chocoZAPが気になってる(生ビールを流し込みながら)。」

前述した通り、わたしは記憶係なので、酒豪Aが去年の定例会でまったく同じことを言っていたのを覚えている。

わたしたちの青春を彩ってくれたアイドル事務所が名前を変え、Twitterも名前が変わった。世の中はこんなにも急速に動いているのに、スマホがあればその場ですぐに登録できるchocoZAPのことは1年間「気になっているだけ」なのだ。しかも、運動するという名目で入りたがっていたはずなのに、「chocoZAPって歯のホワイトニングもできるんだよ!」と言い出した。知ってるよ、こちとらIDOL CHAMPの広告で何回見せられてると思ってるんだ!ミスタッチで✖️印がタップできず、リンク先がブラウザで開いちゃったことだって数えきれないほどあるんだよ!!!

しかし、酒豪Aの気持ちもわからなくはない。年を重ねると、行動力が落ちる気がするからだ。何をするにも面倒な気持ちが勝ってしまうし、いざ予定を立てると当日に体調を崩すことだってある。


それもあってか、彼女たちは突然好きになったK-POPアイドルのコンサートに1人で入るというわたしの行動が信じられないらしい。彼女たちの中にもいわゆる「推し」がいる人もいるし、いなくともみんな根がオタク気質なので何かしらに興味を持ちながら生活しているのだが、もう熱量を持って誰か(何か)にどっぷりハマれないという。

逆にわたしは言う。「わたしはハマらないことができないんだよ。気づいたら、沼の底にいるの。」望んで沼底に沈んでいるわけではない。わたしを一気に沼底までに引き込むほどの魅力がドギョムにはある。それを聞いた彼女たちは「出た出た、気持ち悪いやつ……。」と口々に言うが、わたしは彼女たちに気持ち悪いと言われ続けているので、もうほとんど快感にも似た状態になってしまう。気持ち悪いと言われたい願望すらある。

とはいえ、わたしは妙に自分を客観視するクセがあるので、自分の今の姿を不気味に感じている。だって、これまでの人生で空港でヨン様をお出迎えするおばさんたちの様子も、若い女性アイドルの握手会に並ぶおじさんたちの様子もリアルタイムで見ていて、オブラートにも何にも包まずに言わせていただくと、はっきりと「何だか気持ち悪いな。」と思っていたから。当時、わたしはただその方たちより年齢が若いだけで、気持ち悪さは同じだったはずなのに……(ずっとオタクだから)。

あれから、当時のおばさんやおじさんと同世代、もしくはそれ以上になっている自分はどうだろう……?かつて自分が嫌悪感を抱いていた人たちと同じポジションになっているのだ。なんとおそろしい。かといって、一度オタクになってしまうと、やめられないということも知っている。畑が変わろうともオタクはオタク。諦めようね。


「気持ち悪い生き物だって自覚があるし、好きなアイドルには美しい景色だけ見ててほしいから、対面イベントに参加する自信はないけど(その前に当たらない)、コンサートだけは行きたい!何万人もいる会場にいる1人としてだったら、自分を許せる。」と言うと、酒豪B(アイドルオタク)が「見られるチャンスがあるなら、そりゃ見たいよね。」と同意しながら「アイドルもそうだけど、わたしたちだって、こうやって年に1回とか2回集まれたとしても、あと数十回しか会えないんだよね。」と言い出す。


何?突然のエモ……たしかにそうだ。会いたい会いたくないにかかわらず、毎日学校で顔を合わせていた時代はとうの昔、今は誰かが「いつ会う?」と声掛けをしてくれなければ、こうして集まることもないだろう。

そう考えると、それぞれの人生を歩みながらも関係性が続いているわたしたちって、もしかして奇跡の6人組なのでは……?という想いが湧いてくる。わたしはSEVENTEENを見ながら「人生の中にグループがあるっていいな。」とうらやましがっていたけれど、もしかしてわたしにもあるのでは??と、仲間の存在がますます愛おしくなってきた。

そして、最近読んだ短歌をふと思い出す___

    楽しいだけとかって
    たぶんもうなくて
    楽しいたびにすこしせつない

『肌に流れる透明な気持ち』伊藤紺(短歌研究社)


これは本当にそう。なんでもこれ。アイドルのコンサートだってこれ。すべての感情がこの歌に詰まっている。

わたしは仲間たちと<楽しいたびにすこしせつない>時間を過ごし、アイドルのコンサートでも<楽しいたびにすこしせつない>時間を過ごす。きっと、この先ずっと、この何とも言えぬ感情とともに生きていく。

「気持ち悪いって自覚しながらだったら、中年でもアイドルに夢中になったっていいよな。」と、自分にゲロ甘なオタクを続けながら__

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