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大学生自転車日本一周旅十八日目:近江舞子駅(滋賀県大津市)→京都府庁→奈良県庁→和歌山駅

本編

 野宿と決まると気持ちがむしろ楽になるのはなぜだろう。旅が旅らしくなるのはなぜだろう。不思議な高揚感が胸の中で泳ぐ。具体的な計画は無いが、楽しい一日の予感。

 前日の早寝の影響で早起きし、就寝スペースでの飲食が出来ないから、何も食べずトイレだけ済まして午前7時には出発。まずは滋賀県庁を目指す。正直そこまでの道のりに何も面白みはない。ただの市街地を永遠と進んでいくだけ。昨日みたいな自動車専用道もなければ、歩道も基本的にはあったから、まだいいほうだろう。朝早いこともあって、一気に滋賀県庁まで走った。距離もそこまでは離れていなかったし。

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 問題は滋賀から京都に向かうところにある。一つ山を越えなければならない。ただし、これまでと比べて自然たっぷりで超危険な山ではないと勝手に舐めていた。実際に突入すると、結構きつい。これまでの疲労もあって、自分に甘えて押すことに。長い登り坂ではあったが、山と言っていいのか分からない。ただ、歩道がとても狭いなど安全とは決して言えないような道であり、危ない場面もほんの少しあった。

 登り終えてしまえば、そこはもう京都府。ど田舎で狭い道はまだ続いたけど、下りだったので車道に出て解放感を味わっていた。そして、山科市の中心部が近づき、様々な道の合流地点に。自転車で直進していいのか分からない道だった。多分駄目だし、大丈夫だとしても交通量を考えると迂回したほうが良さそう。と考えてせっかく迂回しようとしたのに、なぜか行きたい方向にうまく道がなく、全然違う方向に出てしまった。

 こういう状況が本当に面倒臭い。希望していないのに道を外された挙句、訳の分からない場所に出る。わざわざスマホのマップを確認して軌道修正しなければならない。立ち止まるのが一番時間を奪われるっていうのに。なんとか遠回りをしながら行きたい道まで戻り、無事京都市に入った。

 京都府庁の位置を考えると、ここから否が応でも北上しなければならなかったので、ついでに行ったことがなく気になっていた慈照寺の銀閣を見に行くことにした。中学生の頃に修学旅行で京都府に来たときに金閣は見に行ったものの、銀閣は写真でしか見たことが無く、楽しみにしていた。その期待を裏切ることのない銀閣や庭。景色が心に沁み入る。謎にきれいな写真も撮れ、大満足の時間を過ごせた。まだまだ道半ばではあるけれど、この旅の思い出に、と腕に着ける数珠も購入した。

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 すぐに数珠をはめ、今度は京都府庁へ走り出した。京都府庁に行くまでに京都御所の横を通ったから、ついでに行ってみる。中には入れないものの、建物の周りは自由に通れるから、一周ゆっくりと走っておいた。その後、そんなに離れていない京都府庁へ。到着してすぐ、記念撮影をしている人を発見。これまで一人もそんな人に会ったことが無かったから、勝手に親近感を覚え、記念撮影の先輩だぞと優越感に浸りながら(シンプルにキモい)撮影した。確か庁舎は工事中で、全貌は見ることが出来なかったが、歴史を感じる建物だった。その後、二条城の周りも一周し、休憩がてらイオンへ行った。

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 まずは昼ご飯を食べる。次に、初日の反省を生かし、野宿の準備さらに整えるために100均に行く。レインパンツ、反射たすき、さらには懐中電灯用の電池を買う。ただし、まだ完璧ではない。次に近くにある自転車屋、サイクルベースあさひへ。ここでは、空気の確認をしてもらい、まだ大丈夫であることを確認し、さらにUSB充電式のライトを購入した。夜を走るには、今のライトは物足りなかった。特に、福島でのパンクの記憶はまだ残っているから、ライトはできるだけ強いものにしたかった。

 実は、燕三条で自転車を変えるときにライトの交換を進められていたのだが、その時は断っていた。だが、その時に電池式のタイプよりUSB充電式のタイプのほうが圧倒的に光が強いということを教えてもらっていたので、それを参考にライトを購入。福島でライトを買うときにそんなこと店員は教えてくれなかったから、勿体ない買い物をしてしまった。1000円ちょっとしか違わないのに。ともあれ、やっと野宿の準備も整い、次は奈良県庁と奈良公園を目指す。

 奈良県に入るまでには、歩道がなく危ない道もあったものの、平地続きでで気持ちよく漕げた。しかし、県境付近に差し掛かると急にアップダウンが激しくなる。急勾配の上り坂を懸命にこぎ、頭の中の予定では平地をすんなり漕いで到着だったのにと勝手に文句を言っていると、奈良公園の下まで来ていた。日曜日ということもあって観光客はそこそこ居り、自転車では通りにくかったものの、途中からは歩道にシカがいたりもして、だんだんとテンションが上がってきた。

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 ここまでの約2週間半、まともに人と話しておらず、動物にも触れあっていなかったために、このシカが久しぶりの温かいいきものとのふれあいだった。彼らは人間に寄っては餌を求め、無いと分かるとそそくさと踵を返していった。だが、その素直な部分さえもなんかいい。わざわざ餌を買ってまでシカをおびき寄せたいとは思わなかったけれど、近くにいるやつらと触れ合いながら、ゆったりとした時間を堪能した。また、シカは当たり前に道路を歩くので、シカ飛び出し注意の看板があったり、実際に飛び出してきても運転手も慣れているようで上手によけたりと、なかなか見ることのできない光景も見られた。

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 さあ、十分に楽しんだことだし、あとは和歌山を目指していこう。奈良で終わるという選択肢もあったが、和歌山まで行けば、次の日神戸にいる友達と予定が合いそうだったから、頑張ることにした。もともとの予定では、この日の二日後に神戸に行く予定で、その日では予定が合わなかったけど、野宿で予定が変わったことでたまたま予定が合うことになったのだ。やはり、野宿は何か持っているのかもしれない。この後も実はこの野宿のおかげでラッキーなことがあるが、それは一週間ぐらい後の話。

 和歌山市まで最短距離で進むなら山を突っ切っていかなければならなかったが、この日は野宿だから何時に到着してもいい。ちょっと遠回りだが市街地をつないでいくことにした。野宿は時間を目いっぱいに使えるから、旅を満喫している実感がある。

 しかし、少し南下していくと早くも問題が発生した。進もうと思っていた国道が自動車専用になり、はじき出されてしまった。しかも、最初はあった側道も途中で途切れた。仕方がなく、ちまちまスマホを見ながら近くの道をつないで和歌山を目指すことに。ずっと遠回りをして、時には元に戻ってきちゃった、ってこともあった。そんなこんなで予定時間をはるかにオーバーし、日が落ち始めた頃に、なんとか走る予定だった国道にたどり着いた。

 残りの距離をマップで確認して、今の時間を確認する。これは22時どころか23時に突入するぞ。これまでは、長くても22時までも漕いでいない。少し焦りつつも、いったん飯を食べる。ここからギヤを上げていくか、夜はペースが勝手に上がる怪奇現象があるし。

 しかし、和歌山県に入ってからというもの、登りが一向に終わらない。地図を見た感じではこんなに登りそうではなかったのに。あれ、ここって市街地だよな、と思いつつ懸命にこぐ。暗く視界も悪いのに歩道はないという結構最悪に近いシナリオ。通り過ぎていく車に申し訳なさを感じながらも登り終わりまで漕ぎ、押していく。暗いせいで先が見えないので希望も絶望もなかった。その分冷静に目の前の一漕ぎを削り出していく。漕げば確実に和歌山市に近付いていける。それだけが唯一のリアルだった。そして、登り坂を越え五條市の市街地へ。ここまでくれば一安心できた。

 ここから先は、周りの景色は夜ということもあって似たような感じではあった。何も変わり映えは無いが、明日は友達に会えるということを燃料に進む。五條市の道は広く、歩道も常にあり(ただし非常に表面がガタガタしていて走りにくかったためほとんど車道を通った)、道に沿って飲食店等があったために明るく安全だった。

 距離はまだまだ残っていたので時間はかかったものの、ここからは気楽に進むことが出来た。心配事は第一希望の立地の公園が野宿できるような場所なのかということ。疲れという概念がぶっ飛び始めたころ、やっと和歌山市街へ突入できた。

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 和歌山城を暗い中ちらっと見て、そのまま和歌山県庁へ。23時を過ぎ、さすがに誰もいなさそうだった。日曜だし。真っ暗の中写真を撮って次は和歌山駅へ。カップルがめっちゃイチャついていて、すごく気まずかったが写真は撮る。その後、やっと寝床にしようと決めていた公園へ。コンビニに寄ったりしていたら、到着は24時頃になってしまった。出発は7時頃だったから、17時間の長旅だった。何とか到着できて本当に良かった。移動距離以上に疲れた。だが、満喫出来たからよかった。

 公園では運よく屋根付きのベンチを発見した。初日の野宿でしんどい思いをしてから、少しは野宿について調べていたので、いい場所を確保することが出来た。車の音やライトは少し気になるけど、誰も入ってくる気配は無かったから、何とかはなるだろう。決して寝心地のいいとは言えないベンチで眠った。夜中の寒さ対策用にとせっかく百均まで行って買ったレインパンツは履かなかった。

ルート

 近江舞子駅から琵琶湖沿いに南下した後、蓬莱駅の先で県道558号線に入り滋賀県庁へ。滋賀県庁からは国道一号線を登り、その後県道143号線を通って下り降り、白河通を通って銀閣へ。観光後、県道101号で京都御所へ行き、国道367号線を通って京都府庁へ。撮影を終えると、京都駅を越え、国道24号を南下し、最後は奈良県の県道754号線で奈良県庁並びに奈良公園へ。奈良公園からは、国道369号線を走って国道24号線に乗り南下。途中自動車専用道になってしまい回り道を余儀なくされたが、その後また国道24号線に合流し和歌山県庁へ。最後は野宿のために紀ノ川のそばの公園まで行った。


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