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大学生自転車日本一周旅二十日目:神戸市から岡山駅へ

本編

 人の温かみを知ると、気付かぬうちに心がそこに依存してしまう。厳しい環境から一転楽しい環境に代わると、途端に抜け出せなくなる。しんどいことには全然慣れないのにもかかわらず。この日も、この楽しい空間を抜け出して厳しい旅路へ戻ろうとは、そう簡単には思えなかった。「行きたくないよぉ」が心の中のマジョリティ。だけど、岡山までの距離を考えると、あまりだらだらはしていられない。寝るのが遅かったなんて言い訳もあまりできない。渋る気持ちを何とかぶっ叩き、朝9時には神戸を出発した。頼む、今日は雨は降らないでくれ。

 天気予報自体は、曇り。だが、夜から明け方にかけては雨が降りそうとのことだった。これは不気味だ。これまでさんざんこのような予報の中、雨に降られてきている。嫌な予感はする。今日はホテルだな。二日前に野宿で良い一日を過ごせたから、二日に一日は野宿でもいいんじゃ?とも思ったけど、さっそく無しだ。いざ野宿して夜を明かしてみると、やっぱりしんどいし。だから、夜が雨予報で泣く泣くホテルという状況だが、むしろラッキーと思う自分もいた。

 神戸を出発したばかりのころは、広い道に自転車専用レーンが整備されていたこともあって、スムーズに抜けていくことが出来た。そこからは国道2号に乗っかって、瀬戸内海に沿いながら爆走。久しぶりにきれいな海を見る。左車線は常時歩道があって漕ぎやすい。さらにはアップダウンもほとんどない。国道2号最高じゃねえか!と、昨日とは真反対のことを思う。

 そして、明石海峡に到着。つい三日前のこの時間には、日本海を眺めながら(そんな余裕は無かったけど)漕いでいたのか。感慨深いというか何とも言えない感傷に浸りながら、自分で自分のことを頑張ったなと認める謎の時間を過ごした。

 だが、今日の目的地に到着したわけではないから、感傷タイムも一瞬で終了。再び自転車にまたがった。その後、加古川市を越えて姫路市へ。自動車専用道の側道を登らされたり下らされたり、はたまた迂回させられたりと大変だった。途中で道が分からなくなったりもした。やっぱり国道2号はだるい、という結論に至った。少し遠回りをしてしまって時間もかかってしまったものの、姫路市を抜けると相生市へ入った。

 スマホのマップ君が示す最短距離では、相生市街には南下していかず、そのまま西へ進んで山を突っ切る道がおすすめされている。だが、こっちも成長した。地図で確認し、山を避けるには相生市街まで下りて海沿いを進むべきだと考え、疲労状況も加味したベストルートを組んだ。距離は延びるのでその分時間はかかってしまうものの、平地だと減速する場面があまりないからプラマイゼロなんじゃないかとも思っていた。マップは標高差を考えてくれないから、ダメなんだよ。君には人の気持ちが分からないからね。

 という経緯の下、マップとの亀裂は決定的となった。しかし、自分のルートのほうが優れていると信じていたので、そんなことはお構いなしに、相生市からその先の赤穂市へ抜けようと走り始めた。相生市に入って海沿いを走ってると、まるで竜宮城?と思ってしまうほどの建物が。どうやら、ここは道の駅らしい。色鮮やかな門や装飾がされており、こんな道の駅もあるんだなとびっくりしていた。浦島太郎ってここを舞台にしているんだ、と勝手に妄想を膨らます。だが、調べてみたところ、竜宮城があったとされる場所は全然違った!恥ずかしい!兵庫県っていうのは合ってるみたいだけど、瀬戸内海側ではなく日本海側。勝手に頭の中の竜宮城のイメージと一致していただけで全く関係は無いらしい。

 こんな、ほのぼのとした幸せタイムはそう長くは続かない。急に登り坂が始まる。ただ、山を避けるルートを選んだはずだし、ただの登り坂だろう。道の脇には、トンネル開通を望む看板が立っていた。こんなところにわざわざお金かけてトンネル作らなくても。もっと変えてほしい道路はここまででいっぱいあったし。そう思いながら漕いでいたが、坂が全然終わらない。どんどん登っていく。ああ、これは山道だ。予想外の山道。押しても押しても終わらない。道は狭く、車通りは多いから、常に危険。こんな状況にはならないためにルートを変更したのに。早くトンネルを掘れよ。

 なんとか登り終わって赤穂市に抜けると、一段と道のりが楽になった。ちなみに、赤穂と書いて「あこ」と読むらしい。そんなどうでもいい情報も、旅をすれば仕入れられます。県境付近はなどは登りも多かったけど、岡山県に突入するとペースも勝手に上がっていき、一気に岡山市の中心部へ突入した。平地や下りのほうが多かったから、最後は気持ちよく流れていけた。

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 何とか雨に降られることもなく、まずは岡山県庁へ。出発がいつもより少し遅かったこともあって19時ごろに到着。暗すぎて柱の「岡山県庁」の文字は全然写真では見えなかったけど、もう一つ別に看板があったからラッキー。お次は岡山駅へ。ただ、その前にイオンに寄って野宿の準備を進めることに。

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 四国では、最初は、できるだけ最短距離で行くために山を突っ切ろうかとすら考えていた(無謀!)。そうでもしないと、県庁所在地から県庁所在地へとつなぐことが出来ないから。田舎の旅館は高いだろうし、そもそも当日の予約が取れるかすらも分からない。山を越えれば松山から高知、高知から徳島と移動をすることは不可能ではなさそうだったから、そっちのほうがいいのではないかと思っていた。だが、冷静に考えて、四国山地を荷物をもって自転車を押しながら越えるなんて、さすがに頭が悪すぎる。しかも、せっかくの四国の記憶を山一色に染め上げるのも哀しい。

 そこで、野宿が登場してくる。県庁所在地に行かないと、ホテルがあまりないって?野宿すれば、どんな田舎だってホテルになるよ!田舎のホテルや旅館は高そうって?野宿は、無料でできるんだよ!四国を満喫したいって?野宿は朝6時から夜は22時まで時間をたっぷり使えるから、時間が無いからとあきらめずに観光が出来るよ!

 というわけで四国では県庁所在地以外では基本的に野宿をすることに決め、ルートを考えた。少なくとも2回は四国で野宿をしそうということが判明。今度こそはぐっすりと眠れる野宿にしたい。

 和歌山での野宿を経て、新たに気が付いたことがあった。それは、寝袋があった方がいいということ。夜の寒さをしのぐには、長袖長ズボンも大事だが、寝袋があれば一発で問題が解決する。早速イオンで寝袋を探す。しかし、キャンプ用品コーナーにあるはずなのに、なかなか見つからない。サイズもなかなかあるだろうから目立つはずなんだけど。諦めかけたその時、あるものを見つけてしまった。

 「簡易寝袋」。それは災害などの避難時に寝袋として使える、小さく折りたたまれた(多分)アルミ製の袋。ポケットに入るくらいのサイズだったから気が付いていなかったが、こんな有用なものがあるじゃないか!本格的な寝袋は買えなかったが、この寝袋を2つ使って、来る野宿にスタンバイ。これで、やっと寒さに負けずぐっすり外でも眠ることが出来る。野宿erとして着実に成長していけている。

 明日はついに四国。もし途中でパンクしたらとか不安はあるけど、思いっきり景色と飯を楽しもう。

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ルート

 阪急春日野道駅から元町駅まで行き、そこから県道21号線に乗って海側まで出たら、相生市までずっと国道2号線を走った。相生市で県道121号線を走り再度海沿いに出た後、国道250号線を走って赤穂市、備前市と抜けて、岡山市まで。


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