大学生自転車日本一周旅を振り返って⑤:苦しむことでしか救われない、目の前の一漕ぎに全力を
以前自転車で日本一周をした時の振り返りシリーズ。今回は、苦しむことでしか救われないということについて書いていく。
苦しい時、しんどい時、私たちは逃げてしまいたくなる。現実逃避。だが、逃げてしまえば、その分目的地まで近づくことが出来ない。結局苦しいことから逃げるという行為は、困難にぶつかる時期を後回しにしているのと何ら変わりはない。
この旅においては、基本的に苦しいからもう動かないという選択肢は無かった。なぜなら、止まってしまったら、その日はそこで一夜を明かさなければいけないから。日によってはホテルも取っていたし、雨の日は野宿できる環境にない。さらに、最も身体が悲鳴を上げる山道では、安全の観点から決して立ち止まったり、ましてや一夜を明かしたりしてはならない。いくら苦しくたってそこに留まることはできない。埋まらなかった目的地までの距離は後日埋め合わせをしなければならないわけで、どうせしんどさはやってくる。
東北を通っているときは、毎日がしんどさの最大値を更新しているような感じだった。福島に到着する日の夜にパンク、標高600m以上までの坂登りとアブとの格闘をしながら山形へ、仙台までは標高900mほどの峠を越えた。更にその次の日は盛岡までの約180㎞を一時はスコールに打たれながら完走し、その後本八戸駅を目指してまた山を登り、青森を目指す日は非常に雨が強く寒くもあった。このように、毎日壁が立ちはだかっては何とか乗り越えながら進んでいっていた。だが、さらにその次の日の秋田県ではそれがピークに達してしまった。予報以上に激しい雨が突然降りだし、田舎で鉄くずらしき物体を後輪が踏んづけてパンクし、焦った気持から歩道との段差に引っかかってけがをし、そこから秋田駅までも距離がある上に雨は激しいままで道も単純だったから気分が上がらない。夜の方は車通りが多い坂道もあってひやひやした。
この道中は本当にしんどかった。パンクしてからは我慢の連続。イライラから焦ってけがをした後は落ち着きを取り戻して冷静に漕いでいったものの、早く行程を終わりたいのに終われない、立ち止まってしまいたいのにここではとどまれない。だからと言って全力でペダルを回したって、自転車のスピードなんてたかが知れてる。残り3時間だった目的地まで10分で着くなんてことは起こってくれない。さらに、雨のせいで野宿できないどころか体調も崩しそうなほど寒い。本当に逃げ出したいがそんな方法はない。泣いて報われたらいいけど、雨が涙を隠してくれたって、目的地までの距離は縮まらない。誰かに助けを求めたいと思いつつ、自力で乗り越えるしかないことも分かってはいたから、あの時はとにかく懸命に目的地の秋田駅を目指した。早く休みたいが、早く休むためには今は休めない。結局必死に頑張らないでいい状況にたどり着くためには、今必死に頑張って壁を乗り越えておかなければならない。頑張らないためには頑張らなければならないという矛盾。
そして今の自分自身にできることとは、目の前の一漕ぎを生み出し続けることしかない。私たちには平等に「今」という時間しか与えられていない。その「今」と言う時間を使って一漕ぎずつ前へ進んでいくしかない。空を飛べるわけでなければエンジンが付いているわけでもない自転車では、一漕ぎ一漕ぎを繋いでいくことしか努力のしようがない。虚しいけど仕方がない。受け入れて最大限に前を向き続けていく。コツコツ積み上げる力。塵も積もれば山となる用に、一漕ぎを積み重ねて日本一周を達成していく。ただ、一漕ぎの積み重ねがゴール地点まで自分を運んでくれることは頭ではわかっていても、あまりのしんどさからメンタルと肉体が拒否反応を示してくる。だが、この状態に打ち克っていかなければならない。実は、大変な道のりやアクシデントではなく、逃げようとする自分自身とひたすらに向き合っているのかもしれない。
「その一秒を削り出せ。」10年ほど前箱根駅伝を何度も優勝していた東洋大学の選手たちが口にしていた言葉で、腕にペンでその文字を刻んでは素晴らしい走りで襷を繋いでいっていた。「その一漕ぎを削り出せ。」今回の自転車旅ではそう言い換えては、迫りくる困難を必死に乗り越えていった。先のことを考えてしまえば疲れる。あと100㎞以上あるとか、あと8時間ぐらいかかるとか、夜中まで漕がなければいけないとか、まだ山道が残っているとか。だが、先のことを考えたってしょうがない。生み出すことのできるのは、将来の一漕ぎではなく、今現在の一漕ぎだけなのだから。だから、全集中を目の前の一漕ぎに惜しみもなく注ぐ。その繰り返しが旅なのだ。困難な道のりの乗り越え方なのだ。
ここまでの話は、人生においても共通している部分だと思う。楽がしたい、遊んで暮らしたい、そう思うなら今必死に走り続けなければならない。もう頑張りたくない、もう逃げたい、ならば今必死に走り続けなければならない。そして、将来のことを考えて不安に押しつぶされてしまうよりも、今自分の好きなことややるべきことに全力を注いだ方がいい。何万歩も歩き続けることは想像しがたいけど、一歩を今踏み出すことに関しては簡単にイメージできるし、誰にだってそのぐらいはできる。どんなに苦しくても、どんなに逃げたくなっても、とても小さくていいから一歩を踏み出す。このマインドを大事にしたい。
結局人生にしっかりとした休息はないのかもしれない。ずっと一歩を踏み出し続ける。人生という旅の乗り越え方も変わらないのだろう。旅のいいところの一つは、旅以外の物事にも共通することがいっぱい転がっていて、それぞれに対する自分にとっての最適解を探せることにある。人生の縮図ともいえると思う。
休みたいなら今頑張れ。一歩を踏み出し続ける。出来ることは、それしかない。
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