【選挙ウォッチャー】 盛岡市からイジメをなくしたい女子中学生の戦い。
谷山レイさん(仮名)は、どこにでもいる普通の中学2年生の女の子だ。
本来なら、中学校で「青春のド真ん中」とも言える、人生で最も思い出深い時間を過ごしているはずだが、最近まで学校に行けなかった。理由は「イジメ」だ。
レイさんは、昔から正義感が強く、誰かがイジメられているのを見て見ぬフリができなかった。そのため、イジメをやめるように注意をすると、今度はイジメのターゲットが自分になってしまった。
あだ名は「生贄(いけにえ)」。
最初にイジメられるようになったのは、小学2年生の時だった。クラスメイトの女の子に見た目に関する暴言を吐くイジメっ子集団を注意したことがキッカケだった。休み時間になると、イジメっ子集団から「犬」として扱われ、髪の毛を持って引きずり回された。体を押さえつけられ、サッカーのスパイクでスライディングされたこともあった。レイさんの体には小さく丸いアザがたくさんでき、膝からは血が流れていた。
たまたまPTAの集まりにレイさんの母が参加した時、イジメを見ていたクラスメイトがレイさんの母に「レイちゃんがイジメられてる!」と報告をしたことでイジメが発覚。
学校とレイさんの家族で話し合いの場を持ち、3年生に上がる時に「同じクラスにしないようにする」と決まり、小学6年生まではイジメの情報が引き継がれていた。
ところが、レイさんが住む地域では、小中一貫校ではないが、小学校の子どもたちがそのまま中学に進む。この時にもイジメの情報は引き継いでもらうようにお願いしてあったにもかかわらず、なぜか引き継がれず、レイさんと加害児童が同じクラスになってしまった。
イジメは再開され、学校の先生にイジメを訴えたこともあったが、担任からは逆に「レイさんもイジメられないように悪いところは直しましょう」と言われてしまった。しかも、「もし悪口を言われた時は、友達にも聞いてもらい、それが悪口なのかを判断してもらいましょう」と言われ、「友達に悪口を聞いてもらうことなんてできない」と訴えても、「教育委員会からの指示だ」の一点張りだったという。レイさんの母親も学校に訴えたが、この時も「すべてを見ているわけではないから、イジメかどうかが分からない」とされ、まともに対応してもらえなかった。レイさんの心はすっかり擦り切れてしまい、不眠症と食欲不振に陥り、体重は32キロまで減り、12月にはほとんど学校に行けなくなってしまった。この頃には何度も「死にたい」と口にするようになってしまったという。
■ 学校と教育委員会によるイジメの隠蔽
なぜ小学校で引き継がれていたイジメの情報が、中学校には引き継がれなかったのか。疑問に思ったレイさんの母親は、盛岡市の教育委員会に問い合わせる。
すると、レイさんが通っていた小学校から、思いもしない回答が来た。
「イジメの記録は5年で破棄することになっているため、レイさんのイジメの記録は、もう小学校に残っていない」。
確かに、イジメの始まりは小学2年の時だが、毎年、イジメの情報が引き継がれていたのに、レイさんの記録が残っていないため、イジメがあった事実を確認できなくなったのだという。
驚いたレイさんの母が、改めて教育委員会に訴えると、今度はイジメの報告書を作成することになった。だが、このイジメの報告書に納得がいかなかったため、行政の対応に不信感を抱くようになったという。
自分のイジメが、どう報告されたのかを知りたい。中学2年生のレイさんは、なんと、盛岡市に開示請求をかけた。すると、そこに書かれていた報告は「デタラメ」だった。
レイさんは、12月からしばらく、ほとんど学校に行っていなかった。
しかし、イジメの報告書では、レイさんが学校に通っていることになっていたのだ。まるで学校を休むような事態には至っていないかのような改ざんが行われ、事件は矮小化されていた。
レイさんは、12月はほとんど学校を休み、1月から2月にかけても学校にいるだけで体調が悪くなり、遅刻や早退を繰り返していた。ところが、まるで不登校にはなっていないかのような改ざんが行われていたのである。
レイさんは驚き、自分の通知表を確かめると、その通知表もまた出席したことになっていた。レイさんはフリースクールなどに通っていたわけでもなく、代わりに出席が認められるようなことをしていたわけでもない。「内申書に響かないように配慮してくれた」と考えることもできるが、少なくともイジメは隠蔽されている。
レイさんが受けたイジメには、学校側の対応のマズさもカラんでいる。
しかし、レイさんが訴えた内容はまったく盛り込まれておらず、調査報告書には、イジメの加害者が「レイさんのことを笑ったかどうか」が書かれているだけで、「笑ったつもりはないけど、笑ったと受け取られた」と、まるでレイさんの自意識過剰が原因であるかのような報告になっている。
この報告書を読んだレイさんは、とても強いショックを受けた。これまでの先生の対応もそうだったが、大人たちがまとめた報告書がデタラメだらけだったからだ。
このことを知ったレイさんの母は、今年8月の盛岡市議選で当選した新人市議らと一緒に、教育長と旧知の仲だというベテラン市議を訪ね、調査報告書の見直しを求めようとした。ところが、そのベテラン市議は「イジメられないような子どもに育てなければいけない」と逆に説教をしてきたという。
■ 公約を何も実現できていない新市長
盛岡市長選が行われたのは、今年8月。5期20年務めた現職を破り、3度目の挑戦で内館茂市長が誕生した。選挙の公約は「学校でのイジメをゼロにするための市長部局に『いじめゼロ課』を設置すること」。内館茂市長は選挙公報にも、そのように書いていた。
実は、盛岡市では慢性的に教師の数が足りず、子どもたちを十分に見守ることができていない。そのため、イジメの問題は深刻で、現在、わかっているだけで約200人の不登校が存在している。盛岡市の小中学生の全児童数は約2万人なので、全体の1%の児童・生徒が不登校になっている計算だ。
全国的な平均が3.2%(文部科学省発表・2022年度)なので、かなり少ないように思えるかもしれないが、レイさんの例で分かるように、本当は不登校に陥っているにもかかわらず、そのデータが改ざんされ、出席したことになっているため、過少に報告されており、実際にはもっと多いのではないかという疑いがある。
実は、レイさんは「イジメをゼロにする」と公約を掲げた内館茂市長に手紙を書いている。その手紙を読めば、レイさんがイジメっ子だけでなく、大人たちにも傷つけられてきたことが分かる。もし、あなたが市長なら、この手紙にどう向き合うだろうか。
レイさんの切実な訴えがヒシヒシと伝わってくる。
だが、「いじめゼロ課」を設置すると公約を掲げて当選した内館茂市長からの返事はなかった。8月の選挙の時までは、いろんな市民と細かくSNSやメールをやり取りをしていたのに、市長選に当選してからというもの、パッタリとメールが途絶えてしまったそうだ。
11月に、レイさんが開示請求した資料を受け取るために市役所を訪れた時に、偶然にもレイさんは階段で内館茂市長とすれ違った。訴えるような目で見ていたことが気になったのか、内館茂市長は一度は通り過ぎたが、「何か?」と声をかけてきたという。名前を言ったがピンと来ない様子で、「手紙を読んでくださいましたか?」と言うと、ハッと慌てて対応したという。
レイさんはまっすぐ「私たちの声を聞いてください。動いてください。このままではイジメはなくならないです。苦しいです。ツラいです。お返事をくださらない理由を教えてください。助けてくれると期待して手紙を書きました。なんで動いてくださらないのですか」と泣きながら訴えた。内館茂市長はレイさんの腕を擦りながら「うんうん、ツラいよね、ツラいよね」と言うだけだったという。その後も市長からの返事はない。
一人の女子中学生がどんなに切実に訴えても、大人たちは動かない。
形の上では「重大事態」として扱われたものの、その報告書は、出席日数さえ改ざんされ、イジメの実態はまったく反映されていなかった。市の教育委員会は「スクールソーシャルワーカーを派遣し、一定期間、子どもたちを見守る」と説明していたが、レイさんに聞けば、そのような人はいなかったという。新人市議を通じ、どうなっているのかを訪ねると、「授業中などに空いている先生が廊下から問題がないかを見回っていた」と誤魔化され、やはり最初の説明とは随分と違った。
レイさんの周りでも、不登校になっている同級生が複数いる。しかし、その同級生たちもまた、下手をすれば、学校を休んでいることにはなっていない可能性がある。ましてや、レイさんのように何度もイジメを訴えても、デタラメな報告書が出来上がるだけだ。最初から大人たちに失望し、訴えもせずに休んでいる子たちはたくさんいて、まるで亡霊のように、元気に学校に通っていることになっているのではないだろうか。
レイさんは今、盛岡市の小中学校から、本当にイジメをなくしたいと考えている。そこらへんの政治家よりも本気だ。
12月の定例議会で「いじめゼロ課」の設置について聞かれた内館茂市長は、曖昧な答弁に終始し、少なくとも今年度中は何もしないようだ。とはいえ、イジメは来年度から始まるわけではなく、現在進行形で起こっている深刻な問題だ。選挙のために市長自ら動くと大見栄を切って公約に掲げ、イジメで困っている子どもたちに期待させるだけ期待させておきながら、何もしないということで子どもたちに示しがつくのだろうか。
所沢市では、来年4月からの公約として掲げられていた「小中学校の給食費無料化」が、新市長のもと、就任からわずか2か月で実現されることになったと発表された。しかも、無償化を3か月前倒しにして、さっそく来年1月から始まることになったという。すべては市長の腕次第。さて、内館茂市長は、盛岡市のイジメをなくすために公約通りに動いてくれるのだろうか。
■ 選挙ウォッチャーの分析&考察
盛岡市では「はじめまして」の方も多いかもしれませんが、僕は日本全国の選挙を取材し、どんな選挙だったのかをレポートにしています。ひょんなことから「選挙ウォッチャー」より「N国党の専門家」として有名になってしまい、「NHKから国民を守る党」という反社会的カルト集団とは、5年以上にわたって戦ってまいりました。
嫌がらせのために8000通以上のパンフレットや代引商品が送り付けられたり、18件に及ぶ大量の裁判を仕掛けられたり、時にはウンコが送りつけられたこともありました。これを「大人のイジメ」と表現することもできるかもしれませんが、こうした嫌がらせに屈するどころか、むしろ「やってやんよ!」とモチベーションを高め、今も8000万円の詐欺既遂疑惑や出資法違反の疑惑について、立花孝志を追及している真っ最中で、絶対に途中で諦めないことをモットーとしております。
世の中には、政治や行政の側に立って、いろんなものを誤魔化そうとする大人がいる一方で、断じてそれを許さず、ゴリゴリのゴリで詰め続ける大人たちもいます。世の中はいろんな種類の大人たちで成り立っていて、すべてが悪い大人とは限りません。今回、市長こそ名前を出していますが、市議については一旦、名指しにはしていません。動くのか、動かないのか。その答えによって、次の記事が出るか出ないかが決まり、詰めるのか詰めないのかが決まります。「助けてください」と切実な声を上げる地元の子どもたちを無視してしまう人間が市長や市議だったりはしないでしょう。さあ、盛岡市のイジメを隠蔽せず、正面から向き合って、なくしてもらいましょう!