【選挙ウォッチャー】 奈良市長選2021・分析レポート。
7月4日告示、7月11日投開票で、奈良市長選が行われました。この選挙には、現職を含む5人が立候補する大激戦で、しかも、5人全員が30代と40代ということで、若い世代がリーダーとなって奈良市を引っ張っていこうと思っていることがわかりました。奈良市は修学旅行の名所であり、普段はたくさんの外国人観光客や中高生の姿が見られるはずですが、コロナ禍で人の姿はまばらで、ホテルにも安く泊まることができました。今回の一番の見どころは、現職の仲川げんさんに対抗するため、日本維新の会が中川崇さんを送り込んできたことです。奈良市を「維新」が取れるのかが非常に注目されました。
仲川 げん 45 現 4期目を目指す
中川 崇 35 新 元奈良県議(日本維新の会推薦)
三橋 和史 32 新 元市議(無所属)
柿本 元気 42 新 元市議(無所属)
谷川 和広 42 新 政党役員(共産党推薦)
今回の奈良市長選と奈良市議選の取材には、事前に羽田空港で抗原検査とPCR検査を受け、しっかりと「陰性」を確認した状態で出発しました。しかし、東京都議選の疲労から声が出なくなってしまい、マルッと2日間にわたって安静にしていました。当初は淡路市議選も取材して帰ってくる計画を立てていたのですが、あまりに疲れていたため、兵庫県知事選を取材して帰ってきました。なかなか極限状態の取材だったのですが、しっかり候補者を見つけることができまして、あとは毎日原稿を書くだけです。
■ 谷川和広候補の主張
谷川和広さんは、「明るい会(明るい革新奈良市政をつくる会)」という政治団体から立候補している日本共産党の候補です。やはり奈良市で共産党は厳しく、まったく票を取れていないのですが、すごく重要な指摘をしていたことを多くの方に知っていただきたいと思います。谷川和広さんが争点にしようとしていたのは、「県域水道一体化」の問題です。奈良市の浄水場は全部で14か所ありますが、それを11か所も減らし、。たったの3か所にしようとしていることを問題にしています。浄水場を減らしてしまうと、災害が起こった時に水道の復旧が遅れること、水質の悪化が懸念されることを挙げており、「命の水を守る」と訴えていました。
この「県域水道一体化」は非常に難しい問題で、おそらく奈良県は一体化にメリットがありません。しかし、奈良県内にある田舎の自治体ほど、一体化を強く望んでいるはずで、人口の多い奈良市が参加してくれれば、他の自治体にとっては大きなメリットとなります。これから人口が減り、水道の老朽化が深刻な問題になる中で、田舎の自治体で水道を維持するのは難しくなってくるため、県域水道一体化によって、水道を助け合おうというコンセプトのはずです。これらが丸ごと民間企業に売られるようなことになると、とっても危険ではあるのですが、各自治体で持ち続けるのなら、やらなければならない取り組みではあると思います。
谷川和広さんは「県域水道一体化」をすると、奈良市の水道料金が1.3倍になってしまい、市民の負担が多くなってしまうと指摘していましたが、それはその通りです。どうして浄水場などを統合して効率化するのに、水道料金が値下がるどころか、逆に値上がってしまうのかと言ったら、もっと水道にコストがかかっている田舎の自治体の分まで奈良市民が負担することになるからです。奈良市は人口が多いので、1人あたりで割った時に値段は割安になりますが、人口の少ない田舎の自治体では水道を維持するのが大変なので、水道料金は高めです。この人たちも含め、みんなの水道料金を一律化すると、田舎の自治体では水道料金が安くなり、奈良市のような都会では水道料金が高くなるという現象が起こるのです。だから、奈良市民のことだけを考えれば、県域水道一体化に参加しない方が得をするということにはなります。問われているのは、奈良県内で助け合うかどうかです。
谷川和広さんは、それ以外にも重要な指摘をしています。保育園の民営化を止めること。これも重要です。今のままで推移していくと、今は保育園が必要だけど、将来的には保育園が必要なくなります。待機児童の問題は一時的なもので、たくさん作ったところで、これからどんどん子供が少なくなってしまい、採算が取れなくなってしまうのです。市立の保育園であれば、もともとビジネスでやっているわけではないので、人数に合わせて廃止してしまえばいいことになりますが、ビジネスでやってしまうと「廃止」ということにはなりません。そうすると、今度は保育園に補助金を出さなければならなくなり、最終的に市の負担が大きくなってしまうことになりかねません。さらに、障碍児の受け入れについても、民間の保育園だと「安全が確保できない」として拒否する問題が生じており、市立の保育園であれば、引き受けてもらえます。保育園の民営化は行政サービスの放棄に他ならず、こういうことを真っ当に主張しているのは日本共産党しかないというのが現状です。
多くの人が「オリンピックより国民の命の方が大事だろう!」と思っているし、誰より真っ当な主張をしているのが日本共産党ですが、いかんせん、日本共産党はまったく人気がありません。これだけ真っ当な主張をしていても投票してもらえないのです。どうしてか。完全にイメージです。日本共産党と中国共産党の区別がつかない人が、この国民の9割以上。ほとんどの人が共産主義にさせられてしまうと考えていて、そんなことになったら大変だと思っているのです。それくらいに政治や選挙に興味がないということなのですが、真っ当な主張をしている人が選ばれない選挙を続けた結果が、今、コロナ禍で何の有効も手立ても打てない無能な政治を実現しているんだということは、皆さんに知っておいていただきたい話です。
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