【選挙ウォッチャー】 汚染水の海洋放出における「ヨウ素129」の問題点。
普段は、日本全国の選挙を取材し、どうしてそのような結果になったのかを分析し、皆さんにレポートとしてお届けする仕事をしている僕ですが、今から12年前は、さまざまな食品に含まれるセシウムを検査し、それを皆さんに公表していました。
野菜、肉、魚、キノコなど、どの食材がどれくらい汚染されやすく、気を付けなければならないのか。原発事故から12年経った今は、注意するべき品目も少なくなってきましたが、原発事故から数年は、特に子どもたちが食べるものに関して、ある程度の警戒が必要でした。
今ではすっかり反社会的カルト集団「NHKから国民を守る党」とゴリゴリに戦っている人というイメージもあるかもしれませんが、当時、放射能測定の世界では、それなりに知られていた存在で、「データがあれば、食べるか食べないかを判断できる」ということで、皆様に測定したデータを無料でご提供してまいりました。
なので、このたびの汚染水の海洋放出の問題は、「選挙ウォッチャー」を仕事にしていながら、僕の専門分野であり、せっかく全国の「おっきいおともだち」に目をつけられましたので、かねてから懸念されている「ヨウ素129」について、なるべく分かるように解説したいと思います。
■ 「トリチウム処理水」は他の核種が問題
まず大前提として、東京電力は「主要7核種」と呼ばれる放射性物質について、それぞれ「ALPS処理後」の数値を一部公表しています。タンクによって、多少のバラつきがありますが、そこそこ少なそうに見えるデータにはなっています。
そして、僕は主に「セシウム134」と「セシウム137」を測定してきましたので、例えば、「セシウム137が0.42ベクレルだ」という数値の印象を聞かれたら、「そんなに高くないかもね」ということにはなろうかと思いますし、もし「ストロンチウム90」や「ヨウ素129」をまったく含んでおらず、トリチウムとセシウムだけしか入っていない水を海に流すというのであれば、僕はこの水を流すことに反対をしません。だからって「賛成」でもありませんが、海に流すことに「理解はできた」と思います。
しかし、人体にとって危険な核種と言える「ストロンチウム90」が、ここでは1リットルあたり0.22ベクレル検出され、「ヨウ素129」に至っては2.1ベクレルが検出されています。コバルト60、ルテニウム106、アンチモン125についても問題はあると思いますが、僕がよく知るところで「ストロンチウム90」と「ヨウ素129」は、海に流す総量を考えた時にけっして「低い」と評価できるものではありません。ここが「おっきいおともだち」との決定的な差で、「IAEAが大丈夫だと言っている」という話を断固として信じる人たちには、「低いと評価できない」と言っても通じないことでしょう。
日本政府や東京電力は「トリチウム処理水」と名付け、あたかも「トリチウム」だけが取り除けずに問題になっているかのようにアホを騙していますが、実際はトリチウムだけを問題にすることによって、他の核種に目が行かないようにしているのではないかと思わずにはいられません。
というのも、トリチウムが安全な物質とは言えないものの、簡単に言えば水素であるため、未知なる部分も多いとはいえ、「生物濃縮は起こりにくいのではないか」と考えられています。有機結合型トリチウムの蓄積の話もありますが、ここでは割愛します。そして、少なくとも、僕が測定しているセシウム、ストロンチウム、ヨウ素では生物濃縮が起こり得ます。つまり、薄めたところで生物濃縮が起これば、基準値を超える魚が見つかるようになってしまい、それを食べ続ければ人体にも影響を及ぼします。だから、口を酸っぱく「総量」が重要になるという話をしているのです。ALPSで処理した後の「ヨウ素129」の総量がいくらになるのかは、僕の知る限り、公表されていません。
■ 「ヨウ素129」の生物濃縮のメカニズム
2011年の福島第一原発事故の直後、東日本のほぼ全域に「ヨウ素131」の雨が降り、水道水まで汚染されたことがありました。参考までに「ヨウ素131」の半減期は約8日であり、原発事故から12年以上経った今では、まずお目にかかることはありません。
チェルノブイリ原発事故では、この「ヨウ素131」が小児甲状腺がんの原因になったことが科学的に認められており、医療的なケアを受けることになりました。一方で、小児甲状腺がんは非常に珍しく、一般的には100万人に1人と言われています。令和4年に生まれた赤ちゃんの数が約77万人なので、小児甲状腺がんになる子どもは、その年に1人いるかいないかということになりますが、福島では338人の子どもたちが甲状腺がんになりました。しかし、日本では「過剰診断」を主張する音喜多駿のような国会議員がいるぐらいなので、まったく認められていません。「がんの疑い」みたいな話ではなく「がん」と確定的に診断されているもので338人なので、過剰もクソもありゃしませんが、日本はそういう国です。
さて、水道水まで汚染されたことで、チェルノブイリの記憶から「日本でも小児甲状腺がんが発生してしまうのでは?」と心配された時、「日本人は日頃からワカメの味噌汁などを飲んでいるから、放射性ヨウ素を吸収しないんだ!」というエクストリームアホ理論が広がったのを覚えていますでしょうか。
確かに、海藻などには多くの「放射性物質ではないヨウ素」が含まれているため、安定的なヨウ素で甲状腺の中を満たしておけば、新たに放射性ヨウ素が入る余地が少なく、甲状腺がんをはじめとする病気になるリスクを減らすことができます。これが原発立地自治体で配られる「安定ヨウ素剤」のメカニズムです。
しかし、「ALPS処理水」という名の「ヨウ素129」を含んだ水を海洋放出した場合、海流に乗ってどこかに行くものもあるでしょうが、近隣の海底に落ちるものがたくさんあるはずです。そして、海底に落ちた「ヨウ素129」は、海藻の根から吸収されます。生物濃縮を起こすのは魚だけではなく、海藻もまた生物濃縮を起こします。セシウムで言えば、キノコなどを思い浮かべてもらえばわかると思います。まずは海藻が生物濃縮を起こして取り込み、その海藻を魚が食べ、その魚が体内で濃縮させ、それがまた大きな魚に食べられる形で生物濃縮を起こします。
福島第一原発事故の直後に、「セシウムも生物濃縮をしない」とする資料を水産庁が公開しているようですが、原発から遠く離れた地域を泳ぐ魚にも生物濃縮は起こっているし、鹿や熊といったジビエの肉を見てもらえば「生物濃縮をしない」というのが嘘であることが分かると思います。
この「ヨウ素129」の厄介なところは、「半減期が異常に長い」ということにあります。ヨウ素131が約8日、セシウム134が約2年、セシウム137やストロンチウム90が約30年という中で、「ヨウ素129」の半減期は約1570万年です。つまり、日本の海に流してしまうと、その周辺の海底は100年後も1000年後も、はたまた1万年後、10万年後も量が減らず、後世の日本人までもが影響を受ける可能性があります。要するに、セシウムやストロンチウムは90年後に8分の1ぐらいにはなっているけれど、「ヨウ素129」はほとんど減らずに残り続けることになってしまうのです。「半減期って知ってますか?」とホザいてきた「おっきいおともだち」のみんなは、本当に半減期についてを勉強してくるべきでしょう。
そして、生物濃縮などによって「ヨウ素129」が頻繁に検出されるようになってしまうと、人々の甲状腺を傷つけ、甲状腺がんやパセドゥ病などを患う人が増える可能性が出てしまいます。しかし、チェルノブイリでは認められている小児甲状腺がんさえも認められない国なので、病気になったところで「ヨウ素129」との関係性が疑われることはないと思います。これも放射性物質の厄介なところです。
■ なぜ「ヨウ素129」が心配なのか
放射性物質というのは、核種によって危険度が異なります。
例えば、僕が測定しているセシウムを1ベクレル食べたところで、それでただちに何かの病気になることはなく、その後の生活の中でセシウムを摂取しなければ、多くは排出されていきます。
セシウムを体に取り込んだ場合、セシウムはカリウムとよく似た性質があるため、体がセシウムをカリウムだと間違え、筋肉に溜まります。将来的には心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが増えますが、ヨウ素やストロンチウムに比べると、それほど危険度は高くないと考えられます。
一方、プルトニウムを1ベクレル吸うことがあれば、それだけでも肺がんになるリスクは大幅に上がります。ただし、原発事故で放出されたとされるプルトニウムは、セシウム1に対して、プルトニウムは100万分の1となっていますので、セシウムが100万ベクレルだった時にようやく1ベクレルあるという「少ない核種」となっています。ですから、セシウムの1ベクレルと、プルトニウムの1ベクレルは、同じ1ベクレルだとしても全然違いますし、半減期も違います。また、プルトニウムは「飲む」と「吸う」でも危険度が異なります。プルトニウムは「吸う」が最も危険です。
つまり、核種によって人体に及ぼす影響が異なるため、トリチウムという生物濃縮が起こりにくく、放出するエネルギー量が少ない核種を中心に論じることが、問題となり得る「他の核種を隠す」ことになり、東京電力や日本政府がトリチウムを強調するのには意味があるわけです。
ヨウ素129は、ヨウ素131と同様、人の甲状腺に影響があると考えられます。ヨウ素131は、当時の福島の子どもたちに影響が出てしまったのではないかと考えられるものの、チェルノブイリでは認められ、日本では認められていません。また、集中する部位が「甲状腺」という小さな器官になりますので、セシウムよりも影響が大きく、半減期が約8日であることからして、体からはとっくの昔になくなっているはずですが、ある程度の時間が経って、その影響が出始めるという性質があります。
先程も書いたように、ヨウ素131の半減期が8日であるため、2023年時点でヨウ素131が食品から検出されることはありません。もしあるとすれば、それは「どこかで事故が起こっている」か「福島のデブリが再臨界を起こしている」の2択になり、今のところ、そんなのっぴきならないことは確認されていません。
しかし、このたびの汚染水には「ヨウ素129」という、原発事故では出会わなかった「デブリ由来の核種」が存在しました。タンクによっては1リットルあたり2ベクレルほどの水ではありますが、これを30年にわたって放出し続けると言いますから、総量を考えれば、数年後から数十年後には影響が出ても不思議ではありません。そして、一度影響が出てしまえば、半減期が約1570万年であることから、半減期による自然減衰はまったく期待できず、周辺海域の汚染は半永久的に続くことになります。
影響が出るまでに時間がかかるため、今は「薄めれば大丈夫」という理論で「ヨウ素129」を少量ずつ流し、当然、流し始めたばかりの頃は「ほとんど出ていない」と言えてしまうのですが、影響が目に見え始めると「対処のしようがない」ため、ただただ汚染され続けることになります。ただ、これにも日本には伝家の宝刀があります。日本は、いざとなった時は「1リットルあたり300ベクレルまでならヨウ素を飲める」にできる安全基準変動型国家なので、もし汚染が確認されるようになったとしても、日本国内で問題視されることは考えられません。基準をずらして「安全だ」と言えば、こうして発狂している「おっきいおともだち」が「安全だ!」とエコーしてくれるので、昨日まで危険だったものが一夜にして安全ったら安全になる素敵な国なのです。つまり、この国では基準なんてあってないようなもの。
科学的に考える海外の国々からは海産物を買ってもらえなくなるかもしれませんが、今と同じで、日本国内で「風評被害だ!食べて応援!」と言いながら消費することになり、今とあまり変わらないのではないかと思います。
つまり、究極的なことを言えば、「ヨウ素129による長期的な健康被害が懸念されるが、大量に被曝したと考えられる福島の子どもたちの小児甲状腺がんさえ否定される国で、もっと影響がわかりにくいヨウ素129による健康被害なんて、認められるはずがない」ということになり、結論としては日本では健康被害が出たとしても『安全』ということになるのではないでしょうか。
■ 選挙ウォッチャーの分析&考察
最後に、僕が主張したい最も重要なことに触れておきます。
動画でも少し説明しているのですが、福島第一原発から放出されている最もヤバい水は、一生懸命「処理水」と呼んでいるALPSを通った水ではありません。地下水を通じ、処理されることもなく海に流れてしまっている高濃度の「汚染水」です。
これを「処理水」と「汚染水」という言葉で分けるとするならば、「処理水」は海洋放出するために近隣の海水を混ぜているので、「汚染水の混ざった水」とともに流されています。
そして、この「汚染水」の方は、まさにALPSを通る前の非常に多くの核種で汚れた状態にあります。しかし、日本政府や東京電力は「汚染水」が海に流れている事実を隠すために、わざわざ「処理水」の安全性を懸命に謳い、「汚染水が混ざった海水と処理水を混ぜて、トリチウムだけで安全性を語っている」という状態です。これまでも説明しているように、薄める必要がないものを、なぜ薄めているのか。ここが一番のポイントなのです。