亡くした彼の話。
夏がきた。
何度目の事になるだろう。
じっとりと汗が湧き出るこの季節。
そんな夏が来るといつも思い出す人がいる。
24才になるまで付き合っていた彼の事。
彼は色々と問題を起こす人だったが
とにかく素敵な人だった。
12才上の人だった。
今は幾つになっただろう…
私はとっくに彼の歳を追い越していた。
彼はコピーライターが本業だったが
その後はフォトグラファーだった。
色々な事を教わった。
夜の街の歩き方から
写真の撮り方、
ファッション、
音楽、
映画、
本、
料理、
仕事まで幅広く。
亡くした当時、私は仕事に明け暮れていた。
皮肉なもので彼が紹介してくれた仕事だ。
・
彼が居なくなっていても
1ヶ月間、気が付かずにいた。
今の時代と違ってSNSなども無く
有線電話のみが連絡手段だった。
連絡がつかなくなって
初めはまたどこか旅行に行っていると
思っていたが
胸騒ぎを覚え実家に連絡をとり
そして亡くなった事を知った。
・
その時の衝撃が人生で強烈過ぎて
覚えていない程だ。
記憶を無くすくらいに悲しく
脳みそが溶けるくらいに泣き
もう歩けない程だった。
自分でも死ぬかもしれないと感じた時
周りの同僚達が救ってくれた。
なので私は今日まで生き延びている。
とても感謝している。
この後も色々な事を経験したが
その事を超えてくる出来事はないと思う。
・
でもそんなドラマチックな経験はいらない。
息子には普通に大人になって
普通に幸せになってほしいと願う。
親になって分かったことも沢山あるが
明日も身の回りのことでいっぱいになる。
それでも生きていく。
そんな人生でも愛おしい。
生きていれば何とかなる。
今はそう信じている。
おやすみなさい。
良い夢を…
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