見出し画像

プロ野球表彰の記者投票はどうあるべきか

11月26日に開催された「NPB AWARDS 2019」の各表彰発表をもって、今シーズンも完全に終了した感じである。

NPB AWARDSには記録による表彰(首位打者や最多勝利投手など)とは別に記者投票による表彰がある。

最優秀選手(MVP)と最優秀新人(新人王)、そしてベストナインである。

NPB AWARDSではないが、三井ゴールデングラブ賞も記者投票で選ばれる表彰だ。

これらは投票する記者の主観が入るため、その投票結果はプロ野球ファンからの批判に晒されることが多々ある。

今年は特に東京ヤクルトの村上宗隆選手と阪神の近本光司選手による高レベルな新人王争いが論争を呼んだ。

結果的には村上選手が新人王に輝いたが、例年なら表彰されてもおかしくない好成績を残した近本選手には連盟特別表彰として「新人特別賞」が与えられた。

近本に投票した一部記者らがこの投票結果に対して不満の声を上げている。

サンスポの阪神番記者の意見がそれらを代弁していると言ってよいだろう。

遠く鳴尾浜球場での練習取材を終えた箭内桃子記者も不満そうだった。「近本クンは盗塁王を取ったんですから。タイトルですよ。村上の成績も立派ですが、タイトルは取っていませんよね」
普段は温厚篤実のキャップ大石豊佳も納得がいかない様子だ。「もちろん近本ですよ。安打数、盗塁王。村上は本塁打数はすごいけれど、打率が低すぎると思うんですよね。あと、神宮球場の狭さも…」
最後にこの日の当番デスク席に陣取る、昨年までの阪神キャップ・阿部祐亮デスク。「当然、近本です。あの長嶋さんを安打数で超えたんですから。盗塁王ですし。それに、やっぱり新人王は1年目の選手だと思うんですよ」

ネットファンの間ではこれら阪神番記者の意見に対して批判する声が散見された。

私に投票権があれば迷うことなく村上選手に1票を投じていたが、サンスポの箭内桃子記者、大石豊佳記者、阿部祐亮記者は実名で記事を載せた点に関して一定の評価はしている。

村上選手に投票しなかった132名の記者の中では評価できるという意味だ。

今年はMLBでも最優秀新人の記者投票で一波乱あった。

ナ・リーグはニューヨーク・メッツのピート・アロンソ選手が53本のホームランを放ち、新人最多本塁打記録を更新し、ナ・リーグの本塁打王にも輝いたため、文句なしの新人王という前評判であった。

ナ・リーグではマイク・ソロカ投手(ブレーブス)とフェルナンド・タティスJr.内野手(パドレス)も最終候補に残っているが、同サイトは「アロンソがナ・リーグ新人王を受賞するための最高の条件は、彼に不利な条件が一切ないことだ」と明言。ソロカとタティスに敬意を示しつつも「満場一致でアロンソが受賞しなかったら驚きだ。彼が受賞しないようなことがあれば、全米野球記者協会主催の表彰において、史上最高の番狂わせのひとつになるだろう」と言い切った。

MLB公式サイトがここまで言い切ったにも関わらず、1位票が1票だけソロカ投手に投じられたのだ。

この番狂わせを生んだ1票を投じたアンドリュー・ バッガリー記者は釈明を迫られることになった。

「アロンソはホームランの記録を塗り替えたが、ソロカは他のスキルでエリートレベルであった。彼は(ホームランをあまり)打たれなかった」」と指摘。「彼が打たれた飛球の内、ホームランは6.5パーセントだった(MLBの平均は10.9パーセント)」などと説明し、「ソロカのホームランを打たせない能力が素晴らしかったので彼に投票することにした」という。

なぜバッガリー記者がソロカ投手に1位票を投じたのか分かるかというと、全米野球記者協会(BBWAA)が記者ごとの投票結果を公開しているからだ。

MLBのMVPと新人王の記者投票が実名投票であることはNPBとの大きな違いである。

もう1つ大きな点は各チームの番記者が同じ人数ずつ投票権を与えられており、公平性が担保されていることだ。

NPBの記者投票は人気球団の番記者が多く、不人気球団の選手にとっては不公平ではないかという批判の声が多い。

日刊スポーツは、セ・リーグでは阪神の5人が最も多く、巨人が4人、中日、広島が2人で続き、ヤクルト、横浜はそれぞれ1人。パ・リーグでは日本ハム4人、ソフトバンク3人、ロッテ以下4球団が1人ずつという布陣だ。これがスポーツ報知になると巨人7人、阪神4人のほかは、セ・パ10球団に各1人という配置になる。

番記者の人数=投票者の人数では必ずしもないが、この「格差」による影響は決して小さくないだろう。

ここまでは記者投票の在り方について議論をまとめてきたが、そもそも記者投票自体の意義について考えてみたい。

2009年のア・リーグMVP投票で1人ジョー・マウアー選手(ミネソタ・ツインズ)に投じなかった小西慶三記者は現地で厳しい批判の声に晒された。

上記のコラムで指摘されているように、記者投票は「取材記者と選手の関係が近すぎて利害相反に陥る恐れ」がある。

一部の新聞では記者に投票を禁じているところもある。

たとえば、ニューヨーク・タイムズ紙も、ロサンゼルス・タイムズ紙も、所属記者がMVPやサイヤング賞の投票に関わることを禁止しているが、取材対象である選手との公平な関係が損なわれ、記者が「利害相反」の立場に立たされるのを危惧するからに他ならない。

エド・シャーマン氏はニューヨーク・タイムズ紙でこう述べている。

「ジャーナリストは野球殿堂に投票すべきではない。その理由は簡単だ。ジャーナリストはニュースを報じる者であり、ニュースを作る者ではないからである」「それは殿堂だけではなく、全てのスポーツ表彰への投票参加にも当てはまることだ」

このような批判がNPBの記者投票においてなされることは殆どない。

自分の投じた1票がその選手の人生を左右することに対して、記者たちはその責任をどれほど理解しているのだろうか。

プロ野球選手の契約更改における査定項目は球団によってまちまちであろうが、MVPやゴールデングラブ賞のような記者投票結果が全く考慮されないことはないだろう。

また野球界における最高の栄誉である殿堂入りにおいても、MVPを何回受賞したかは大きな評点になっているはずだ。

これら表彰に恵まれなかったために引退後のキャリアでも不遇をかこつ選手も多いはずだ。

公平な投票をするだけの能力が無い記者には棄権する勇気も必要である。

※こちらの記事も併せて読んで下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?