ハムストリングス「ルーマニアンデッドリフト」
トレーニングを学術的に考えるYouTubeチャンネル「CHICKEN HEART TV」。
今回は、ハムストリングスを鍛える「ルーマニアンデッドリフト」を解説します。
トレーニング実技は、文字だけではイメージしにくい部分もあると思いますので、下記の動画も合わせてご覧ください。
■ どこを鍛えられる?
ももの後ろにあるハムストリングスという大きな筋肉を鍛えることができます。
お尻にある大臀筋も活動しますが、メインで鍛えることができるのはハムストリングスになります。一般的には、膝関節の屈曲と伸展で鍛えるイメージがあるかもしれませんが、股関節を伸展する機能もあるため、ルーマニアンデッドリフトのように股関節の屈曲と伸展を繰り返す種目でも鍛えることができます。
ハムストリングスは、骨盤にある坐骨結節というところに起始しています。
上体が前方に倒れるとこの坐骨結節が引き上がり、ハムストリングスが大きくストレッチされるため、ストレッチ種目として分類されます。
また、背中をまっすぐに保たなければいけないため、その際に脊柱起立筋も活動します。
■ 足幅はどれくらい?
足幅は、腰幅もしくは、肩幅程度がオススメです。
完全に足を閉じてしまうと行いにくい場合があります。
① 腹部に脂肪が多い場合、腰が丸くなる原因になる
前傾した際に腹部の脂肪が大腿部にあたることで腰が丸くなりやすくなります
② 男性の場合、局部に圧迫感がある方がいる
女性は問題ないと思います。男性の場合も個人差がありますので、前傾しやすい足幅で行ってください。
■ パワーグリップ
デットリフトに比べると扱える重量が下がるため、握力が問題ない方は必ずしも必要ではありません。ただ、握力が辛くてハムストリングスが追い込みきれないようであれば、使用することをお勧めします。
「握力のトレーニングにもなる!」と言われることがありますが、握力を鍛えたい場合は別で行いましょう。
パワーグリップを使用する細かなデメリットとしては、肘関節の負担が大きくなるというものがあります。ルーマニアンデッドリフトでは、バーベルを自分の体に近づけながら行うと肘関節は通常可動しない方向にストレスがかかり、そのストレスは靭帯によって支えられます。ストレスの大きさは重量に依存し、これが肘関節を痛める原因になります。
パワーグリップを使用していない際には、前腕の筋が大きく活動するため、それらの筋によっても固定されます。そのため、パワーグリップを使用時にも前腕の力を入れておくことでストレスを抑えることが期待できます。
■ 深さの目安は?
基本的には、ハムストリングスが十分にストレッチする位置が目安です。
上半身の角度やバーベルの位置を目安にすると個人差を埋めることができないので、筋の伸張度を目安に下す深さを設定してください。
バーベルを持つ前に動作をしてみて、ハムストリングスの伸張度を鏡を見ながら確認してみてください。
⬜︎ ハムストリングスが硬い人は?
ただし、ハムストリングスが非常に硬い場合、可動域が小さくなりすぎてしまいます。これでは、バーベルから股関節までの距離が近すぎてしまい、ハムストリングスにかかる負荷が小さくなってしまうため、その場合は膝関節の屈曲を少し大きくしましょう。
ハムストリングスは、股関節を膝関節の2つの関節を跨いでいるため、膝関節の屈曲角を変えることでハムストリングの伸張度を調整することができます。
ハムストリングがかなり硬い方は、膝関節の屈曲角を調整して、可動域を大きくとれるようにしましょう。
■ 肩甲骨は寄せるべき?
指導の現場でも「肩甲骨を寄せましょう!」とよく言われますが、これは肩甲骨を寄せることが重要なのではなく、背中を真っ直ぐにし腰を丸めないことが重要なのです。
⬜︎ なぜ「肩甲骨を寄せろ!」と言われるのか
上体が前傾していき、肩甲骨を寄せると胸が張れるので背中が丸くなることを抑えることができまます。反対に肩甲骨が外に開いてしまうと、それに伴って背中が丸くなりやすいのです。
そのため、背中を真っ直ぐにできるのであれば、肩甲骨は寄っていても寄っていなくてもいいということになります。
⬜︎ 正しいフォームを作るきっかけにすぎない
同じ目的で上体を倒したときに「前を向いてください」とも言われます。
これは視線が下を向くと頸椎が屈曲するため、これにより胸椎、腰椎と連動して、結果として背中が丸くなりやすくなることを防ぐために使われます。なので、これも背中が真っ直ぐであれば下を向いても問題ありません。
これらは正しいフォームを作るためのきっかけとして利用しているだけで、それらが目的ではないのです。
■ 背中は反っていいの?
過剰に背中を反ってしまうと背骨と背骨の間にある椎間板にストレスがかかるため、スクワットのような姿勢種目で行ってしまうと怪我のリスクにもなります。
しかし、ルーマニアンデッドリフトでは、重りによって背骨は曲がる方向に負荷がかけられています。このような種目でしっかりと10RMなどで追い込む場合、背中を丸くする方向に大きな力が加わるため、反るようなイメージで行った方が結果的に背中を真っ直ぐに保つことができるのです。
疲労度に比例して、背中は丸くなりやすいため、後半になるほど背中を反るイメージを強く持った方がフォームが崩れることを予防することができます。
また、ルーマニアンデッドリフトでは、スクワットほど椎間板へのストレスは大きくありません。上体を起こしきった時に反る必要はありませんが、前傾させた時には反るイメージで行った方が背筋が伸びたフォームで行いやすくなります。
■ 呼吸で気をつけることは?
通常は、下す時に吸って、上げる時に吐く形で行われます。
しかし、ルーマニアンデッドリフトでは、吸い込んでから前傾させることをおすすめします。先に解説しているように、この種目では背中を丸める力が加わります。前傾する時に息を吸っても大きく吸い込みにくく、その分、腹部の内圧が上がりにくく、体幹部を固定する能力も高めることができません。
そのため、腹部の内圧を上げて、体幹部の固定力を高めるためにも大きく息が吸える立位の上体で吸い込み、その後吐き出しながら切り返すことがおすすめです。
この方法のデメリットは、血圧が上りやすいという点。
アスリートなどトレーニングを高強度で行う方は行いやすいと思いますが、一般の方は、通常の倒れながら息を吸う形でも問題ありません。血管が弱くなっている高齢の方や高血圧の方は行わないようにしてください。
■ 腰がめっちゃキツイけど大丈夫?
この種目では、正しいフォームで行っていても主動筋であるハムストリングスではなくて、腰(脊柱起立筋)が辛くなる方がほとんどです。
なぜ、腰(脊柱起立筋)が辛くなるのか?
ルーマニアンデッドリフトの動作中、脊柱起立筋は、背中が丸くならないように力を発揮しています。体が前傾した時にハムストリングスでコントロールできる重量に設定しているため、直立姿勢でハムストリングスにかかる負荷は小さくなり、代謝物も流れやすいのです。
それに対して、脊柱起立筋は常に負荷がかかり続けるため、代謝物が蓄積し、痛みを感じることもあります。
なので、ハムストリングスの強いストレッチ感はあるが、代謝物が溜まって実際に辛さを感じることが多いのは腰ということになります。
感覚的な辛さは、腰の方が大きく感じるかもしれませんが、物理的なストレスはハムストリングスの方が圧倒的に大きいため、翌日はハムストリングスが猛烈な筋肉痛になるはずです。
■ バーベルを上げ切った後に腰を前に突き出す?
ルーマニアンデッドリフトは、ストレッチ種目なのでハムストリングスが収縮する直立の状態では負荷を大きくかけることができません。そのため、立位の姿勢から大きく腰を前に出すような形で収縮ポジションでも負荷をかけようとする方がいます。
これについては、あまり効果は大きくありません。
バーベルを上げ切ったポジションでは、股関節とバーベルの距離がすでに近いために大きな負荷をかけることはできないのです。
ハムストリングスが収縮した時に大きな負荷をかけたいのであれば「バックエクステンションを利用したルーマニアンデッドリフト」にすると行うことができます。または、マシンレッグカールでも全可動域で負荷がかかるため、収縮ポジションでも負荷がかかり続けます。
■ レッグカールとの違いは?
ハムストリングスには、股関節と膝関節をまたぐ筋肉(多関節筋)と膝関節のみをまたぐ筋肉(単関節筋)の2つが存在しています。
ルーマニアンデッドリフトで主力となる動作は股関節の伸展になるため、膝関節にしか関与しない筋肉は鍛えることができません。なので、ハムストリングスの中でも膝関節のみをまたぐ筋肉を鍛えたい場合は、レッグカールで膝関節の屈曲で鍛える必要があります。
・ルーマニアンデッドリフト → 多関節筋を鍛えられる
・プローンレッグカール → 単関節筋がメインで鍛えられる
・シーテッドレッグカール → 多関節筋も単関節筋も鍛えられる
細かく鍛え分けたいマニアックな方は、こんな形で行ってみてください。
一般の方の場合、安全性からもレッグカールで十分鍛えることは可能です。
■ スティッフレッグデッドリフトとの違いは?
一般的な認識としては、上記のような違いがあります。
スティッフレッグデッドリフトの方は、膝関節伸展しているため、ハムストリングスのストレッチがより大きくなりますが、基本的に行っている動作は同じものになります。
ルーマニアンデッドリフトでは「膝関節を屈曲することによりハムストリングスが緩むため、大臀筋の活動が高まる」と説明されることがありますが、軽度屈曲した程度では、ハムストリングスの伸張度は極端に変わることはなく、大臀筋への刺激が大きくなった感覚も得られないと思います。
「伸張度が下がることによって、その筋の活動が低下する」ということは実際におきますが、ルーマニアンデッドリフト程度では、その変化は微々たるものです。膝関節を少し大きめに屈曲したとしてもその分股関節屈曲を大きくしてしまえば、伸張度は変わらないことになってしまいます。
① ルーマニアンデッドリフトで大臀筋は大きくストレッチされない
② 大臀筋は、股関節がニュートラルな状態からの伸展がメインの作用になる
また、大臀筋は上記の2つの理由からルーマニアンデッドリフトでは効きにくくなっています。
■ 前半と後半でバーベルまでの距離が違う理由
前半は股関節からバーベルを離して下ろし、バーベルを自分の体側に引き寄せる形で行っていました。
これは、バーベルから股関節までの距離を変えることで負荷の大きさを調整しています。元気な前半は大きな負荷をかけるために、股関節からバーベルを離し、疲労で上がりにくくなってきた後半はバーベルを自分の体側に引き寄せて、股関節との距離を短くすることで負荷を小さくしています。
中重量や効かせることを目的に行う場合には行いやすいですが、高重量では転倒の危険もあるため、おすすめしません。バーベルが体から離れるとフォームも崩れやすくなるため、フォームが完璧にできる方のみ行ってみてください。
■ ハムストリングスに筋肉痛が出ない人は…
ルーマニアンデッドリフトは、ハムストリングスのストレッチ種目のため、物理的刺激がかかりやすく、翌日筋肉痛が残りやすい種目といえます。筋肉痛がないといけないわけではありませんが、強い負荷がかかった指標にはなります。
翌日、ほぼ筋肉痛がないような方は2つの理由が考えれれます。
① 負荷が足りていない
フォームを習得できたらが前提ですが、同じ重量では刺激に慣れてしまい、筋肉にとって不十分になっている場合があります。段階的に重量や回数を増やしていきましょう。
② 腰が丸くなっている
ハムストリングスは骨盤の坐骨結節という部分に起始しています。ここは、椅子に長時間座っていて痛くなる骨の部分です。
腰が丸くなった状態で上体を前傾しても坐骨結節が大きく引き上がらないために、ハムストリングスのストレッチが弱くなってしまいます。この状態では、ハムストリングスの伸張と収縮が起きにくいため、トレーニング効率が下がってしまいます。これを防ぐためにもトレーニング前にしっかりと背中を真っ直ぐにしたまま、上体を前傾させて、ハムストリングスがストレッチされるのを確認してから行ってみてください。
■ 事前疲労法を活用しよう
ルーマニアンデッドリフトで「脊柱起立筋が辛くてフォームが作りにくい」または「高重量を持つのが怖い」などでお悩みな方は、事前疲労法をおすすめします。
この事前疲労法は、目的にしている種目の前に、その種目の主動筋を先に疲労させるという方法です。
ルーマニアンデッドリフトで脊柱起立筋が辛い場合には、先にレッグカールを行って、その後にルーマニアンデッドリフトを行います。
これをすることでハムストリングスは疲労しているが「脊柱起立筋は元気!」という状態にするのです。これによって後から行うルーマニアンデッドリフトで先に脊柱起立筋が限界になることを予防できます。また、ルーマニアンデッドリフトで扱える重量も下げることができるため、高重量が不安な方にもおすすめです。
⬜︎ 事前に行う種目の選び方
目的としている種目の前に行う種目は、ハムストリングスが使われればなんでも良いわけではありません。「ハムストリングス(対象筋)が使われる+脊柱起立筋(補助筋・固定筋)がほとんど使われない」ことが重要な条件です。
他にもベンチプレスで上腕三頭筋ばかり辛くなる場合、ベンチプレスの前にダンベルフライを行うのも事前疲労法を利用した工夫になります。
このような悩みがある方は、事前に3セットほど行っていただいてから実施する方法をぜひ試してみてください。
■ お知らせ
ルーマニアンデッドリフトの実技は、以上となります。ご覧いただきありがとうございました!noteでは、機能解剖学だけでなく、トレーニング実技やYouTubeチャンネルで公開していないオリジナル記事も公開中です!※一部有料
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