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【王 貞治×道場六三郎】業界のレジェンドが初の真剣対談で見せた〝現役感〟——『致知』編集長が綴る

🎊9月1日、おかげさまで46周年!🍂

毎号、古今東西の言葉を特集テーマとして発刊する『致知』。今月のテーマは「この道より我を生かす道なし この道を歩く」です。

明治・大正・昭和にかけて活躍し、生涯に7,000篇を超える作品を執筆した文豪 武者小路実篤が色紙によく揮毫した言葉です。〝作家として生きる以外に自分の道はない、この道をひたすら深めていくだけだ、決して器用ではないけれども自分は自分なりの生き方を探究していこう〟――そんな思いが込められているのでしょう。

今号には、この言葉を体現する人物が数多く登場。白眉は、料理と野球――それぞれの「道」を一筋に歩み続けてきた二人の超一流プロ、和食の神様・道場六三郎さん(93歳)、世界のホームラン王・王貞治さん(84歳)です。

若き日から心・技・体を錬磨して並外れた実績を上げ、その経験をもって後進を導きながらいまなお第一線で活躍、業界のレジェンドとして存在感を放つお二人の対談は、本誌46年の歩みの中でも初めてのこと。
「人はいかにして大成するか」「勝負を制する要諦」「逆境に処する心得」……道を極めた人物同士ならではの、息もつかせぬ人間学談義に魅せられます。

気力旺盛といった様子の両氏。左が王さん、右が道場さん。

小細工はしない、正々堂々と勝負する

7月9日(火)、都内ホテルにて行われた対談取材では、共に一道を極めた者ならではの深奥な話が次々に展開され、「体力的に1時間半を限度にしてください」と言われていた当初の予定を超過して2時間に及びました。誌面にはその内容を凝縮して11ページ、約14,000字の記事にまとめました。

発刊から10日が過ぎた現在、続々と反響をいただいております。

お二方とも、以前の『致知』にご登場いただいたことがあり、個人的にも面識はあったそうですが、本誌上での真剣な対談は初めて。そこで語られた内容は下記の通りです。

  1. 小細工はしない 正々堂々と勝負する

  2. 見られている意識を常に持つ

  3. 結果ではなく過程を自らに厳しく問う

  4. 健康の秘訣は小さな勇気で一歩踏み出す

  5. 今日まで第一線で活躍し続けられている理由

  6. 〝世界のホームラン王〟はかくして生まれた

  7. 〝和食の神様〟が大切にしている原点

  8. 勝敗を分けるのは無心になれるか否か

  9. 逆境とはより高い頂に到達するための跳躍台

  10. 強いチームをつくるために監督として大切な心得

  11. この道一筋に歩む中で掴んだ「人生で一番大事なもの」

驚かされたことの一つは、常人なら脂が乗り切った時期を過ぎ、老い衰えていく年齢にもかかわらず、ピリッとした雰囲気をまとって会場にいらしたことです。既に反響をいただいている対談の中身を、少しだけご紹介します。

道場 きょうは久しぶりに憧れの王さんにお会いできるということで、ここのところ緊張が随分続いていました(笑)。

 道場さんの記事(『致知』2024年5月号)を読ませていただいてその生きざまに感動したものですから、こういう対談の機会は非常に有り難いと感じています。

道場 200冊もお買い求めくださったそうですね。

 はい。ホークスの選手たちに読んでもらおうと思いましてね。
彼らはいろんなことで壁にぶつかっては跳ね返されて、常に迷い道に入っているようなところがあります。その点、93歳のいまも新しいことにチャレンジし、前に進もうとされている道場さんの姿勢は大いに参考になるんじゃないかなと考えたんです。
 やっぱり道場さんのように現役の感覚を持っている人は強いですよ。年齢は関係ないと思います。姿勢もそうですし、気持ちの上でも張りが出ますよね。

道場 生きている限り、「昨日よりもきょう、きょうよりも明日」と高みを目指して倦まず弛まず歩んでいこうと、気が漲(みなぎ)っています。そういう心意気は年齢を超越するのかもしれません。

 前回の記事で「流水濁(にご)らず、忙人(ぼうじん)老いず」という言葉を紹介されていましたけど、あれは素晴らしい言葉ですね。

道場 水は流れているから清らかなのであって、溜(た)まるとどんどん濁っていくように、人間もまた、動きが止まると老いてしまう。

 私自身は40歳で選手を引退しましたし、監督も68歳の時に辞めましたから、どうもちょっと濁りつつあるなと(笑)。道場さんが羨ましいです。やっぱり現場の輪の中にいないとダメですね。

道場 僕はもうほとんど厨房には立っていませんけど、未だに店の献立替えの時には必ずチェックしています。僕の目から見るとまだまだ欠落があるんですよ。旬の外れた食材を使っているとかやり方に無理があるとか。近頃は小細工する料理人がいるんです。そういうのが僕は好きじゃない。
「道場の料理に小細工なし」って言っているんですが、食べておいしいのはもちろんのこと、見た目も直感的にパッと感動を覚えるような盛りつけをしないといけない。相も変わらずという料理は「またか」って嫌になっちゃう。やっぱり心動く料理こそが生きた料理だと思うんです。

 野球でも小細工して勝てたらこんな楽なことはないんですけど、それでは絶対に長続きしません。いずれ化けの皮が剝(は)がれる。どんな世界でも、いまはすぐに答えを求める、答えを出そうとするのが流行(はやり)のようです。
 しかし、答えを出すまでの過程で努力することが大事なんですよね。常に「もうこれでいい」ってことはありませんから。小細工をしたりすぐに答えを求めたりしていては、結果的には本物に手が届かなくなってしまうと思います。

道場 うまく見せようという欲に走り過ぎると、どうしても料理自体が嫌らしく下品になるんです。だから、見せようとする心よりもお客さんに喜んでもらおうという心が大事じゃないでしょうか。

 自分が主じゃなくて、お客さんが主なんですね。我われの世界も勝った時と負けた時では野球場から帰るお客さんの姿は全然違います。お客さんは本当に正直で、勝ったら悪いことも全部帳消しにしてもらえますから(笑)。お客さんが嬉き々きとして帰る姿を見ると、「ああ、きょうはいい試合ができてよかったな」って思います。
 野球も料理もお客さんがいなかったら成り立たない仕事ですよね。

道場 ああ、もうその通り。僕がいつも一番気にかかるのは、お客さんに喜んでもらえたかなということです。「きょうの料理、大丈夫でしたか?」と聞いて、「おいしかった」「また来るよ」って素直に言ってくれると、「嬉しい」「有り難いな」と思うんです。もう二度と来たくないと思われたら、堪まったものじゃない。

 まさに面と向かっての真剣勝負ですね。

道場 ええ、そうです。お客さんの喜ぶ笑顔を見ることが僕の生きがいです。

『致知』2024年10月号 特集「この道より我を生かす道なし この道を歩く」p.62

常に生きた料理、感動されるプレーを目指してきたお二人。特別な言葉でなくても、節々に長きにわたる実践に基づく仕事論が光ります。料理にも野球にも詳しくない、そんな方もきっと様々なヒントを得られる対談になっています。

王貞治さんに投げかけた直球の質問とその回答

対談が白熱したこともあり、紙幅の都合上、どうしてもカットせざるを得なかったエピソードがありますので、編集長・藤尾允泰による取材手記より特別にご紹介します。

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メジャーリーグ史上最速で40-40(40本塁打&40盗塁)を達成し、さらには未だかつて誰も到達し得なかった史上初の43-43の記録を打ち立て、いまもその記録を伸ばし続けている大谷翔平選手に関する話題です。

通算868本のホームランを放った世界のホームラン王に、「大谷選手はなぜあれほどの活躍を遂げているのか」と直球の質問を投げかけたところ、王さんは鮮やかにこう打ち返してくださいました。

王 貞治 氏(撮影:齊藤文護)

「もちろん素質はあると思います。でも、素質プラス志。やはり大谷君は若い頃から心懸けが違っていました。彼が花巻東高校時代に取り組んだマンダラチャートは世に広く出ていますけど、高校時代から志を持っているっていう印象を受けます。自分の志に向かって一途に突き進むと。彼の姿を見ていると、生活臭がないんですよ。それだけ桁外れの努力をしているのだと思います。
 彼のチャートの中には、何歳でアメリカに行って、アメリカでホームラン王を獲るって書いてある。メジャーリーグで日本選手がホームラン王を取るなんて、絶対にあり得ないと思われていたにも拘らず、それを実現しましたから。望まないものは手に入らないってことですよね。
 間違いなく、いま世界で一番注目されている選手でしょう。彼は日本の野球をすごくレベルアップしてくれました。そして、野球をやっている人だけじゃなくて、野球に興味のない人も含めてみんなが勇気を持ったんじゃないでしょうか」

【編集長取材手記】王貞治さんが語った大谷翔平選手の「成功の秘訣」

これを受けて、道場さんが答えられます。

道場六三郎 氏(撮影:齊藤文護)

「しかし、やっぱりON(王・長嶋)の時代から、最近ではイチローや松井など、そういう日本野球界の歴史というか、各時代のトップ選手たちが活躍してきた下地が積み上がっていって、大谷選手が生まれたんでしょうね」

「ありがとうございます。そうですね。大谷君のようなスーパースターが出てきたから、これから日本のプロ野球選手も、他分野の人たちも、彼に追いつけ追い越せで頑張ってほしいと思いますね。誰かしらまた出てきてほしいですし、出てくると信じています」

【編集長取材手記】王貞治さんが語った大谷翔平選手の「成功の秘訣」

王さんは感慨深げにこうおっしゃいました。

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「世界のホームラン王」と「和食の神様」――異色の組み合わせながら、そこに通底する人間学談義には仕事や人生を成功へと導くヒントが凝縮されており、興味は尽きません。ぜひ本誌の対談記事をお読みください。

【期間限定 9/20まで】月刊『致知』創刊46周年記念キャンペーン開催中!

本対談を収録した『致知』10月号よりご購読のお申し込みをされた方には、WBC(2023年)で侍ジャパンを世界一へ導いた栗山英樹さんが「手放せない一冊」と序文を執筆された書籍『小さな幸福論』(致知出版社)をプレゼント🎁
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◇王 貞治(おう・さだはる)
昭和15年東京生まれ。34年早稲田実業高等学校を卒業後、読売ジャイアンツに入団。48年と49年三冠王。52年通算本塁打756本の世界記録を達成し、初の国民栄誉賞を受賞。55年通算本塁打868本の世界記録を最後に現役生活を終える。59~63年読売巨人軍監督。平成7年福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)監督就任(20年退任)。18年第1回ワールド・ベースボール・クラシックで日本代表監督を務め、優勝へ導く。21年より福岡ソフトバンクホークス会長。著書に『野球にときめいて 王貞治、半生を語る』(中公文庫)など多数。

◇道場六三郎(みちば・ろくさぶろう)
昭和6年石川県生まれ。25年単身上京し、銀座の日本料理店「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出す。その後、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」でそれぞれ修業を重ね、34年「赤坂常盤家」でチーフとなる。46年銀座「ろくさん亭」を開店。平成5年より放送を開始したフジテレビ『料理の鉄人』では、初代「和の鉄人」として27勝3敗1引き分けの輝かしい成績を収める。17年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。19年旭日小綬章受章。著書に『91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』(KADOKAWA)など多数。