切り抜き風景物語
【君の欠片】
彼女の髪がサラサラ〜となびくたびにふんわりいい香りがして、ドライヤーをかけてる彼女のそばにいるのが日常だった。
お風呂上がりの彼女を待つのを少しワクワクしていた。
そのときはそれが日常で気付けなかったけど。
朝の風景
少しだけ寝坊しがちな僕をいつも先に起きて朝ごはんを準備してくれて、僕の起きたタイミングでコーヒーをいれてくれた。
最初は一緒に朝ごはん食べようねと約束をした僕なのに、一週間も経たずに約束をやぶってしまった。
それを最初は謝ってたけど、いつの間にか謝ることすらしなくなって、少し寝坊するのが日常となっていた。
仕事の休憩の時は欠かさずに連絡をしていた。
お互いに離れた場所でも、何食べてて、このデザート美味しいから今度一緒に食べようねとか話ながら写真送りあったり、夕飯なにが食べたい?冷蔵庫の中身を相談しながらお互いにこれとこれ買ってきてとかも話てた。それが日常となっていた。
そして、忙しくて一度連絡できなかった日から彼女からも休憩の連絡はしてこなくなった。あのときは謝ることもせず、忙しからとだけ言って切ってしまった。
少し怒らせてしまったかもしれないと思ったけど、勝手に彼女はそんなこと気にしてないなんて思ってさ。家に帰っても彼女もそのことを言わないから、すっかり忘れてしまってた。
二人で休みを合わせて、休みは何をしてどこに出かけるのかを月曜日から話ながらその日がくるのを二人で楽しみにしていた日常。
ある時、たまたま急な仕事で彼女一人家でお留守番させてしまった。そのとき、急いで帰ったら、彼女はとても気持ちよさそうに昼寝をしていたから起こさずにそっと寝かせていた。物音をたてないようにその日の夕飯は僕が作った。とても嬉しそうに美味しいってカレーを頬張る彼女を見て、安心してた。
なにも気付かなっかった。
それが日常で結婚したら、夫婦だからってことで甘えていた。
そんなの夫婦なんだしって。
喧嘩とかもしないし仲良しだと思ってた。
それは僕だけだった。
彼女の部屋から見つけた離婚届けを見るまでは。
その本当の理由はわからない。
でもきっと小さな日常の不具合いが原因なのかと考えれば考えるほどどつぼで自分が嫌になる。
彼女に聞きたいんだ。
今たくさん聞きたいことあるのに聞けないんだ。
あのとき本当は怒ってた?
朝ごはん、一緒に食べるって言ったのにごめんね。
お風呂上がりの君が好きだった。
お休みの日は本当はゆっくり一人で過ごしたいときもあった?
夜ご飯、結局いつも買い物もメニューも一人でやらせてしまって、仕事してるのは君も同じだったのにね。
なのに、今日は魚か〜、肉食べたかったと言った日は、今、とても後悔してるよ。
なによりもこんな自分のことだけしか考えてない僕なのに、何も言わずにいてくれた。
それが僕は当たり前だと思ってた。
なのに君の心は限界超えていたんだね。
それを知ったのは、病院で君に最後言われた言葉だった。
夫婦なのにおかしいな。
死ぬときも一緒じゃないんだね。
もう、待たないから。
今更だけど、これからはきっと君をしあわせにできると思う。だから一緒に生きてほしいと最後のお願いしたんだけど、君は、言葉どおり待たずに先に逝ってしまった。
その後に君の部屋から離婚届を見つけたんだ。
医者の診断書と一緒に。
知らなかったのは僕で、君は言わなかったんじゃなくてこんな僕に言えなかったんだと。
そして最後まで僕を愛してくれていたんだよね。
きっと君は、離婚すれば、また僕が新しい人と恋に落ちて、幸せになることまで考えてくれてたんだ。
でもそれはしない。
できないんだ。
君よりも僕を大事にしてくれる人なんかもう絶対現れないし、君を幸せにしてあげられなかった僕にはその権利も価値もない。
僕は君とずっと夫婦だから。
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