短かい贅沢

家での映画鑑賞で「三大ダラシナウォッチング」と言えば、
ながら見・ぶちぶち見・寝落ち
この辺りが挙げられるのではないかと思う。

これ、ぜーんぶ普段の僕である。
自分は映画が好きだ。好きなのだけど、集中した鑑賞が実はほとんど出来ていない。ときには1本観るのに1週間位かかってしまったりする。きっと、せっかく表現されているものをボロンボロンと大量に取りこぼしている。ほぼ観ていないも同然じゃねえか、と言われてしまえば返す言葉が無い。

何が悪いって、作品1本分の“時間”を確保せずに観始めてしまうのが全ての元凶。「観たいなァ」と思っていた作品が配信されていると、ついなんとなく家事の合間なんかに観始めてしまう。そこをグッと我慢して、タイミングと環境を整えて観るのがベストなんだって、わかっちゃいるのにやめられねえ。だってさ、暮らしの中で90分とか2時間のまとまった時間を確保するのって、そう容易なことじゃあないのよ。ホームシアターとか、スピーカーとか、そういうのも贅沢だけれど、実は自由に扱える“時間”こそ、目には見えない贅沢品である。

それじゃあもうアレか、ついに禁忌のファスト映画(早送り視聴)に手を出すしかないのだろうか…やるのか?やってしまうのか?…
否、逆転の発想。
長い映画が観れないってんなら、映画を短くすればいいじゃない。
そう、短編映画を観ればいいのである。

そんなわけで、短編映画専門のサブスクリプションサービスというものがあると知り、登録してみたのでした。

まず月額が370円という価格設定がありがたい。怒られづらい。
そして、もちろん作品が短い。30分くらいのものから、5分前後のすごーく短いものまである。
で、クオリティが高い。面白いぃ。短編がゆえに醸される独特の味わいが僕にはめちゃくちゃフィットしてしまった。そりゃ中には肌に合わないものもあるけれど、なんせ短い。どんどん観てみればいいのだ。

やすい!はやい!うまい!…みたいな説明になっちゃってるけれど、とにかくこれは、オーディブルに続いて、また新たな地平に辿り着いちゃったような楽しさがあった。全然知らなかった作品ばかり。ジャンルも国も様々。
そして、作品を余裕持ってしっかり堪能できるって、やっぱり嬉しい。

さあ、みんなも短編見ようよ!


『デッド・マリッジ』(17分20秒)・・・タイトルこんなだけど、ホラーじゃないのです。ごくごく小さなお話かもしれないけれど、最後の主人公の行動に胸が打ち震えてしまった。演技も素晴らしいし、「死体役しかやらない男が、死体になれなくなっちゃう話」というのが良い。とてもとてもとても、ほんと最大級に良かった。

『スティック』(10分57秒)・・・「人が何かに愛着や命を感じる話」に僕はすごく弱い。『キャスト・アウェイ』のウィルソン然り。モノが単なるモノじゃなくなる感性って、不思議だなと思う。だから、この作品のラストのさりげないカメラワークに泣かされた。我が家も最近犬を飼い始めたので、とてもタイムリーでもあった作品。

『Funny』(32分45秒)・・・サムネイルが怖いけどホラーじゃないのです。日本の作品。人の困った“癖”がテーマのお話。主人公が何も悪い人間じゃないのはすぐにわかるから、その“癖”が周囲にどう受け止められるかにハラハラ。そして、顔のバリエーションの豊かさとタイミングに爆笑。この人すごいぞ。シリアスな部分もあるお話だけど、最後は笑うと同時にホッとして涙。小3娘と一緒に鑑賞。これから色んな世間を知り、色んな自分を知ることになる人に、これを観てもらえて良かった。


こうして短編映画だけに特化して観てみると、短編映画の魅力は「フリの強さが減衰しないまま終わる」ところかもなあ、と考えた。長編はそこに苦戦してるように感じることがある。スタートダッシュが最も惹き込まれて、あれれ?だんだん尻すぼみになっていったな…みたいな。
短編は、良くも悪くも「え、ここで終わるの?」と、思わされるものも多い。だけど、ズルズル説明をしない(してる場合じゃない)し、他のドラマ要素が付け足されたりもせず、まっしぐらにエンディングに向かう潔さが、豊かな余白と余韻、心にお土産を残してくれる。

いや待て待てだぞ。気づいちゃったのだけど、単に量が増えただけなのでは?マイリストがより一層パンパンになっとる。
全部観たいし、全部知りたい。だけど無理なのだ。時間と人生の有限さが身に沁みて、少し悲しい。こんな呑気な悲しみはないなと思いつつも。
この感じを1000倍くらいにしたのが、ファウスト博士かもしれない。

そうか!ファスト映画って、ファウストからきてるのか。そうに違いない。

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