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「宣戦布告」の思い出~私の短歌公募館~

 さて、あれこれ慌ただしかったのがちょっと落ち着いたので、また季節を逃さないうちにアップします。
 今回は私が短歌を見よう見まねでつくりはじめたばかりの頃のお話です。もう四半世紀前になりますが、当時の「NHK歌壇」と角川「短歌」の「短歌公募館」に毎月投稿していました。では、どうぞ。

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 短歌をつくってみようと思ったとき、私は小学校の教員を志望する大学生だった。俵万智さんの『チョコレート革命』が話題になっていた頃である。そう、私もまた、俵万智さんの歌を読み、「これなら私にもできるかも!」という大いなる勘違いをして歌をつくりはじめた一人なのである。

 身近に歌をつくっている人は誰もいなかった。短歌結社のことも、学生短歌会というものがあることも、短歌総合誌のことも、そしてそれぞれの総合誌が公募している新人賞のことも、何も知らなかった。レポートや課題の指導案を書く合間、ワープロ(そう、当時はパソコンではなくワープロだった)に打ち込んではフロッピーディスク(!)に保存していたのだった。ちなみに、この頃の歌はワープロごと処分してしまい、手元に一首も残っていない。そうして一年ほど経った頃、もう少し詳しく勉強してみたい、と書店に行き、初めて「NHK歌壇」(当時)のテキストやこの「短歌」を手に取ったのである。「公募短歌館」に投稿を始めたときには、すでに四年生になっていた。

風わたる道やわらかくカーブしてきんもくせいの花ひらく午後

 「秀逸」に選んでくださったのは松坂弘さん。「金木犀の薫るころの、街角の様子を捉える。道も風もカーブするという把握が新鮮である。」という短いけれども温かい評を、何度も何度も、繰り返し読んだ。そうしてまた、歌をつくった。

いつの間にそんな笑顔を手に入れた 花ひらくような宣戦布告

 こちらは花山多佳子さんが「特選」に選んでくださった一首。選後評に、「屈折や、変なひねりがなく、真っ直ぐで、気持がいい。」「この歌の古典的なほどの簡明さは、案外希少価値に思える。」とある。今回数十年ぶりに読み返して、思わず笑ってしまった。そう、よくも悪くも「真っ直ぐ」。私の歌は、この頃からちっとも変わっていない。今でもはっきりと覚えている。この評も本当に嬉しかった。嬉しいからまた歌をつくった。巻末の葉書に清書をして、どきどきしながらポストへ投函したのだ。相聞歌として詠っているが、「宣戦布告」は当時のそんな気持ちの昂ぶりから出てきた言葉だったのだろう。

 大学を卒業したものの教員採用試験に合格できなかった私は、郷里で常勤講師になった。毎日の授業や事務処理だけでも精一杯だったはずなのに、よく投稿をやめなかったな、と思う。翌年、どうにか試験に合格して山間にある小さな小学校に赴任する。しかし、失敗ばかりの実にだめな新任教師であった。それでも、いや、だから、というべきか。歌の投稿はやめなかった。毎月発売日になると、車を小一時間飛ばして「短歌」を扱っている大きな書店まで急いだ。

 今も尊敬してやまない先輩方からいただいた評に、あの頃の私はどれほど励まされたかわからない。「宣戦布告」から長い長い時を経て、私は今も歌をつくっている。

角川「短歌」2023年8月号 連載エッセイ「一葉の記憶 私の短歌公募館」

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