第7回佐藤佐太郎短歌賞を受賞しました。
昨年(2019年)11月に刊行した私の第3歌集となる『花の渦』が、
この度
第7回佐藤佐太郎短歌賞
http://gendaitanka.jp/award/
を受賞いたしました。
私が歌を始めて以来、ここまで応援してくださったみなさま、そして歌集『花の渦』を読んでくださったみなさまに、心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
この歌集を通して、そして今回の受賞を通して、また思いがけない様々な出会いや懐かしい人々との再会がありました。あらためて、歌がつないでくれた縁に感謝しています。
まだまだ元気な祖父母の弟、妹たちからの感想は、
「子ども時代や兄さん(私の祖父こと)を思い出すよ。懐かしいなあ」
というものでした。
この歌集に収めた歌をつくっている間、私の心にあったものもやはり「懐かしさ」です。この話は、いずれまた。
選評など詳細は、「現代短歌」2021年1月号(2020年11月発売)に掲載されています。ぜひご覧ください。
http://gendaitanka.jp/magazine/2021/01/
このnote上では現代短歌社さんに了解をいただき、そこから「受賞の言葉」と『花の渦』自選30首を転載いたします。
第七回 佐藤佐太郎短歌賞 受賞の言葉
受賞の知らせがメールで携帯電話に入ったことに気づいたのは、水曜日。小学二年生の国語の授業を終え、続く四年生の授業のために窓を開け、慌ただしく机を消毒し(新型コロナウイルス対策のため)、待っていた子どもたちに「教室に入っていいよ!」と声をかけていたところでした。自分でもまだ信じられない、という状態でしたが、その場で子どもたちに受賞を知らせました。前々から、彼らは私が「齋藤芳生」という名前で歌をつくっていることを知っていて、歌集『花の渦』もライブラリースペースにおいてあります。本が完成した時と同じように、「よかったじゃん!」と拍手して一緒に喜んでくれました。佐藤佐太郎短歌賞という大きな賞を受賞することができて、それを真っ先にこの歌集の主役ともいえる彼らに伝えることができて、『花の渦』は本当に幸せな一冊となりました。
審査委員の皆さまに、心より御礼を申し上げます。そして馬場あき子先生、故・岩田正先生をはじめ、これまでの私の危なっかしい歩みをいつも見守り、支えてくださった皆さま。この歌集を読んでくださった皆さま。本当にありがとうございました。
最後に、今回の受賞の知らせを一緒に喜んでくれた塾生の皆さんへ。『花の渦』という歌集に収めた歌は、すべてあなたたちと過ごしてきた目まぐるしくも楽しい毎日のなかで生まれたものです。たくさん食べて、ぐっすり眠ること。きれいなものに出会ったら、きれいだねと言うこと。楽しかったら笑うこと。嬉しかったら喜ぶこと。泣きたいときには、大声で泣くこと。転んだら立ち上がること。一生懸命に生きること。いつの間にかすっかり忘れていたこれらのことを、毎日繰り返し教えてもらっていたのは、私の方でした。あなたたちこそが、私にとってとびきり明るくて美しくて幸せな、「花の渦」でした。ありがとう。また明日、教室で会いましょう。
『花の渦』 自選30首
林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く
てわすら(、、、、)を叱れどもてわすら(、、、、)は大事 春の子どもがもの思うとき
逃げるとは生きること温き泥の中おたまじゃくしはわらわら逃げる
ああ春の向こうからどっと駆けてきてふくしまの子らがわれの手を引く
「ちゃんと除染していますから、」辞儀ふかく拝観料のお釣りくれたり
ガザ遠く照らしにゆかん満月に大きく裂けてゆく石榴あり
この先に祖母が笑っているような橡(つるばみ)をひろいながらにゆけば
その枝のあおくやさしきしたたりよひとは水系に傘差して生く
白木蓮の香り燦たり太き苞を割りひらきたる痛みの後(のち)の
もう逢えぬ人あまたある三月に小鳥来てふいー、ふいー、と啼くも
みちのくの春とはひらく花の渦 そうだ、なりふりかまわずに咲け
三十代のこんな端っこが焦げていてなんてことだろう君という火は
月の暈ぽーんと大きい春の夜をあなたと帰る、ふくしまへ帰る
わかってもわからなくても頷く子頷けば雨、今日は花の雨
もう痛くはないがあまたの傷をもつ舟として青葉若葉をくぐる
わたくしのこころ傷んでいるところつうっと流るる桃畠の雨
ひとつぶのどんぐり割れて靴底に決心のような音をたてたり
〈手袋の忘れ物あり。親指に小さい補綴のあと。記名なし〉
しみじみと語らえばやがて雨となる雪よ蕎麦湯がまだあたたかい
金の砂、はた銀の雨わたくしの三十代にながくふりいし
ふる花をひろいながらに来る子ども遠く見ゆ遠けれどよく見ゆ
会津というふかきうつわにうるかして(、、、、、)おけばじゅうぶん 哀しみは癒える
銀河という瀑布を仰ぎずぶ濡れになったこころに、何も聴こえない
阿武隈川の流れにあらがわぬもみじ火のついたままのようなひとひら
元教師の父母はつかう放課後の炉辺談話というよき言葉
わたくしの歌はしっとり(、、、、)としているか雪ではなくてもう雨が降る
手紙ああ、いいね。あなたのまるい字で「拝啓 柳絮の候」とはじまる
授業へ向かうわたしと歌をよむわたし青葉の交差点に見交わす
人の子も熊の子も行き処なし人の子は今日塾に来にけり
雨をよく弾く傘なり一年生今日は一度も泣かずに帰る
※( )内はルビ。詞書はここでは省きました。
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