chicago no yuki

シカゴの大学で倫理学を教えています。一介の大学教員が読んだオススメ本の感想、時々映画やテレビ、ニュースなどの話も交えてお伝えします。

chicago no yuki

シカゴの大学で倫理学を教えています。一介の大学教員が読んだオススメ本の感想、時々映画やテレビ、ニュースなどの話も交えてお伝えします。

最近の記事

ハルビン:異文化を生きた男の話

と言う、いつもながらセンスのない日本語題名をつけてしまいました。 この夏、尊敬する日本の友人に「フイチンさん」と言う漫画を紹介してもらって、この漫画が戦前ではなく1950年代に出ていたことを知って衝撃を受けました。 なんせ、戦後の日本は植民地などなかったかのように、「日本=同一民族論」がもてはやされていたように思っていたので。 まず「フイチンさん」の主人公が中国人(満洲族か漢族かは不明)の若い女の子。しかも、お金持ちの家の門番の娘という設定。出てくる人たちも、お金持ちか

    • Too Many Bridges 多すぎる橋

      著者が元大学教員ということで、友人の友人の友人が勧めていた本。 著者の地元であるピッツバーグを舞台にしているので、土地勘がある人には楽しく読める本。 アマゾンのレビューでも高評価!ページターナー(ページをどんどん捲ってしまうほど面白い、あるいは簡単に読める)という評が多い印象。それは納得。セリフも多く、一章が短いのでどんどん読めます。 ここから辛口批評になります。。。 ピッツバーグの橋が多い、という特徴を活かして、殺人を見た、という匿名電話が橋の下から、という情報から、

      • Strange Darling 奇妙なあなた

        9月1日。地元のローガン劇場で。 一つの話を6つの章に分けて、それをまた時系列を変えて見せるドラマ。 私は割と早く「どんでん返し」を見抜いてしまって(自慢か!)連れ合いが悔しがっていました。 でも、これは単なる「どんでん返し」ではなくて、監督が、我々の中にある偏見や思い込みに挑戦しているものだと思うのです。そして、物語というものが、時系列を変更することで、そして一部を切り取ることで、全く異なる想像を受け取る側にさせることができる、ということを示してもいます。 いわゆる

        • I Saw the TV Glow 暗闇に光るテレビを見てた

          9月1日。今年の初めに、ラジオで監督であるJane Schoenbrunのインタビューを聞いた時から、見てみたいと思っていた映画。ようやくストリーミングで見ました。 途中までは期待通り。何かに夢中になるティーンエイジャー(彼らの場合は「ピンク・オペイク」というテレビ番組)、現実世界が辛いなら、ワクワクする世界を自分たちで作り上げる力のある青春時代。性愛を超えた友情、同性愛としてのアイデンティティ、家庭内暴力、などなど。こういう話が見たかった!というものでした。 それが急転

           Nuclear Nuevo México 核のヌエヴォ・メヒコ

          8月29日読了。ああ、センスのない日本語タイトルしかつけられなくて、我ながらがっかり。 この夏に見たFirst We Bombed New Mexico (最初にニューメキシコが核攻撃を受けた)にも出てくる、友人でもあるマライア・ゴメスの著作。 映画「オッペンハイマー」には出てこなかった、高地にあるロスアラモス研究所の人たちの話ではなく、そこから追い出され、見下ろされている側の先住民とスペイン・メキシコ系住民の話。 このnuevomexicana/oというのは、どう訳せ

           Nuclear Nuevo México 核のヌエヴォ・メヒコ

          The Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty 痛みの帝国:サックラー王朝の秘史

          ようやく読み終えました。合間合間にちょこちょこ読んでいたので、記憶も曖昧だったりしますが、本も分厚い! これは、アメリカで昨今話題になったオピオイド中毒に深く関係しているサックラー家のお話です。4代前から遡ってサックラー家について詳細に描写しています。誰が製薬会社を起こし、誰が痛み止めと称したオピオイド(商品名:オキシコンティン)を売り、誰が中毒者を産んだことに対する責任があるのか。会社の責任とはいえ、会社は大部分、サックラー家の人たちが管理していました。 オピオイドに中

          The Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty 痛みの帝国:サックラー王朝の秘史

          There There まあまあ

          カリフォルニア州北部サンフランシスコの郊外オークランドに住むトミー・オレンジは、シャイアンとアラパホの血をひく作家です。彼のデビュー作、There Thereは、2019年アメリカの本大賞(American Book Award)に選ばれ、ここシカゴでも2023年9月から12月期の「シカゴの一冊」(One Book, One Chicago)に選ばれました。 ずっと読みたいと思いながら機会を逸していて、ようやく読めたのですが、先住民の人たちのことを何も知らないと、またまた思

          There There まあまあ

          The Trouble with White Women 白人女性の問題

          副題は「フェミニズムのカウンターヒストリー」です。その名の通り、フェミニズムとして、私が習ってきた多くの理論は白人女性による白人女性のためのものだということがよくわかる本です。 著者が4パージ目で言っているように、ホワイトフェミニズムの問題は「どういう問題を見過ごしてきたか、あるいは誰を考慮にいれていなかったか、ではなくて、ホワイトフェミニズムが何をしてきたか、そして誰を抑圧してきたかなのです。」単なる消極的な「考慮に入れなかった」ではなく積極的jにある種(人々)の言説を抑

          The Trouble with White Women 白人女性の問題

          Killers of the Flower Moon 5月の満月の殺人者

          副題はThe Osage Murders and the Birth of the FBI、オーセージ部族の殺人とFBIの誕生です。なぜ、FBI?と思ったのですが、Hoover など出てきて、面白かったです。 さて、ニューヨークタイムズのベストセラーということで手を伸ばしました。これって、実はドラマ化もされて、レオナルド・ディカプリオが一家で一人生き残る女性の2番目の夫を演じ、ジェシー・プレモンズ(ファンです)が、FBIに派遣されるエージェントで、殺事件を解決する清廉潔白、

          Killers of the Flower Moon 5月の満月の殺人者

          Yellowface 黄色い顔

          なかなかインパクトのある真っ黄色の表紙にアーモンドアイ。作者はまだ27歳で、すでにアヘン戦争を題材とした三部作や、バベルといったSFを出している中国系アメリカ人のR.F.Kuang。 この若さですごい作品です。内容は彼女のアルター・エゴと思われる、若くして作家としての成功を手に入れているAthena。 作品は彼女の友達である白人の売れない作家June Haywardの視点から描かれます。ひょんなことから、Athenaのほぼ完成している原稿を手にしたJuniperは、その原

          Yellowface 黄色い顔

          Biting the Hand: Growing Up Asian in Black and White America 飼い主の手を噛む:黒人と白人の国アメリカでアジア人として育つということ

          韓国系アメリカ人、ジュリア・リーによるメモワール。彼女はアフリカ系アメリカ文学(最近ではアフリカ系アメリカ人というい言い方よりもブラックが主流ですが、大学の分野となるとまだ「アフリカ系アメリカ人」が使われています)やカリビアン、アジア系アメリカ文学などを専攻し、教えているアカデミアの人でもあります。 まず、タイトルがいいです。Biting the Hand。これは通常Biting the hand that feeds youというい風に使われるのですが、これは日本語の「飼

          Biting the Hand: Growing Up Asian in Black and White America 飼い主の手を噛む:黒人と白人の国アメリカでアジア人として育つということ

          The Bangalore Detectives Club バンガロール探偵クラブ

          インドの大学で環境学を教えている女性学者、Harini Nagendraの書いたミステリー小説!しかも、1920年代が舞台です。まだまだイギリスの植民地政策が浸透しているインドで、医者の嫁としてバンガロアに来た女性が理解ある夫と、刑事の支えで難事件を解決していくもの。 これは「フライニー・フィッシャー」シリーズを彷彿させます。どちらも、1920年代、女性の探偵が活躍します。どちらも上流階級というのが、ちょっとアレですが、そうでもなければ1920年代に女性が探偵業なんてやって

          The Bangalore Detectives Club バンガロール探偵クラブ

          The Wounded Storyteller: Body, Illness & Ethics

          今月初めに読んだ本。邦訳も出ているようです。邦訳のタイトルもいいですよね。特にこの副題:身体・病・倫理なんて私が今、一番課題としている三代噺みたいで興奮しました。 でもって読んでいる時は確かに興奮したんですが、読み終わってしばらく経ってしまうと、やっぱり、「初めに言葉があった」と言うヨハネの福音書の伝統を受け継いだアカデミア、ロゴスの国の人、と言う感じがしてなりません。 と言うのも、自らの病の話をする人は証言者であり、それによって病気が道徳的責任に変わる、と。それは、本当

          The Wounded Storyteller: Body, Illness & Ethics

          Nuclear Family 核家族

          韓国で生まれハワイに移住してきたジョーゼフ・ハンのデビュー作。題名の「核家族」とは皮肉が込められたもので、実際の物語は父方、母方の祖父母を含む物語で、舞台も韓国、北朝鮮、ハワイを中心に展開していきます。 デビュー作とはいえ、編集などの仕事に携わってきた著者の筆は本当に冴えています。その世界観も素晴らしい。フィクションとノンフィクションが上手に織り混ざり、しかも現実世界と虚構世界の混ざり具合も絶妙です。 主人公のジェイコブは大学を卒業し、アメリカ人でもない、韓国人でもない、

          Nuclear Family 核家族

          Nuked: Echoes of the Hiroshima Bomb in St. Louis 被ばく:セントルイスにおける広島原爆の負の遺産

          2023年1月18日 去年の12月1日に出版されたばかりの本。セントルイスには2度行っていて、地元の活動家(女性、お母さんたち)やがん患者さんなど、知っている方の話が出てきて、嬉しくなる、というのとはちょっと違うのですが、彼女たちのことがこの本をきっかけに知られるといいな、という思いでした。 ミズーリ州セントルイスは、シカゴのあるイリノイ州と州境を接しているのですが、シカゴからは南にまっすぐ車で5、6時間といったところでしょうか。あまり、隣って感じはしない州です(ウィスコ

          Nuked: Echoes of the Hiroshima Bomb in St. Louis 被ばく:セントルイスにおける広島原爆の負の遺産

          The Violin Conspiracy バイオリンをめぐる陰謀

          2023年1月9日 今年は「読みかけの本を(できるだけ)減らそう!」と言うヘタレな目標を掲げ、以前読んであと少しのところで、ほったらかしにしていた、この本を読了。 読み始めたきっかけは、よく聞いていたニューヨーク・タイムズの書評ポッドキャストだと思うのですが、まず、著者が実際にヴァイオリニストであること。そしてブラックであること。そしてポッドキャストのインタビューで、半フィクションというか、実際に著者に起こったことが元になっている、という話を聞いたからだったと思います。

          The Violin Conspiracy バイオリンをめぐる陰謀