言葉を紡ぐ仕事をしている人に読んでいただきたいこと
私は幼少の頃から本当に本が大好きです。
よく覚えていないですが、他人の言葉に感動して泣いたのはきっと本が初めてだったろうと思います。
その大切な大切な本が、「情報伝達」という自己の特質のために、今デジタルと紙との間で非常に難しい立ち位置にあります。
しかし、私の核を形作ってきたのは紙の本ですから、その未来は明るくあってほしいと無力ながら思うわけです。
本を取り巻く仕事の一つに、「文字」をつくる仕事があります。フォントと呼ばれるものです。
書体デザイナーである鳥海さんはよく「水や空気のような本文書体をつくりたい」とおっしゃっていて、鳥海さんを含む書体デザイナーへのインタビューを元にして制作された「文字をつくる 9人の書体デザイナー(誠文堂新光社 / 雪朱里 著 / 2010)」を読むと、その根底にある原風景が鳥海さんのふるさと庄内平野だとわかります。
私も彼から書体デザインを学ばせていただきました。受講をする前のメールでも鳥海さんと「ふるさと」の大切さについて話しました。
どんな「ふるさと」をもつか。
最近になってこの大切さにやっと気付いた私は、よくよくこのことを考えたりしておりました。
私も埼玉の見沼通船掘り近くの、田んぼや畑のあるのどかな場所に生まれて、「地球大紀行」というNHKの特集や、「ツイスター」というアメリカの映画を何度も観て、「地球はすごい!」と、どきどきしながら、たくさんの小説を読んで感動したり、今はほとんど内容を覚えていないのですが、伝記や雑学辞典を読みあさる、そういう幼少期を過ごしました。
中学の時にものづくりが好きな家族に影響を受けて、彫刻が好きだった私は、日本には伝統工芸の職人という素晴らしい職業があることを知り、とても誇りに感じました。
「伝え、残す」ということに大きな価値を感じました。
「ふるさと」は生まれた場所だけではなく、本で読んだことも、成長してきた環境も、影響を受けた人も、出会った全てが「ふるさと」であると私は感じています。
それに気付いた時にそういうものに囲まれたり、感じたりしていけることが、とても幸せだなぁと思いました。
大切にしたいと思いました。
本は間違いなく、私の「ふるさと」です。
だから本のために、そして美しい活字のために、自分のできる限りの明るい未来を残したいと、今、思っています。
「伝え、残す」という価値観が私の創作の原点なのですが、「文字をつくる 9人の書体デザイナー」の鳥海さんの章を読むと、ひとつの活字が生まれるまでに、本当にわっと驚くような物語が詰まっていますよね。
一粒のお米がたくさんの人の手の中で大切に育てられて、沢山のドラマを生んで、それでも当たり前のように食卓に届くのと同じだとよく文字に精通するデザイナーさんも口にしますが、本当にその通りだと思います。
当たり前のように感じていたものにこそ、ひとつひとつ強い信念がある。
そういうものを言葉で、文字で、伝え届けるということにとても大きな価値を感じるんです。
それは誰かが形や言葉にして残していかないといけないと思いますし、そこにはかならず、適する言語と適する活字があると思うのです。
言葉には、それに適する音や匂い、温度など、様々な事柄を発し感じさせる文字が必ずあると思っていたからです。
これを納得のいくまで実現するのはとても大変なことだと思います。キリがありません。果てがありません。だからこそ、他の何よりも面白いと思います。
本を生み出すことに対する意識の高さは、作家が紡ぐ言葉はもちろん、編集、文字、それを伴うデザイン、随所に語られずとも見えるものだと思います。そして、ふとした時に絶対に伝わるものだと信じています。
毎日食べてるご飯が突然なんだかとても有難いものに感じる瞬間ってありますよね。その瞬間を作ることが私はその人にとってとても幸せな出会いだと思うのです。
今はなかなか言葉にできないのですが、「人はなぜ本を読み続けるのか」「なぜ本は美しくなければならないのか」「では、”いい本”とは何か」
という3つのテーマを最近ずっと考え続けています。
デジタルにはデジタルのいいところがあります。
私はまだ言葉にできませんが、紙の本にも”いい本”としての確固たる理由があると思います。
みなさんも一緒に考えてみませんか。
私も「伝達」という目的を果たしつつ、人に幸せな出会いを届けられるように悩みながら今後も精進していく所存です。
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