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8月のフランス菓子研究所 「ベルギービールのムース」

二十歳の夏、ロンドンでホームステイしながら英語学校に通った、といえばだいぶ聞こえは良いけど、学校は午後だけで午前中はひたすら博物館をまわってたので、英会話がめちゃめちゃできるようになったとかではない。お昼ごはんもたいていサンドイッチ屋で挟みたい具材を指さしすれば事足りるし。

行き帰りの飛行機はベルギーの航空会社のもので、ブリュッセルで乗り換えにたっぷり時間があり、おっかなびっくり街歩きして、ヨーロッパってこんな風景なのかとドキドキした。そのへんで売ってるチョコレートがこれまた美味しくて、おかげでわたしの脳みそは「ベルギー」と聞いた瞬間「美味しいチョコレート」を連想するようになった。

今日作った「ベルギービールのムース」にもチョコレートが使われている。ホワイトチョコを溶かして生クリームと合わせ、黒糖シロップで風味をつけた「クレームシャンティショコラブラン」をムースの間に挟む。でも主役のベルギービールの印象が強いので、これだけ手の込んでいるクレームなのに脇役でしかない。

ムースはいきなりビールにゼラチン溶かして混ぜるところからはじまる。完全に溶かすために40度まで加熱。スタジオにビールの香気が立ち込める。ゼラチンが溶けたら今度は生クリームと合わせるために温度を下げる。きれいに混ぜたら次はイタメレと混ぜる。ホイッパーですくっては手首のスナップで落とす、楽しい作業。最後に冷たいビールを他の人に細く垂らしてもらいながら混ぜる。

ビールをムースにしようなんてどうして思ったんだろうねえ、と隣でひろこさんが呟く。飲めない私にとってはケーキと酒って全く別の存在なんだけど、酒飲みはケーキをアテにしたって飲めるっていうしな。シャンパンのババロアとか、日本酒のパウンドとかも作ったことあるけど、私はそんなに嬉しくない。

だけど今日のビールのムースはとっても美味しい。フォンドダックワーズの黒糖とビールの取り合わせがすごく良い。アルコール度もそんなに高くないから、食べてもカーッとならない。イタメレが入ってて軽やか。17年やってていまだに新しい美味しさに出会えるなんてラッキーだな。

ダックワーズ生地を作るとき、水溶化卵白が足りなくて割りたてのやつを使ったけど、アーモンドパウダーがたっぷり入るから出来上がりにそんなに差を感じなかった。シフォンケーキだったら全然違うんだろうな。家では水溶化卵白なんて常備してないから、レモン汁を数滴垂らして分解している。しっかりした泡を作ることももちろん重要だけど、混ぜるテクがあればなんとかなると最近思ってる。英会話だって、文法もそれなりに大事だけど、単語とジェスチャーと表情と圧で十分伝わるというのが二十代の学びだった。って何の話だ。

来月はリンゴのタルト。久しぶりで嬉しい。



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