壺焼き芋と初詣
「お芋は持っていってもいい?」数年前、娘が結婚相手のご両親と私たちを桜木町の料亭に招待してくれた時のこと。普段着でどうぞ、手土産不要と娘に言われ、私たちは思い切り手ぶらで行ったのだが、先方のお母様からそう聞かれて承諾したと事前に娘から報告があった。なんでも、お母様は「焼き芋やさん」らしい。
お会いしてお話を聞いたところ、ご自宅の庭先に大きな焼き芋用の壺があり、受注生産で販売してると。お芋は育ててるんですか?と聞いたら、茨城から美味しいお芋を仕入れてるんだそう。いただいた壺焼き芋はこれまで食べたどんな焼き芋よりもねっとりしっとり濃い甘さと香りで悶絶した。
そうか受注生産か、なら発注すればまた食べられる?いや、息子の嫁の実家からの発注とか、ダルすぎるよなぁ。どうしたもんだろう。そう思っていたところ、お嬢さんが茨城へ農留学、現在は人脈を活かして仕入れた美味しい芋を自ら壺焼きにして、イベントなどで販売していると知った。ここ数年は大晦日深夜から三が日、弘明寺商店街で初詣客相手に壺を出しているところへ行って、大量に買い込んできている。
今年、いや去年の大晦日は自宅を22時半に出発。道路に車はまばらで、23時早々には到着してしまった。観音様の周りには、交通整理の係員や警察官らが、もうすぐはじまる大騒ぎを前に緊張した面持ちでウロウロしている。境内まで上がってみると、お焚き上げの炎があがっている敷地に、除夜の鐘を突く順番待ちの人たちがたまっている。夫がギフに病気平癒のお守りを買い、それでもまだ日付が変わるまで時間があるので、いったん町へ降りていった。「トイレはありません」とでかでかと嘘の看板を出しているコンビニで、買いたいものもないのにうろうろする。23時半になり、お詣りの列ができはじめたところに並ぶ。このポジションは海外招聘選手の特別枠だ。板に描いた「こうやくん」がニコニコして立っているすぐ横でカウントダウン。
祈ることは唯一つ、自分も家族も周りの人もみんな健康で過ごせますように。