レッスン前夜 ちぎりパンと肉食文化
学生時代、レポートは提出期限ギリギリになって書くべしという先輩からの教えがあった。先輩は前もって準備するタイプの真面目なお方だったのだが、ある高齢な教授の授業で科されたレポートの宿題を一生懸命仕上げたというのに、期限の2日前に教授が病に倒れたため、提出先も無くなった上に登録していた学生はすべからく単位を取得出来てしまったという憂き目に遭ったのだ。人生一寸先は闇、だから薄日が射してなんとなく気配や輪郭がわかるようになってから動けば間に合うのだと悟ったらしい。それが全てに当てはまるとは思わなかったが、そりゃ骨折り損でしたねえと相槌を打ちつつ、一旦は胸にしまってみた。
ところがこれが初秋の冷えこんだ夜にほんのりあっためてくれるカイロみたいに効くのである。仕事を始めてからは上司個人の健康や年齢と私のタスクには特に関連性は無いが、なぜか、早々に着手してきっちり準備した結果が報われるシーンが驚くほど少ない。プランAとプランB両方準備できるんならそれに越したことはないが、結局、様々なことが確定してから瞬発力と経験値で突貫的に作業する方が無駄がない。
っていうのが、自分の開催するレッスンの準備が前日にてんこ盛りになってる言い訳なんである。
「美味しい科学あそび」と銘打って月に一回子どもたちと楽しんでいる。2023年2月から始めたので今回で20回目である。美味しいお菓子を作りながら、関連する科学や歴史に触れたり、レポート書いて発表したりする。最初は1年もやったらネタが尽きるのではと思い、お菓子作り以外のコンテンツでも開催できるようなブランディングをしたのだが、今のところ永遠にこれで行ける気がする(本当に?)。時間調整用にそれぞれの事象にまつわる物語を用意するのだが、これが調べてるうちにどんどん横道に逸れて面白いったらない。自慢じゃないが、もともと日本史を知らなすぎるので、初めて知ることが多いのだ。威張ってどうする。
調べ物はネット検索が主だけど、単純に鵜呑みにしないくらいの知恵はある。明日のテーマは「発酵」。日本の食文化で「発酵」の始祖といえば「魚醤」である。その辺りを調べているうちに「日本では仏教の影響で肉食をしない時代が長く、代わりに魚を食べていた」というような表記にぶつかった。ふーん、と思って今度は仏教がいつ頃伝わったのかを調べると、6世紀頃とある。当時朝鮮半島で三つ巴の戦いを繰り広げていた百済の国から「お願い助けて」と言われ、軍事的応援をしたお礼にもたらされたのが仏像や仏典だった。もともと日本におわしたのは八百万の神様であり、いっときは退けられたのだが、推古天皇や厩戸皇子が国政を執り行うにあたって仏教を登用した。で、ここが肝心なんだけど、仏教でよろしくないこととされているのは「殺生」なんである。殺生ってことは、牛や豚はダメだけど魚はいいです、ってわけないじゃん。ただ、大っぴらに食べることは人間の品格として良くないとは言っていても、実際には猪も雉子も食べてたようだ。
日本で肉食(牛、豚、鶏)がごく当たり前になったは昭和30年頃とあるから、本当にここ60年くらいの話である。菜食が主だったのは仏教の影響もあるが、そもそも国土が狭く、家畜を放牧するよりは稲を植えた方がよっぽど効率良かったのもあるんだそう。ブロイラーの技術や輸入などで安定供給がされるようになって初めて、焼き鳥などが身近になった。しかし近い将来、地球の人口が増えて食肉の生産が追いつかなくなる予想があるため、プロテインは昆虫から摂るのが主流になるかもしれない。来年のテーマはこおろぎパウダーにしようかな。応募来るのか?
ってほらね、また話が飛んでいく。面白くてついnoteに書いてる場合じゃない。買い出し行ってこようっと。