
大阪・関西万博とサステナブル経営
先日、セミナーの登壇で香川県は高松に行きました。
高松築港周辺は、大規模な開発が進んでいて、特に瀬戸内海に面した広大な場所に、マンダリンホテルが2025年9月に開業予定だそうです。大阪・関西万博の期間中、ギリギリ間に合う開業です。
案内してくださった行政の方は、万博によって関西圏に外国の方が集まるので、ホテルの開業をきっかけに、四国も外国人観光客で活性化することを期待している、とお話しされました。
今回のコラムでは、2025年に開催される「大阪・関西万国博覧会」を事業成長にどう取り入れるべきか?そしてどう活かすべきか?これらを踏まえ、サステナブル経営の本質に迫りたいと思います。
万博で見直す大阪・関西らしさとは
2025年の大阪・関西万博。
大阪・関西としては最大のチャンスにしたいところです。
万博には期待と注目が集まります。しかし一方で、こんな悩みもお聞きします。
大阪・関西万博と銘打っているが、大阪らしさ、関西らしさとは何なのか。
中小企業にとっては、万博はあまり関係ない、という声です。
もったいないことだと思います。
SDGsをテーマにした、大阪で開催される万博。そこに多くの外国人が集まり、日本国内でも注目されます。夢洲の万博会場で開催されるイベントと捉えるのではなく、大阪・関西の企業にとっては、自社や商品・サービスを、国内外にアピールする機会として捉えるべきだと考えています。
では、あらためて大阪らしさ・関西らしさとは何でしょうか。
見直される商人道
私が取締役を務める株式会社YRK andは、明治29年創業で129年目になります。本社は、ほぼ創業の地の大阪市中央区瓦町にあり、船場と呼ばれる商業の町です。私自身入社以来、船場商人に伝わる教えを聞いてきました。
「始末 算用 才覚」
「商売は牛のよだれのように」
「お金には旅をさせろ」
など、含蓄のある、商売の教えです。
江戸時代には商人道という言葉も生まれています。
これは損得よりも善悪を商売の基本にすることや、商人は目先の利益よりも家訓を大事にすることなどが説かれています。柔道や剣道と同じ「道」、つまり守るべき原理・原則・ルールが、商売にもあるという考え方で、近江商人の「三方よし」は、まさに商人道だと言えます。
この商人道は、おそらく世界に類を見ない価値観であり、考え方だと思います。
国別長寿企業ランキングで、100年企業・200年企業ともに、ダントツで日本が世界一位なのも、この価値観によるところが大きいと考えています。
創業455年で、近江が創業の地でもある西川株式会社の西川八一行社長は、「伝統とは、革新を繰り返した結果、振り返った時に繋がっているものである」と言葉にされています。
また創業306年で大阪が創業の、株式会社大丸松坂屋百貨店の経営理念は、「先義後利」です。
長寿企業が伝える2つの言葉には、重要な意味があります。
それは「革新性」と「社会性」です。
これが長寿の秘訣であり、大阪・関西万博のテーマに通じるものだと考えています。
つまり、大阪や関西が育んできた商人道は、2025年の大阪・関西万国博覧会のテーマにつながるものであり、中小企業を含めた関西の企業が、実践してきたものは、サステナブル経営そのものだと言えるのです。
関西らしさは、SDGsを商売で達成することです。
新しく取り組むことも大事ですが、長年商売で培ってきたものに、価値の磨きをかけて、自信をもって国内外に発信するべきだと思います。
値上げを付加価値に
とはいっても、どこから始めたらいいのか、何から手をつけたらいいのか、迷うところです。
そこで、値上げ要因となっているコストに注目してはいかがでしょう。
今企業を悩ませているのは、燃料費・原材料費の高騰です。
しかし、原価高騰の原因をたどると、社会問題やその社会問題を解決するためにかかる費用だということに行きあたります。
燃料費の高騰の要因は、ウクライナ戦争です。
また海水温上昇による水産物の不漁や、異常気象による農作物の不作が、仕入れ原価の上昇につながっています。
その他、商品やサービスに付加価値を付けるために、人件費を含めた様々な費用が、今まで以上にかかっています。
つまり、自社が儲けるための値上げではなく、社会問題に対応する費用が、大きくかかるようになってきたものであり、お客様に価値あるものを提供しようと試行錯誤した結果なのです。
そう考えると、社会が劇的に良くならない限り、残念ながらコストは下がりません。むしろ上がり続けると考えたほうがいいでしょう。
また価値は、価格転嫁できてこそ付加価値です。
単なる値上げではなく、価値に転換させる努力と工夫が必要なのです。
差別化から差異化へ
モノのスペック・機能・性能・素材・成分・効果・効能は、もはや付加価値になりにくくなっています。体感できるレベルを超えてしまっていることがその理由で、表示されている文字や数字で想像するレベルです。
例えば、スマホやテレビの機能をすべて使い切っている人が、どのくらいいるでしょうか。機能性食品の成分を、どのくらい効果として実感できるでしょうか。
そうなると、新しい機能がついて、性能が上がって、価格は今まで通り、ということになってしまいます。これは実質的な値引きで、付加価値ではありません。
ましてや、低価格で選んでもらうというのは、さらに体力勝負の領域。価格で選んでくれた顧客は、結局価格で離れていきます。
一方、社会や環境に良い商品やサービスだということも、実は付加価値にはなりません。
SDGsに取り組んでいるということも同じで、どの企業も取り組み始めているわけですから、やっていることはどこも同じで「同質化」します。
つまり「差別化」が限界にきているのです。
そして、感情で選んでもらう「差異化」が重要になります。
感情で選んでもらうということは端的に言えば、「好きになってもらう」ことです。
表現を変えれば、好感がもてるとか、愛着を感じるとか、夢中になるとか、熱狂的なファンになってもらうということです。
人の好き嫌いの感情を動かすなんて、至難の業だと思われるでしょう。
しかしコスト上昇時代に顧客に選んでもらい生き残っていくためには、数字による「差別化」から感情による「差異化」への転換が求められます。
これは企業の大小、業種・業態、BtoCかBtoBか、大都市か地方かに関係なく、どんな企業にも求められる生き残りの条件の一つなのです。
ところで差異化の「異」は、異質の異です。
「質」という字は、性質や本質、資質や品質などという言葉に使われますが、「事物の成立するもと」という意味があります。
選択肢の中で他との比較や違いによって選んだ差別化ではなく、異質、つまり他と異なる質、そのものの本質を理解し、自分にはこうしたあり方や考え方が好きだという感情で選ぶのが「差異化」なのです。
「差異化」の本質をひと言でいえば、共感・共鳴や感動・感銘によって行動を起こさせるということです。
この「行動」は「参加したい」「協力したい」「応援したい」という賛同動機によってもたらされますが、それが選択だったり、購入だったり、使用や利用という行動を導き出します。
数という量で選んだのではなく、あり方や考え方への共感・感動という質で選んだモノやサービスですから、「好き」のその先に「愛着」や「夢中」へと変わっていき、「熱狂的なファン」としてアンバサダー的存在にも結び付いていきます。
この移り変わりを、「ファンからナカマへ、ナカマからミカタへ」と呼んでいますが、顧客を仲間以上の味方にすることは究極のマーケティング戦略です。
割高な価格が価値に変わる
一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会が、毎年実施している「生活者調査」。2023年1月に発表した調査結果を見てみましょう。
その中で興味深いデータをご紹介します。
「人や地球にやさしい商品」は、「どのような取り組みであれば、購入したいですか」と聞きました。
「人や地球にやさしい商品」つまりソーシャルプロダクツは、ふつうの商品よりも価格が割高になります。その割高な価格を、価値だと受け取る取り組みについて聞いたものです。
注目すべきは、3位「商品や事業を通した取り組み」22.5%。4位「最小限の取り組み」22.2%。さらに6位「自分も参加可能な取り組み」17.8%、7位「その企業やブランドらしい取り組み」15.8%です。
この4つの取り組みであれば、付加価値だと感じて購入したいと答えているのです。
この4つは、企業の大小や都市か地方かに関係なく、どの企業でも取り組めるものです。
そして、「どんな情報があれば購入したいか」も聞きました。
1位「取り組みの具体的な内容」37.5%、4位「取り組みの目的・動機」27.5%、6位「取り組みの背景にある社会問題」26.7%。
この3つは、どの企業でも語ることができるはずです。
端的に言えば、原価高騰の要因である、業界の問題、社会の問題、それを解決するために努力している活動や取り組みを、わかりやすく伝えれば、価値だと感じて買うと答えてくれているのです。
伝え方の転換
差別化から差異化への転換には、伝え方の転換も必要になります。
共感・共鳴や感動・感銘による「参加したい」「協力したい」「応援したい」という賛同動機を起こさせるためには、商品やサービスの特長を伝えるWhat情報よりも、なぜつくったのか、なぜ取り組もうと思ったのかというWhy、どうやってつくったのか、どう取り組んでいるかのHow、誰が取り組んでいるかのWho、そして何を目指しているかのVisionが重要です。
この要素が、実はコスト上昇の真因であり、それを丁寧に伝えることが、共感となり価値につながるのです。つまりWhatだけだと単なる値上げ。Why・How・Who・Visionのどれかが明確に伝わって、共感につながれば、付加価値になるというわけです。
特に新しい機能や性能が付加されたわけではないのに、競合商品よりも割高な価格が受け入れられ、愛される商品もあります。その代表がニチバンの「セロテープ®」です。70年間同じ性質の商品なのに、今になって割高な価格が受け入れられるようになりました。
セロテープの例は、地球にやさしい天然成分・植物性という70年以上変わらない特長の伝え方を、賛同という文脈に変えたことで価値の転換に成功しました。
セロテープのような例は、どの企業にもあるはずです。工場や事業所の省電力化、再生エネルギーの使用度、排煙・排水の改善、営業車や配送車の燃費アップ、さらには様々な時短や生産性の向上など。
これまでCSRや単純にコストダウンとして取り組んできたことがたくさんあるはずです。
それを、商品・サービスを購入したり利用することで、その取り組みへの参加や協力につながるという変換や換算を行えば、セロテープのような取り組みになります。
地方や業界の問題が付加価値に
2022年のソーシャルプロダクツ・アワード大賞を受賞した株式会社ネキストのアパレルブランド「UpcycleLino」。このブランドは、服の製造過程で出る裁断くずから糸をつくり、その糸から服をつくることで、廃棄ゼロを実現しました。この一連の工程は、セレクトショップのOEMで疲弊していたサプライチェーン各社との協業によって作り上げ、アパレル業界の問題を付加価値に変えました。
また2022年ソーシャルプロダクツ・アワード生活者審査賞を受賞した、えひめ活き生きファーマーズ株式会社の「ベジソルト」は、規格外品や災害にあった地域からの野菜を農家から無条件で買い入れ、本来廃棄されるはずの愛媛県産野菜をまるごと使い、伯方の塩とミックスすることで野菜の風味と色がきれいなオリジナリティのある商品にしました。
これは愛媛に限らず、日本全国の農家が抱える問題を、付加価値変える好例だと言えます。
このように、業界や地方の問題は、放っておくと市場が縮小していきますが、同じ問題を抱える業界や地域と協業することで、付加価値に変えることができるのです。
万博で国内外に発信
大阪・関西万博で想定されている来場者総数は、約 2,820 万人。そのうち、国内来場者は約 2,470 万人で海外からの来場者が約 350 万人です。
集まってくる国内外の人たちに、「社会性」と「革新」に裏付けられた大阪・関西の商人道をアピールするまたとない機会です。それは現代に置き換えれば、サステナブル経営と言いかえられます。
永年受け継がれてきた大阪・関西モノづくりの理念や文化を、そして自社の企業理念やビジョンをあらためて見直し、磨きをかける機会にしていくべきだと考えています。これこそが、企業の「リ・ブランディング」の本質なのです。
これを機に、国内の各地方企業にとっては大きなヒントになるものであり、海外の人たちにとっては、日本の新たな価値を発見するきっかけになるものだと思います。
事務局長 深井賢一