夜の迷い道(7/26 実録)

夏のとある夜のこと
人気の無い暗い都会で、私は駅を目指していた
地下鉄を使って、知り合いの最寄り駅へ
数年前には旅行なんてことはせず、
せいぜい車に揺られて1時間先の神社に行く程度
そんな私が、県境をまたぎ、バスに揺られ、
遠くに住む知り合いの元を訪ねるのが
月に一度の楽しみになりつつあるのだから
人生、何があるかわからない

この夜もいつも通り、地下鉄の駅に向かうため
地下へと進む通路を目指して歩いていたが、
どうにも建物の様子がおかしい
私はその原因が、バスの遅れによって
普段より遅い時間に着いたからだと気付いた
薄暗がりの中を進んでいると
どうにも不気味さが漂ってくる
明るい駅に辿り着こうため、早歩きで進むのだが
道はなぜか明るくなるどころか
より暗さを増していく
まるでこの先に通路などないかのような雰囲気だ
まさか道を間違えたのか?
そう思いながら暗がりの中をひとしきり歩いて
私は気付いた
道を間違えた訳では無い
ただ、シャッターで塞がれていたのだ
これではとても通れそうにない
しかし他の道は見当たらず
ただ静かな行き止まりが見えるだけである
時計を見ると、終電まで残り20分を切っていた
私はここで、「終電を逃してしまうのではないか」と
焦りと不安に襲われた

道もわからない、乗れなかったらどうしよう、
暗闇でぐるぐるとしていたら
目の前にふたりの男女が現れた
私と同じ不安を口にした女性と
ケラケラと楽しげに笑う男性
シャッターの降りた通路をみても、男性は笑う
「じゃあこっちから行こう」
私が捻り出すことの出来なかった選択肢を
男性はいとも簡単に口にする
くるりと向きを変えて女性の手を取り
迷いのない足取りで歩き出す
その時、私はハッと気付いた
この二人について行けば駅に辿り着くかもしれない
別に他のやり方がないことはなかったと思うが
焦っていた私には他の選択肢が思い浮かばなかった
男性は変わらずケラケラと話し
女性は不安そうながらも楽しげに相槌をうつ
そんな二人を見ていると
不思議と心が和やかになった
そうやって歩いていくうちに、駅が見えてきた
私は時計も見ないまま、焦りに任せて飛び出した
結果として、電車がくる3分前に辿り着けていた
あの男女に出会っていなければどうなっていたか
もしかして二人は神の使い?
そんな考えを巡らせながら、私は電車に乗り込んだ

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