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昨今の犯罪傾向への精神分析学的アプローチ〜「見えない秩序」の崩れ〜

最近、詐欺事件や通り魔事件など、一見すると「一貫性のない」犯罪が増えているように感じませんか?加害者たちは、明らかにリスクが高く、他者に迷惑をかける行為と分かっていながら、それでも犯罪に走る。その背景には、何があるのでしょうか?

もちろん、脳の前頭葉機能の低下やホルモンバランスの乱れなど、生物学的な要因も考えられます。

しかし、サイコロジストとして、もう一つ見逃せないのが、私たちの社会の中で「ルール」や「モラル」を支えてきた“見えない秩序”が崩れつつあることです。

「見えない秩序」とは何か?

昔は、社会の中に自然と存在していた「こうあるべき」という共通の価値観やルールがありました。例えば、親や先生の言うことを聞く、社会のルールを守る、相手の立場を考える——こうしたことは、特別に教えられなくても、多くの人が自然に身につけていました。

精神分析の考え方では、こうしたルールやモラルを支えているものを「象徴的秩序」と呼びます。簡単に言えば、「人としてどう生きるべきか」を示す、見えない道しるべのようなものです。これは、家族や教育、法律、宗教などによって長い時間をかけて私たちに浸透していきます。

しかし、最近ではこの「象徴的秩序」が弱まり、社会全体で「ルールを守ることの意味」が薄れてきているように思えます。

社会の変化と秩序の揺らぎ

なぜ、こうした見えない秩序が崩れてきたのでしょうか?いくつかの理由が考えられます。

1. 価値観の多様化とルールの曖昧化

昔に比べ、現代社会は多様な価値観が認められるようになりました。「こうあるべき」と決めつけず、それぞれの生き方を尊重することが大切になっています。しかし、その反面、「何が正しくて、何が間違っているのか」が曖昧になり、迷う人が増えています。

2. 権威の弱体化

親や教師、社会制度といった「権威」を持つ存在の影響力が弱まり、ルールを教えたり、行動を抑制したりする役割が希薄になっています。その結果、「やってはいけないこと」の境界線が曖昧になり、自分の欲求のままに行動してしまう人が増えているのかもしれません。

3. SNS社会の影響

現代では、SNSを通じて簡単に「いいね」や「フォロワー」を得ることができます。そのため、人々の承認欲求が「短期的な結果」に向きがちになり、長期的に自分の行動を振り返る機会が減っています。「この行動をするとどうなるか?」を深く考えずに、衝動的に行動してしまうことが多くなっているのです。

4. 成長過程における境界の曖昧さ

子どもと大人の境界がはっきりしなくなり、自己制御を学ぶ機会が少なくなっています。昔は「社会に出る前にしっかりとした準備をする」という考えがありましたが、今は「自由に伸び伸びと成長する」ことが優先される傾向にあります。その結果、ルールや他者への配慮を学ぶ機会が減っているのかもしれません。

モラル低下を防ぐためにできること

こうした社会の変化の中で、私たちはどのようにして「秩序を取り戻す」ことができるでしょうか?単に厳しいルールを作るだけでは、根本的な解決にはなりません。重要なのは、次のような取り組みです。

1. 「なぜルールが必要なのか」を考える機会を増やす

ルールは単なる決まりごとではなく、「自分や周りの人を守るため」にあることを意識することが大切です。学校や家庭で、日常的にルールの意味を話し合う機会を作ることが有効です。

2. 他者との関係性を意識する

モラルやルールは、他者との関係の中で生まれます。例えば、家族や友人、地域社会との関わりを深めることで、「自分の行動が誰かに影響を与える」という感覚を育むことができます。

3. 長期的な視点を持つ

すぐに結果が出なくても、長い目で自分の行動を振り返ることが大切です。短期的な欲求に流されるのではなく、「将来自分がどうありたいか」を考える習慣を持つことが、モラルの向上につながります。

おわりに

私たちの社会の中で、見えない秩序が崩れつつある今、一人ひとりが「自分の行動と社会のつながり」を意識することが大切です。単なるルールの遵守ではなく、「なぜそうするのか」を考える力を育てていくことが、これからの社会に求められるのではないでしょうか。

犯罪の背景には、こうした社会の変化が密接に関わっていることを知ることで、私たちもより良い社会を作る一歩を踏み出せるかもしれません。

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