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サラリーマン心理士の知られざる日常 ~カウンセリングだけが仕事じゃない!~
臨床心理士/公認心理師
= カウンセリングする人
そんなふうに思っている方、結構いらっしゃるかもしれません。実は、臨床心理士の仕事はずっと広く、もっと多職種との関わりの中で成り立っています。
病院や施設で働く心理士は、心理検査やカウンセリングだけでなく、医師や看護師、精神保健福祉士(PSW)、作業療法士(OT)、栄養士、訪問看護など、さまざまな専門職と協力しながら、患者さんの治療や支援に関わっています。
精神科入院と聞くと「一生退院できないんじゃないか」「薬漬けにされる」と考える方もいると思いますが、そんな時代ではありません。国の配分する医療費は限られています。適切な治療を提供することで、短い方で数日、長い方で3ヶ月程度で退院できる時代です。
今日は、そんな私のとある1日をご紹介します。もしかしたら、これまで抱いていた「カウンセラー像」が少し変わるかもしれません。
Am 8:00~ 朝のスタート:臨床心理課ミーティング
出勤するとまず、臨床心理課のミーティングから一日が始まります。常勤心理士9名が各病棟を担当しているので網の目を縫うように検査やカウンセリングを配置していきます。
Am 8:10~ 地域医療部門の多職種ミーティング
次は、病院全体の精神保健福祉士、臨床心理士、訪問看護部門のスタッフが集まるミーティングです。ここでは、病棟の状況を把握し、どの患者さんがどの段階にいるのか、どんなサポートが必要かを確認します。
Am 8:30 ~ 救急病棟回診:スーパー救急ならではの光景
私が担当しているのは、精神科救急入院病棟、通称スーパー救急病棟。24時間いつでも新規入院を受け入れるため、短期間での治療と退院が求められる現場です。朝出勤してみると、受け持ち患者さんがドドッと増える忙しい病棟です。
「回診」と聞くと、ドラマでよく見る白衣を着た医師たちがずらりと並び、威圧感たっぷりの雰囲気を想像するかもしれません。
実際のスーパー救急の回診はちょっと違います。大体の流れは決まっているものの、医師、精神保健福祉士、作業療法士、栄養士、臨床心理士、ナース、訪問看護、地域医療関係者など、多職種が患者さんと、あるいは多職種間同士情報を交換しながら患者さんと会話を交わしていきます。心理士は患者さんと接しながら心理検査のバッテリー(組み合わせ)を考えたりカウンセリングの日程を詰める場合が多いです。外から入ってくる人はワイワイがやがや賑やかで何をしているか分からないはずですね。
Am 9:00 ~ 多職種ミーティング
ここでは、回診の結果を受けて多職種が集まり、特定の患者さんについて話し合います。個別の治療方針を決めたり、支援の方向性をすり合わせたりする場です。各職種45秒で専門的見地から見立てと援助方針を伝えます。
心理士の役割は、心理検査の結果をもとに、患者さんの自我の機能や防衛パターン、性格や認知の特徴、対人関係のパターン、発達特性、知的処理能力などをわかりやすく共有すること。「この方にはこういうアプローチが合いそうですね」と具体的な提案を行います。コツはドクターに有無を言わせないデータとロジックで固めることです!
Am 9:30~ コメディカルミーティング:ここだけの話
回診が終わると、医師のいないコメディカル(医療専門職)のミーティングが始まります。ここでは、各職種が自由に意見を出し合い、患者さんへの細かな対応を調整します。
ちなみにこの場は、ドクターに直接は言えない「ちょっとした本音」が飛び交うこともあります。例えば、「先生が言うプラン、正論なんだけど、この患者さんの性格的に絶対うまくいかないよね」なんて話が出ることも。こうした“ここだけの話”ができるからこそ、現場に即した柔軟な支援が可能になるんです。
Am 10:00~ 外来カウンセリング:トラウマカウンセリング
ミーティングが続いた後、ようやくカウンセリングの時間です。私が担当するのは、複雑性トラウマを抱える患者さんが多く、通常のカウンセリングに加えてEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)を組み合わせることが多いです。トラウマケアは慎重な進め方が求められるため、患者さんの状態に応じて適切なペースで進めていきます。
Pm 1:00~ 昼食(さっと済ませる)
短い昼休憩を挟み、午後の業務へ。
昼食は"飲む"物、
病院は究極のブラック企業です。
Pm 1:10~ 新患の心理検査
午後は、新規の患者さんの心理検査を担当します。WAIS(知能検査)、TEG(交流分析)、SDS(うつ尺度)、バウムテスト(描画検査)、発達検査、もの忘れ外来の認知機能検査など、多岐にわたります。
本来の、心理検査は、単に数値を出すためのものではありません。患者さんの特性や生きづらさの背景を明らかにし、適切な支援につなげるための重要な手がかりになります。
Pm 3:30~ 家族面談:特性の理解と支援の共有
患者さんのご家族と面談し、心理検査の結果をフィードバックします。特に発達特性を持つ方の場合、家族がその特性を理解し、適切なサポートを行うことが重要です。
ここでは、患者さんの健全な部分と、支援が必要な部分を丁寧に説明し、退院後にどのような関わりが有効かを具体的に話し合います。
Pm 6:00 ~ 1日の終わり:同僚との雑談も大事な仕事
夕方、会議や家族面談がない日は、電子カルテの入力や心理検査の分析をしながら、同僚と雑談を楽しみます。心理士同士は基本的に個人で動くことが多いので、こうした何気ない会話の時間が、臨床心理課のチームワークを支える貴重なひとときになります。
心理士の仕事は、チームで支える仕事
カウンセリングや心理検査だけでなく、心理士の仕事は多職種との連携が不可欠です。医師や看護師、PSW、OT、栄養士、訪問看護など、さまざまな職種と協力しながら、患者さん一人ひとりに合った支援を模索しています。
あなたの知らない心理士の世界、少し覗いていただけましたか?