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年明けに慌てふためいてnoteに駄文を上げようともがいた還暦を迎える男の記録

還暦。私が気付かないうちに十干十二支が一巡して戻ってきてしまった。60歳、いや冗談でしょ。私はこの前まで学生だったはずだ。会社の後輩には「俺まだ若手社員なんで・・・」と言っては笑われている(そりゃそうだ)。だが私の頭の中では学生時代や若手社員時代からの時間が途切れることなくずっと続いているのである。成人式ならぬ中年式や老年式などなく、「今年からあなたはベテラン社員になります」などと言われたわけでもない。気付けばいつのまにか今日になっていたのだ。だから「若手社員だ」と主張するのも無理もないのである(いや、無理はあると思うが・・・)。こんなに何の自覚もなく還暦を迎えてもよいのか? 周りの人達も皆そうなのか? 亡くなった父や祖父にも聞いておけばよかったと思うが後の祭りだ。

いずれにせよ迎えてしまったからには仕方がない。折しも年末には会社から「退職再雇用時の給与はこのくらいになりますよ」との提示を受けた。何のとりえもない初老の男を再雇用してもらえるのは有難いことだし贅沢しなければ生活できる金額ではある。ただこれまでの自分の人生は何だったのか、自分はこのまま細々と老いさらばえていくのか、改めて金額を見た時にショックが無かったと言えばウソになる。そして年明け。大晦日のももいろ歌合戦のアイドルメドレーえげつなく楽しかったな~と余韻に浸っているうちに、何の自覚も準備も覚悟もないままついにその年を迎えてしまったのである。

元旦、何かをしなければならないことはわかっているが、とりあえずニューイヤー駅伝を見る。理由はない。自分にとって正月といえば駅伝なのだ。お昼を食べて考えよう。当てはないがネットを探る。世の中にはFIREなどといって若くに経済的自立を果たしてリタイアする人もいるという。ならば私もFIREできるようになればよいのだ。豊かな人生を送るためにはお金があるのに越したことはない。きっとそうだ。おっ、いい感じで検討が始まったぞ。ネットにはその手の情報が溢れ返って脳内ショート気味だが一つの記事が目に留まった。

「2つ目の稼ぎ口がない人は下層老人まっしぐら」、「一番危ないのは自分には関係ないと思っている人」、いやあんた俺の人生見てたんかい!と突っ込みたくなるような文章が目に飛び込んでくる。そのとおり、私はこれまで他人事だと先延ばしにしてきたのだ。このまま俺は下層老人まっしぐらなのか、いや、ここには救いの言葉(釣りの言葉?)も書かれている「それはいますぐ稼ぎ口を2つにすること」。よくはわからんがこれはきっと神様が与えてくださった救いの道に違いない。蜘蛛の糸のカンダタと言われても構わない(蜘蛛の糸なら神様ではなく御釈迦様か)。なにしろ私はFIREどころかいつ「You're fired !」と言われても文句の言えない人生の瀬戸際まで追い込まれた身(いや、そこまでじゃないと思うが)。私だけでもこの本を買って迷いの中から這い出すのだ。善は急げで早速近所の本屋に繰り出すが、世の中的には元日のこの日に書店が開いてる道理はなかった。

2日。書店はともかくまずは箱根駅伝である。細かいことはわからないが正月は駅伝を見ておくのが習わしなのだ(前にも聞いた)。芦ノ湖への到着を見届けてから繁華街の書店へ。街中も華やかな賑わいを見せているが私はそれどころではない。この本を買えるか否かに私の還暦後の人生がかかっているのだから。

あった、これだ。この本を買えば私は老後不安を解消するライフワークが見つけられ、自由が手に入る働き方ができるのだ。「40代から」と書いてはあるがこの歳になれば40代も60代も誤差である。よかった、これで私の迷いは解決したも同然である。解決ついでにユニクロに寄って奥さんが勧めてくれた極暖のシャツを買って帰ろう。それからコレステロール対策のトマトジュースがなくなっていたのでスーパーにも寄らないと。還暦は忙しいのだ。

3日。本が手に入った安心感でゆっくりと起床する。駅伝はスタートしているがそれでよい。私が一番見たいのは最後のシード権争いであり、それまでの10時間はそのための序章なのだから(それはあまりに選手に失礼だろう)。4校の熾烈なシード権争いの決着を見届けて昨日買った本を手に取る。なるほど、サラリーマンをやりながら稼げる副業を見つけることでノーリスクで自立する、私が探していたのはまさにこういうことなのだ。40代から始めて50代で自立できれば60歳の定年再雇用という悩みから一気に開放される。そう、40代から始めれば・・・。
私はなぜ20年前にこの本を手に取らなかったのだろう。巻末を見る。「2022年3月29日 第1刷発行」、バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンでもなければそれは無理なことだった。著者の方も「40代から」と親切に注意してくれているではないか。これ以上取り乱すのはよそう、誤差が思ったより大きかっただけなのだ。(今40代のサラリーマンの方、後々後悔しないよう是非ご一読下さい)

気を取り直して。年始早々わざわざ初売りでごった返す街に繰り出し1,650円を払ってこの本(と極暖ヒートテックとトマトジュース)を買ってきたのだ。どこかに蜘蛛の糸はないのか、私は再び読み進めた(1,650円分の元は取るのだ。できればヒートテックとトマトジュース分も)。すると「どんな副業も奮闘記をブログに書き続けて種まきをする」。これだ! とりあえずブログを書いておけばいつか魔法の武器になるのだ(いや、著者はそんな意味で言ってないと思うが)。遥か昔、20代の頃に一時期だけ雑誌の連載や原稿書きのアルバイトをしていた記憶が突如としてよみがえり、「ほら、お前にはこれくらいしか出来ないだろ。嫌ならこのまま不安を抱えて朽ち果ててもいいんだぞ」と耳元で囁かれた気がした。これしかない(そんなことは無い)。自分で何も学んでこなかった分、他人の言うことには素直に従うのだ。還暦後の不安と迷いからの解脱、自立したライフプランの確立のために私はブログを書くのだ。これで1,650円分のもとは取れた。

4日。やると決まれば話は早いが還暦は動きが遅い。しかも今日は前から予定していた長距離ウォーキングの日だ。歩くことは生活習慣病や認知症の予防効果もあるという。更に無料であるから言うことは無い。還暦は忙しいのだ。5時間にも及ぶウォーキングから帰宅し(どうみても歩きすぎだ)パソコンの前に座る。さて、ブログってどうやって書けばいいんだ? 何分遥か昔にパソコン通信でNIFTY-Serveに書き込みをして以来である。昨日の本を再び手に取るとWordPressやnote、アメブロなどの名前が並ぶ。うん、ネットでよく見ているので読む方なら何の問題もない。問題は書く方なのだ。どれを選べばよいのかとりあえずネットで探すととてつもなく膨大な比較・説明サイトが。この中から自分にあったブログツールを決めるなんて何日かけてもできそうもない。しかも正月休みは明日まで。仕事が始まったら自分でブログを始めるなど面倒なことをやるわけがない。60年も自分をやってきたのだから自信をもって断言できる。既に時刻は1月4日の夕刻。私の還暦の後の人生は、残り1日と数時間にかかっているのである(いや、もっとたっぷり時間はあったように思うが・・・)。

24-TWENTY FOUR-のようにこれからは1分1秒の無駄も許されない。まずは速やかにブログツールを決める。わかりやすい比較サイトはどこだ! クソッ!「あなたが何をやりたいかによります」だと? そんなことはわかっている!俺は結論だけ求めているんだ。選択の余地はない! ・・・失礼。切羽詰まって言葉遣いが荒っぽくなってしまった。すまないと思っている。
再び気を取り直して、アメブロは芸能人が使っているイメージだが私のような還暦の素人が使って怒られないのだろうか、一流芸能人様に申し訳がない。WordPressはレンタルサーバーを申し込んで、ということはもしかして有料なのか?よさげなサービスだが退職再雇用で給与と小遣いを大幅に削減される還暦オヤジにとって新たな出費はきつい。noteは・・・無料! そう、やはり無料は強いのだ。noteの運営会社様がいかなるビジネスモデルで収益を回しておられるのか今の私は知る由もないが、この無料の恩恵に有難く乗っからせて頂くことにしよう。

さてnoteと決まれば早速使い方を検索。するとnoteでの稼ぎ方を指南してくれる膨大なサイトが。最初は1万円というものから月5万円も、更に100万、500万、果ては1億円まである。1億円は無理でも月10万円くらいなら素人の私でもできるかも、またぞろFIREの淡い妄想が鎌首をもたげる。恐る恐る覗いてみると「XやInstagramで集客して」、「コミュニティ化して」、いやどう考えても無理! 私はこれまでXやYouTubeでも投稿はおろか「いいね!」ボタンすら押したことがない。インターネットは怖いところで「データは統計的に処理します」とか言いながら裏ではネットの偉い人(?)が「こいつこんなところにいいね!してやがるぜ(笑)」などと他人の趣味嗜好をみて嘲笑っているに違いないと思っている。そんな人間がXやInstagramで集客などできるわけがない。そんなことしなくても、noteの公式動画に出ておられたnoteディレクターの中野さんというお嬢さんも「まずは創作を楽しむことが大切」と言ってくれているのだ。私は中野さんの言うことを信じる(やはり他人の言うことには素直に従う人間なのか?)。

再度気を取り直し、中野さんの言うことに従って「noteに登録したら初めにやること」に取り掛かる。時間がないのだ。速やかにミッションをこなしていく。まずはニックネームと自己紹介。今は適当な名前を入れておけばよいのだろう。プロフィール画像はうちのセキセイインコの写真をとりあえず載せておく。続けてソーシャル設定、無いからパス! 「スキ」のリアクション設定、還暦のオヤジの駄文など誰も読まないからパス! いや、世の中には想像もつかないような趣味嗜好を持った方がこのブログを見る可能性がゼロとは言い切れない。そのいつかの誰かのために失礼のないよう最低限の設定だけはしておこう(考えている余裕はないのでサンプル文をそのまま使わせてもらう)。

おお、早いぞ。このまま行けば休みのうちにブログができてしまう。そうすれば私は還暦後の人生の迷いや不安を全て払拭して新しい年の仕事に入ることができるのだ。残るは「自己紹介記事を書いてください」・・・。いや、そりゃそうだよね。ブログを始めるってことは記事を書くってことだよね。わかっちゃいたけど時刻はもう1月4日の24時を回っている。30年以上記事など書いたこともないのに残り1日で書き上げることなど果たしてできるのか。だがここでやらねば私の人生は終わってしまう(いや、そこまでの話か?)。更にここでやめてしまったら、私をサポートしてくれたnoteディレクターの中野さんにも申し訳が無い。とりあえず元日から今日までの出来事を書いておけば、なぜ私がnoteを始める羽目になってしまったのかを何とか伝えられる記事にはなるだろう。残りの時間、私の還暦後の人生をかけて自己紹介を書くのだ。

と決意も定まったらまずは睡眠を。還暦の身体に睡眠不足は大敵である。それと明日はお昼前に近所のスーパーに豚バラ肉の安売りを買いに行くことを頼まれていたのだった。還暦後の人生も大切だが、目先のスーパーの安売りは実質家庭内居候と化している還暦男にとっては最優先で対処すべき事項なのだ。

5日。書いた。書いてはみたもののやはり頭はパンクしてしまった。スーパーでついでに買ってきた成分無調整豆乳を入れて作ったコーヒーも既に効果切れ。やはり健康を考えたカフェインレスコーヒーでは効き目がなかったのか。時間的にも体力的にももう限界だ。推敲?見直し?もう無理。とにかくこの記事をnoteにアップすれば還暦後の私の人生は豊かで幸せに満ちたものになるはずだと信じて(年始に目指していたものとは違うような気がするが)、今はこれをアップすることだけを考えよう。
しかしこんな文章、本当に世の中のブログに上げていいのか? まあどうせ誰も読まないし次に書くかどうかもわからない。究極の自己満足、正月休みの道楽だから、きっと、多分、これでいいのだ。

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