教師が不登校の生徒に悩んでいるときに読んでほしい本⑪自分が分からないから他人が分からない

・自分の気持ちを分かっていない子どもは、トラブルの処理が苦手なことが多い。
 そして、このような自分の気持ちを言語化できないような、つまり言語力が高いとは言えないような生徒は、当然ながら他者とのコミュニケーションも得意ではありません。自分の気持ちが自分で説明できないのですから、どこかでかみ合わなくなりがちです。
 例えば、中学生の生徒Aさんは、自分の気持ちを言葉にするのが苦手な子どもだとします。このAさんが休み時間に教室にいると突然、生徒Bさんに嫌なことを言われたとします。
 Aさんは、このような嫌な体験をどのように処理しようとするでしょうか。なんと、Aさんは、別の嫌な言葉をBさんに言い返してしまいました。しかも、その場ではなく別の日に。Aさんは、「Bさんは以前こんな嫌なことを言ってきたから、自分も嫌なことを言ってもいいと思った。」と考えていました。ちょうど嫌なことを言える状況とタイミングが来たから言ったようです。
 しかし、こんなことがあったBさんは「以前Aさんに言ったあの言葉でAさんは怒ってしまったのだな。だから、これからあの言葉を止めておこう」などと鋭く察するとは現実的に到底思えません。
 実際はBさんの心の中でAさんに言った言葉と、別の日にAさんに言われた嫌な言葉は全く結びつかず、ただAさんへの嫌悪感が増しただけで、関係はさらに悪化してしまいました。
 学校で嫌なことを言われるという経験は1度や2度ならば、おそらく誰にでもあることではないでしょうか。
 この場合、AさんがBさんに嫌な言葉を言われた直後に、Bさんに対して「今のその言葉は、私はものすごく気分が悪かった。だから、やめてくれない?」と自分の気持ちを相手に伝えられれば、おさまったのではないでしょうか。
 逆に、「拒絶」のメッセージを発しているにも関わらず、Bさんがその発言をやめなかったとしたら、Bさんには許されない悪意があるということになり、先生が助けてくれるでしょうし、Aさんは、何も悪くないことになります。子どもどうしの関係では、相手が嫌がってもとことんやり続けることは少なく、中間的なものが多いです。だから、相手が嫌がっているなと感じれば、その行為はやむことも多いのです。さらに、相手が嫌がっているのに続ければ、先生に叱られてしまいますので、叱られたくないという気持ちも働くものです。
 つまり、自分の気持ちを相手に伝えられるかどうか、結果がこれだけ変わるということです。これをするには、まず感情を言葉にして自分で認められていることが必要です。
 さらにこのような言語の力と感情操作の力が発達すれば、「今自分は嫌なことを言われて、被害者になっている」と客観的に自分を見つめ、自分で自分を慰めたり励ましたり、と高度な感情のコントロール。「嫌なことを言われてもスルーする」という大人の対応ができるようになるかもしれません。

 そして、このような子どもは対人距離をつかむことが苦手であったり、集団の中の会話に入っていくのが苦手であったりします。自分の話したいことをいきなり話し出したり、普段話さない相手に突然近づいていったりというようなこともあります。自分の気持ちが十分整理されていないために、相手の気持ちを考えた上での発言ができない、と考えられます。
 まずは、言語化により自分の気持ちを整えることで、他人の気持ちが入るスペースが生まれる。というイメージです。あらゆる欲求が混ざった状態では、うまく他者と関係を築くのは難しいのです。色々なトラブルが増えることになります。


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