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【読書感想】「銀河の片隅で科学夜話」

「銀河の片隅で科学夜話」
全卓樹 (著)

エンタメ度    ★★☆☆☆
文の理解しやすさ ★★☆☆☆
ギミック性    ★☆☆☆☆
世界観の独特さ  ★★☆☆☆
読後の満足感   ★★☆☆☆
(この辺を重視して私は本を読んでるよという目安)

22個の不思議な話を集めた科学エッセイ。
「天空編」「原始編」「数理社会編」「論理編」「生命編」の5つのカテゴリーに分かれていて、文学的な表現と詩を使い叙情的に科学や物理学や統計学について語る。
色々なジャンルの知識をつけられるし、内容も身近なもので説明するのでそんなに難しくない。
挿絵も古風で綺麗で表紙もおしゃれでインテリアとしても素敵な本。

ただ、理系の論文風な文章と、文学的な文章が混ざっているような文体なのが、私にはちょっと慣れなかった。
理系の論文の文章っていうのは先に結論を、後に補足を書いていくような書き方で、読むことにリソースを割かなくても情報を拾えるように作られている。
それに慣れていると文学的な文章の結論があるわけではない書き方には拾うべき情報がどこか分かりにくいと思ってしまう。
この作者の理系が出ている部分では私の中の理系スイッチが勝手にONになり、途中で文学に移行してしまうとスイッチが切り替わらないという現象が起きた。
その逆のパターンもあった。最初が文学っぽいけど読んでるうちに理系になる、みたいな。

化学夜話は前書きに、編集に柔らかい文章に変えたらいいのではとアドバイスをもらったと書いてあって、おそらく筆者の本来の文体よりも文学的に変えているんだと思った。
私は硬い文のほうが得意なんだ。親しみやすさを感じないぐらいの距離感が私にとっては居心地がいい。
あるいは、そこに情緒を感じている作者の領域に私の感情が追いついてないからそう思うのかもしれない。

しかし、この本の良さっていうのは、文学的な部分やおしゃれな言い回しやエピグラフがあるところで、そこが素敵だからこの本の全体的なおしゃれさを保っている。
科学エッセイというジャンルを超えて、どんなジャンルとも表現できないような不思議な本になっている。


ここからは面白かったところの話。


トロッコ問題の話はすごく面白かった。
私はトロッコ問題をただ意地悪な心理実験だと思っていたんだけれど、今のAIの最先端では、例えば車の自動運転のシステムを作るときに、どうしても人間を轢いてしまうのを避けられない場合を想定しなければならない。
多い方を選ぶが少ない方を選ぶかと言うプログラムに必要なんだ。
そしてトロッコ問題には国民性が出るらしい。
「線路を切り替えて少ない人数を犠牲にする」が合理的に思えるけど、国によって考え方が違うなら何が正義かも違ってきて、AIの挙動も変えなければいけないんだね。
非情に面白い話だった。

それとファースト・ラグランジュホテルのお話が面白かった。
最初気取った感じの文章の始まり方をするけど、テーマがとてもおしゃれなんだ。
月と地球の間の安定した地点(ラグランジュ点)に、最初に有人の衛星を所有できるのはどこの国かと言うお話。そして昨今の民間人の宇宙進出の気鋭も高まっているので、そこは国際交流のようになってホテルになるかもしれないと言う夢みたいなお話だった。これはいつか私がちょっとしたSSを書くときのタイトルにしたいなと思うおしゃれなテーマだった。

「17%の知識者がいれば、浮遊票は知識者のほうに傾く」お話も面白かった。
投票の際に大体が特に意見を持たない浮遊票で、意見がある人につられていくという。意見がある人が17%を超えると、ほぼ勝ち確になるという結果がいろんな実験で証明されているようだ。
私は浮遊票の存在だなぁと前々から思っていて、選挙なんか言っても世界は変えられないだろうという無力感も感じていたんだけど、意思を持った17%のうちの一人になれば何かを変えられるかもしれないと希望を持った。
17%なら、なんだか手が届くような気がする。


詩についての知識があればもっと楽しめただろうな。
ドマイナーな日本人の詩がいくつか引用されている。
「吉田一穂」という人。
BLEACHの久保帯人先生みたいな詩だな、という印象を持った。
なんか難しくてオサレだ。
いつか詩集を買いたい。

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