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【読書感想】「掃除婦のための手引き書」

「掃除婦のための手引き書」
ルシア・ベルリン

エンタメ度    ★★☆☆☆
文の理解しやすさ ★★★☆☆
ギミック性    ☆☆☆☆☆
世界観の独特さ  ★★★★☆
読後の満足感   ★★★★★
(この辺を重視して私は本を読んでるよという目安)

ルシア・ベルリンという作者のほぼ日記のような物語。短編集。時系列はバラバラに並んでいる。
あまり明るい話ではない。虐待(暴力も性的なものも)についての記述があるから、それが地雷の人は読むのを控えたほうがいい。

脚色はあるし事実をぼかしもしているけれど、感じた事や考えたことの描写がリアルで生々しい。
文章は話し口調で短い言い切りが多いから読みやすいといえば読みやすいけど、作者個人にとっての親しみやすい単語(メキシコとかスペイン語?)が使われていることもあるし、知らない地名も多かった。

世界観が独特というか、世界の見方とその表現方法が独特だった。何かに対する描写の具体的すぎてそれが何かわからないけど親しみだけはすごい伝わってくる、みたいな。

読後の満足感はある。ただしこれは私が「大人になったから分かるけど、子どもの時は意味が分からなかったもの」の話を聞くのが大好きだからだ。
その上私は、他人の死生観や乗り越えられないまま受け入れた出来事の話に非常に興味がある。

これを読むと心にダメージを負う可能性がある。
私は好きだし影響も受けたけど、人におすすめはしにくい……



感想

なんてにがいんだろう……
この人、苛烈な環境を生き抜いてきた。
心の動きがありありと伝わってくる。
苦しさも楽しさも愚かさも。
辛い日常の中に、愛おしい思い出と愛すべき人と日常の中のほんのいっとき笑えることを見つけるのも。
ルシア・ベルリンの人生の追体験をしたかのようだった。

これぞ人間賛歌だ、と私は思った。
ルシア・ベルリンはそんなつもりでは書いてないと思うけど、私はそう受け取った。
孤独と死に寄り添ったような人間賛歌。


これは漫画版のナウシカを読んだときの感覚に近い。
ナウシカは「いのちは闇の中のまたたく光だ」と言う。
「私達は血を吐きつつ繰り返し繰り返しその朝をこえて飛ぶ鳥だ」とも言う。
このシーンは長い間私の心に残っているんだけど、ルシア・ベルリンの本を読んでいる時にずっとこれがちらいついていた。
短編のタイトルで言うと、「ママ」「沈黙」あたりが特に。

「苦しみの殿堂」で母の生前好きだったものを捧げる祭壇に睡眠薬やピストルやナイフを置くのが好き。
母がよく自殺未遂をしたかららしい。ブラックジョークが効いている。
実際の話しか脚色した話かはわからないけど、そういう他愛もないジョークが散りばめられていて笑えると同時に不思議と心にグッとくる。


「巣に帰る」のこの文章が好き。

わたしがここまで長生きできたのは、過去を全部捨ててきたからだ。悲しみも後悔も罪悪感も締め出して、ぴったりドアを閉ざす。もしちょっとでも甘い気持ちで細く開けたが最後、バン!たちまちドアは押し破られ、苦悩の嵐が胸の中に吹き込み恥で目がつぶれコップや瓶が割れこぼれた砂糖とガラスの破片でしたたかにすっ転んでおびえ取り乱し、そうしてやっとぶるぶるふるえて泣きながら重いドアを閉ざす。散らばった破片を一から拾いなおす。

316ページ

表現が素晴らしい。私もこの気持ちは分かる。「恥で目がつぶれ」、とても分かる。嫌な記憶には確実に恥が関係してる。
そして、この人は歳を取ってからも克服なんてまるでできていないことが、私の心にとても優しい…


繰り返し登場するメイミー、シスターセシリア、ジョン叔父。
ルシア・ベルリンにとって人生を象徴する人物なのだろう。
時折立場を変えて同じ名前で出てくるから、支離滅裂な悪夢を見ているような感覚になった。

「ママ」で息子の嫁のココに強かに振る舞うようアドバイスをした話も良かった。女に淋しい思いをさせる男がたとえ息子だとしても「あの馬鹿」と言えてしまうことが良い。
この行いに「闇の中でまたたく光」を感じた。人生のリアリティがある。


あとは、これに似た形で自分の体験を文章にしてみたい、と思うようになった。
ルシア・ベルリンの文章が好き。親しみやすい。

繰り返しになるけど、おすすめはしにくい。つらいから。
だけど私は読み終わった今、すごく影響を受けている。


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