美味しい記憶は心に残る
カフェの「カ」の字も飲食の「い」の字も全く無い私は、看護師として大阪の大学病院に就職しました。
外科病棟に新卒で配属された当時、新人ナースは私を含めて3人。
大学病院での3交代勤務は超ハード!
慣れない緊急対応や、手術も毎日何件もあるような、とにかく忙しい病棟でした。
次の休憩はいつになるのか。
夕食の出前を温かいうちに食べれるなんて、ミラクル!
ドクターには怒られて当然。
おまけに先輩も厳しいし(涙)
そんな疲れ切った私たち新人の間で、ひそかな癒しが
『病院のすぐ近くにある謎のフレンチ店』
「今日行く?」と誘われ、行ってみたそのお店は、外観ボロボロ、看板もないような"隠れ家”というより“怪しいお店”なんです。
扉を開けると、カウンター席のみの落ち着いた空間と、マスターが一人黙々と料理を作る姿が。
「え?こんなところでフレンチ?」という驚きはあったものの、そこには見た目とは裏腹に、絶品料理と心温まる接客が待っていました。
メニューはその日の仕入れ次第。
おすすめを中心におまかせすると、まるで魔法のようなタイミングで出てくる美味しいお料理たち。
疲れ切った身体と心に沁みわたる美味しさでナース仲間と「ここは明日への活力!」と何度も通うようになりました。
マスターも私たちを覚えてくれて
「今日は特別デザートあるよ。」とニヤッと笑ってサービスをしてくれることもあったり。
忙しいナース仲間と、「ここで笑ってご飯を食べる時間だけは天国」そう思っていたくらいです。
当時の私は「カフェをやりたい」なんて1ミリも考えたことがありませんでした。
むしろ、「いつ寝るか」「明日のシフトは何時間?」が最大の関心事。
目の前の業務に追われる日々で、余裕なんてどこにもありませんでした。
でも、振り返ってみると、このフレンチ店で感じた”料理の力”や”一息つける場所の大切さ”が、のちに私がカフェを開業する根っこの部分になっていたのかもしれません。
当時の私は、そんなこと、知る由もなく、
今日のフレンチとデザートに心躍らせていたのでした。
美味しい料理や居心地の良い空間が、人をどれだけ元気づけてくれるかーー。
そんな美味しい記憶は、今も心の中に残っています。