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【お仕事小説】晴は疑問符抱えてる[1]何を信じればいいのか、わかりません


恋愛禁止を守った、学生時代。指示されるままに書いた、異動希望。
学校や会社に促されるまま素直に従って生きてきたけど、そうじゃない人の方が人生うまくいってる気がする。
生きることに不器用な大崎晴(おおさきはる)は、地方の精米メーカーで働く26歳。5年目の節目に、ジョブローテーションがきっかけでカスタマー事業部から人事部に異動する。
仕事ってなに?恋愛ってなに?ふつうってなに?
なかなか答えの出ない疑問たち。
ときには自分なりに解釈できたり、できなかったり。そんな、数ヶ月の物語。

あらすじ

クレジットカードが、止められた。

朝。

「緊急のご連絡」

大崎晴は、布団の中で一通のメールを見つめていた。

送り主は、クレジットカード会社。

いつもの利用料金のお知らせだ、と思っていたら違った。

「不正利用の疑いがあるため、お客様のクレジットカードを一時停止しております」

どういうこと?

ピピピ、ピピピ…

セットしていたアラームが鳴る。
とりあえず、起きないと。

迷惑メールだろうか。でも、本当のような気もするし、嘘のような気もする。

どっちなんだ?

すっきりしないままキッチンで手を洗う。冷凍庫から食パンを取り出して、トースターで焼く。タイマーのツマミをググッと右に回す。一捻りでだいたい5分くらい。
トースターの中が明るいオレンジ色になるのを横目で見ながら、コーヒーを準備する。
棚から取り出したコーヒーフィルターをセットして、粉を入れ…そこねた。

床に散らばる、粉。

やってしまった。

床からただよう、コーヒーの苦い香り。

片付けなきゃ。

チーン、とトースターが鳴る。

コーヒーは諦めて、焼けたパンをテーブルに運ぶ。テレビの電源をつけると、ちょうど天気予報の時間だった。

「今日の天気は、全国的に曇りのところが多いでしょう。ただし、大気の状態が非常に不安定です。ところによっては、にわか雨のところもあるでしょう」

そんなぁ。

今日は、ノーマイカーデーなのに。

パンを頬張りながら、悩む。

今日、傘、いるかなぁ?

スマホの天気予報アプリを開く。雨雲レーダーを見ると、夕方に降り出しそうな雰囲気だ。

ノーマイカーデーに限って。

いつもなら、天気予報はそこまで気にならない。車通勤だからだ。都会とは言いがたいこの地域では、どの家庭でも車がメインの移動手段。公共交通機関もあるにはあるけれど、利用者が少なく、毎年どこかしらの路線は減便され、どこかしらは廃線になっている。

車に乗るようになってから、晴もバスや電車に乗る機会はめっきり減った。会社の飲み会か、今日のこんな日を除いては。

ノーマイカーデーは、今の県知事が設定した「脱二酸化炭素運動」の1つだ。年に一度、この日は車ではなく公共交通機関を利用するよう呼びかけている。地域密着をウリにしているコマド精米にも、もちろん案内は来る。「車じゃなきゃ、どうやって通勤しろって?」「廃線を取りやめるのが先じゃないか」と、社員からは大ブーイングの施策だ。だから、毎年案内は来ても、大半の社員は受け流して車で出勤する。会社としても、本当に車か徒歩しか移動手段のない社員もいるから、そこまで強くは言えないし、ペナルティもない。だから晴も、どさくさに紛れて車通勤をしてもいいのだろうけど、入社以来、なんとなく律儀に守っている。

天気予報図の場面が切り替わり、気象予報士のアップが映る。

「もしかしたら、春の嵐になるかもしれません。お気をつけて。いってらっしゃい」

傘、持っていくかなぁ。

雑貨屋で買った傘は、タグがついたまま。プラスチックのヒモを切るのには、ハサミがいる。ハサミは、リビングにある。玄関とリビングの往復がめんどうで「いつか切ろう」と思いつつ、すぐ忘れる。今日も時間がないし、そのままでいいや。

食べ終わった食器を片付けて、身支度を済ませる。

床に倒れているかばんを拾う。

忘れずに傘も持って、玄関を出る。

バス停には、高校生が数人。
少し待つと、バスが来た。

ドアが開いてステップを上がると、同じ会社で働く前橋あかりがいた。

「大崎ちゃん、おはよう」

「同じバスだったね」

「この時間しかないもんね、ちょうどいい時間に着くの」

前橋あかりは、晴の中学校の同級生。同級生、といっても特に親しかったわけではない。けど、会社で再会したときは嬉しかった。

晴とは違う高校に進学し、高卒でコマド精米に入社したあかり。だから、同じ26歳でも、あかりは入社9年目、晴は5年目。会社ではあかりの方が4つ先輩になる。

「大崎ちゃん、傘持ってる。準備いいねぇ」

「今日、雨降るかもしれないって」

「え、そうなの?会社に傘置いてたかなぁ」

外は相変わらず、どんよりした空模様が続いていた。
あかりの所属は、商品開発部。晴は、カスタマー事業部。同じ会社で働いていても、部署が違うと意外と共通の話題はない。天気以外の話には広がらず、2人して、なんとなくスマホを取り出して、それぞれの世界に入っていく。

晴がスマホをつけると、メールが一件。

「再度のご連絡」

まただ。

送り主は、やっぱりクレジットカード会社。
次のバス停に停まる。

「ねぇ」

あかりにメールを見てもらおうか、と思って声をかけたと同時に、若い女性がステップを上がってきた。

「あ、あかり先輩だ!おはようございます!」
「おはよ」
「あれ、先輩、カラコン昨日と違います?」
「え、わかる?さすがだね!そうなの」

話しかけるタイミングを、失った。

会社の最寄りのバス停に着く。バスから降り、会話が弾む2人を前方に眺めながら、会社まで歩く。

外は相変わらずの曇天。

会社が見えてきた。
コマド精米は、従業員約200人ほどの中小企業。精米事業を中心にしながら、惣菜や化粧品部門にも進出している。創業以来大事にしているのは、地域とのつながり。定期的に地域の子どもたちを招いて工場見学も行われるし、地元小中学校の職場体験も毎年引き受けている。

晴は入社以来、ずっと同じカスタマー事業部で働いている。電話で来る問い合わせに答えるのがメインだが、ときにはメールやファックスでのやり取りもある。

「おはようございます」

本社社屋の2階にあるカスタマー事業部のフロアには、防音の重たいドアを開けて入る。5年もすれば少しは慣れるけれど、週明けの月曜日はいつも感覚を忘れて少し戸惑ってしまう。

共通デスクに寄って紙で配布される連絡事項を一枚取り、自分のデスクに向かう。

カバンを置きながら、一読。いつもいろいろ書いてあるけど、細かいことはいつも朝礼で部長が話すから、とりあえず大きなトピックだけ頭に入れておけばいい。
けど、今日は違った。

連絡事項に、自分の名前がある。

「え」

人事異動の通知だった。

え、うそでしょ?

異動通知 大崎晴 カスタマー事業部>HR

HR?ホームルーム?ホームルームって、なに?学校?

「おはよう、大崎さん」

同僚の倉田さんに話しかけられる。倉田さんは、晴より少し先輩の社員だ。

「おはようございます」

「異動だね」

「聞いてないです。ホームルームって、何なんですかね」

「ヒューマンリソース。人事部ですよ」

男性の声。カスタマー事業部唯一の男性、永島部長が晴の後ろに立っていた。

え?まさか。

始業のチャイムが鳴る。

永島部長が自分のデスクに戻る。

「みなさん、おはようございます」

「おはようございます」

朝礼が始まった。

「連絡事項にもありますが、大崎さんが人事部に異動になりました」

カスタマー事業部15人ほどの目線が、晴に向く。

「大崎さんの代わりには、新入社員が1人配属されます。入社前なのでまだ出勤はしていませんが、大崎さん、引き継ぐことがあったらまとめておいてください。それから、13時に顔合わせがあるそうなので、人事部に行ってきてください」

「…はい」

「では、本日もよろしくお願いします」

午前中の仕事は、ほぼ手につかなかった。いや、ついていたけど、何をしたか覚えていない。手も口も、動いてはいたと思うけど。

カスタマー事業部は、契約社員やパートを含めて総勢15人。そのうち、正社員は自分を含めて6人。部長以外は全員女性。入れ替わりも多く、仲良くなったかと思ったら契約期間終了、なんてこともよくあるので、人間関係は付かず離れずの距離感を保っている。

お昼。

「大崎さん、希望は出してたの?」

お昼休憩がたまたま重なった倉田さんに話しかけられる。

「いえ、出してないです」

でも、心当たりが1つ、あった。

「出してはないんですけど、あれ、あったじゃないですか、ジョブローテーションの」

「あぁ、あれ?」

「第三希望まで書けっていう」

「に、書いた?」

「はい」

あぁ、と腑に落ちたような顔をされる。

「それだぁ」

「え?」

それ?それって何?

「希望を書いたら、通るよね」

「え?」

希望を書いたら?

ジョブローテーションの希望用紙を思い出す。たしか「今の部署以外で、必ず第三希望まで書いて提出してください」と書いてあったはずだ。

今の部署、以外で。

「倉田さんは、希望、出さなかったんですか?」

「私は、現部署希望、って、書いたな」

「え?」

「ジョブローテーションって言っても、今年から始まった制度じゃない?異動するのってごく一部だと思うのよ。全員が全員ローテーションするわけにはいかないでしょ?仕事が回らなくなっちゃうし。残る人も必要じゃない?だから私は現部署希望、って書いたなぁ。手島ちゃんもだよね?」

ちょうどお昼休憩に入った、後輩の手島ちゃん。

「ジョブローテーションの希望ですか?確か、残りたいですって書きましたね」

知らなかった。

第三希望まで絶対に書け、って書いてあったから書いただけなのに。現部署を希望するならそれでもいいなんて書いてなかった。そんな抜け道みたいなことがあるなんて。そもそも、部長はそれを受け取って何も言わなかったの?書き直して、と言わなかったの?もし私が同じように書いていたら、紙、受け取ってくれたのだろうか。

「まぁ、決まっちゃったのは仕方ない。寂しくなるなぁ。人事部でもがんばってね」

「…ありがとうございます」

晴は、このカスタマー事業部で、ずっと働いてきた。大学を出て、まだ4年だけど。でも、ずっとここで、社会人をやってきた。戦力になっていたかどうかはさておき、思い入れは少なからずある。

でも、異動になってしまった。

13時から、人事部の顔合わせ。

5階の人事部フロアには、初めて入る。

「失礼します」

人事部は、6人ほどの部署らしい。

「どうぞ」と答えてくれた部長の梅津肇は、50代半ばで柔らかい雰囲気のある小柄な男性。

テキパキと動いている副部長の田淵美代子は40代くらい。ショートカットの髪で、いかにも仕事ができそうな雰囲気。何年か前、広報部から人事部に異動してきたらしい。

年下だけど人事部歴は晴より長い、イマドキ女子の朝井咲喜。

晴と同じくフロアをキョロキョロ見渡している菅沼快吏は営業部で、晴と同じく今年から配属になる。人事部の中では1番年下。

1番年上は誰かというと、梅津部長、ではなく、森岡邦男。70代くらいで、定年退職後も嘱託社員として数日出勤している。会社の中でも相当な古株らしい。

「カスタマー事業部から来ました、大崎晴です。よろしくお願いします」

「部長の、梅津肇です。詳しい業務内容については、また後日、打ち合わせをしましょう。とりあえず今日は、顔合わせくらいで。今の部署での引き継ぎもあるでしょうから。菅沼くんは僕の隣、大崎さんは田淵さんの隣のデスクを使ってください」

私と菅沼くんの返事が「はい」と重なる。

「では、とりあえず今日は解散ということで。田淵さん、先ほどの続きの話を」

「わかりました。朝井さんも、聞いておいた方がいいかも」

「行きます。森岡さん、事務に荷物が届いてるそうですよ」

「取りに行ってきましょうかね」

「引き継ぎがあるので、営業部に戻ります」

晴だけが、人事部のフロアにぽつん、と1人残された。

私も戻ろうか、と思ったときに電話が鳴った。

人事部には今、私しかいない。

取りたくないけど、取るしか、ないか。

「はい、カスタマー、すみません、人事部オフィス大崎で…」
「お世話になります!」

大崎です、と言い終わる前に、早口で切り込まれた。

「こちら、大変お得な条件が整っておりますので、今回特別にご案内しております!今からローンを組めば、老後の備えは鬼に金棒!」

矢継ぎ早で、相槌のひまもない。あ、これ、何かの勧誘だな?「結構です」の一言を差し込む暇もない。

「え、あの」

「今しかご案内できません!お客様だけの特別なご案内です!未来の投資のために、ご購入を検討していただけますでしょうか!」

どうしよう。

「え、あの、結構です、お電話ありがとうございました」

途切れない声に押されつつ、なんとか、切る。

後ろに人の気配がして振り向くと、田淵がこちらを見ていた。どうやら、少し前から聞いていたらしい。

「何の電話だった?」

「なにかの購入の勧誘?ですかね?」

よく状況が飲み込めず、ハテナが止まらない。

「あー、たまにあるんだよね。大丈夫?買ってない?」

「だい、じょうぶだと思います」

「そういうの、買う人っているのかねぇ」

「どうなんでしょう」

また電話がかかってこないうちに、急いでカスタマー事業部に戻る。

16時。永島部長に声をかけられる。

「大崎さん、そろそろ上がってくださいね」

ノーマイカーデーの日は、車で出勤しない旨を事前に申請しておけば、1時間早めに上がれる。公共交通機関の少なさへの配慮である。

帰りのバスに揺られながら、考える。

人事部かぁ。

仕事、また最初から覚え直しだなぁ。

アパートに帰ってくる。

ドアを開けて、気がついた。

あ、傘。

会社に忘れてきた。

翌朝。

雨が降っていた。

傘、忘れてきたんだよなぁ。

まぁ、今日は車だから。家のドアから車、会社の駐車場から玄関までの短い距離だから、いいや。

会社に着いても、雨は止まなかった。急いでドアを閉めて走り出そうとしたとき、同じタイミングで出社していた朝井が駆け寄ってきた。

「大崎さん」

傘に入れてくれる。

「あ、ありがとう」

「すごい雨ですね。急ぎましょう」

エントランスに着く。

「ありがとう。助かった。傘、たぶん昨日会社に忘れちゃってて」

コマド精米では、部署ごとに傘立てが割り当てられている。カスタマー事業部の傘立てを探すと、確かに自分の傘があった。

「大崎さん、人事部の傘置き場、こっちです」

傘を移動させる。

「また後で会いましょうね」

「うん、後で」

カスタマー事業部での引き継ぎが終わり次第、人事部に合流することになっていた。一応確認してみたけれど、晴が引き継ぐことはほとんどなかった。マニュアルを見れば、だいたいできる仕事だったから。

私物をまとめて、人事部フロアに上がる。

「あらためて、部長の梅津です。菅沼くんはまだ営業部での引き継ぎに時間がかかるみたいですから、先にお話ししますね」

「お願いします」

「人事部の仕事は、主に3つです。採用、開発、労務。採用は、人事といえば一番に思いつく仕事かもしれませんね。新卒採用や中途採用に関わる業務です。開発は、入社後の社員の研修や評価。労務は、給与計算や社会保険の手続き。大崎さんには、田淵さんと一緒に採用業務を主にやってもらおうと思っています」

「わかりました」

まぁ、担当は採用だけど、せっかくだからということで他の開発や労務の仕事内容、1年間の流れも教えてもらった。そうこうしていたら、もうお昼。

給湯室から、朝井さんが白いお椀を抱えて出てきた。湯気が立っている。電子レンジで何かを温めたのだろうか。でも、お昼ご飯にしては、香りが甘い。

「森岡さん、いただきますね」

「朝井さんの好物でしたよね。どうぞ、たくさん召し上がってください。大崎さん、こちらにどうぞ」

森岡さんに呼ばれて、給湯室に入る。給湯室には、コンパクトなシンクとコンロが備え付けられている。

コンロの上に、大きい鍋。

森岡が、お玉をかきまぜる。

「ぜんざい、食べますか」

甘い香りの正体は、これか。

でも、会社の給湯室で、ぜんざいを作って、食べて、いいのだろうか?
でも、朝井さんももらっていたし、いいの、かな。
断るのも申し訳ない気がする。それに、おいしそう。

「あ、ありがとうございます」

ぜんざいを容器に注いでもらって、自分のデスクに戻る。

人事部ほぼ全員が、お弁当を広げて食べ始めている。そして横には、ぜんざい。

カスタマー事業部にいたときには見たことのない、お昼の光景だった。

コマド精米のコールセンターには、中休憩がない。だから、お昼の時間はメンバーが交代で取っていく。だから、全員が同じ時間に昼食、なんてことはなかった。

休憩中はスマホもオッケー。各々、自由だ。

晴もスマホを取り出すと、メールが一件入っていた。
そうだ、クレジットカードのこと、忘れてた。

「大崎さん、何かありました?」

向かいの席の朝井に話しかけられる。

「なんか急に、表情変わったから、どうされたのかなーって」

聞いてみようか。

「朝井さんは、クレジットカード、止められたことある?」

え、なんですか、どういうことですかと聞かれ、一部始終を話す。

「ちょっとそのメール、見せてください」

「どうぞ」

スマホを渡す。スクロールして、最後まで目を通す。

「これ、電話した方がいいんじゃないですか?本当っぽい」

メールの最後に、大きく電話番号が載っていた。

「そうかなぁ」

朝井を信じ、給湯室で電話をかけると、すぐにつながった。

「お電話ありがとうございます。ご用件をお伺いします」

「不正利用されている、とメールを受け取ったのですが…」

「確認いたしますので、少々お待ちください」

しばらく待つ。

「お待たせしております。メールでもお知らせしましたように、お客様のカードが不正利用されている可能性があります。ご確認させていただきたいのですが、昨日午前3時に、外国のサーバー経由で90円ほど使用されましたか?」

昨日?外国で?90円?

「昨日ですよね?いえ、使ってません」

「かしこまりました。不正利用されている確率が非常に高いです。お知らせの通り、現在お使いのカードは利用を停止しております。再発行手続きをさせていただきます。新しいカードのお届け目安は1週間ほどですので、それまで、しばらくお待ちください。何かご不明点などございますでしょうか?」

「いえ、大丈夫です。お願いします」

「ありがとうございます。では、失礼いたします」

どうやら、本当らしい。

席に戻る。

「どうでした?」

「本当、だった」

「よかったぁ。電話してよかったですね」

新しいカードが届くまで、1週間。

終業後。銀行に寄る。

ATMには2、3人並んで待っている。順番待ちの間、壁のポスターが目に止まる。

「現金送れ」は詐欺

オレオレ詐欺に注意

詐欺に引っかかる人の大半が、「まさか自分が」と思うらしい。

まさかね。

メールの文面も、電話も、おかしいところはなかったはず。でも、それも含めて全部詐欺だったら、どうしよう?

考えるほど、不安になってきた。

試して、みる?
クレジットカードが、使えるかどうか。

使えなかったら、正しいってことでしょ。

銀行で現金をいくらか引き出したあと、スーパーに寄った。対面レジからセルフレジに移行が始まっていたから、ちょうどいい。

お茶のペットボトルを1本手に取って、セルフレジに並ぶ。

支払方法にクレジットカードを選択して、読み取り機に差し込んでみる。

「読み込み中」

よく見る画面が数秒続く。ここからだ。

画面が、変わらない。

え、もしかして支払いできてる?このまま、カードをお取りくださいと言われると、会計は終わってしまう。

使えるのか?

ビー!!

聞いたことのない音が鳴った。

「エラーが発生しました」
「お近くのスタッフをお呼びください」

見たことのない画面が出てきた。

あぁ、よかった!私のクレジットカード、使えないんだ!

「お客様!いかがなさいましたか」

慌てて近くにいた店員さんが駆け寄ってきた。

「大丈夫です!カードが使えなかったんです!」

店員さんは困惑していた。

「大丈夫です!やり直して現金で支払うんで!」

こんなに喜びながら「カード使えない」アピールする人っているんだろうか。店員さんにはびっくりさせて申し訳ないけど、よかった。

クレジットカードは、ちゃんと不正利用されていた。

1週間後、新しいカードが届いた。

でも、晴は1つ忘れている。

傘を、会社に忘れたままなこと。

忘れたことに気づくのは、たぶん、次の雨の日。


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