不確かなものに名前があるのなら、それは存在しているのかも
ボンチノタミ、ジョーカーです。
世界にはいろいろな言語があるじゃないですか。我々が使う日本語もそのひとつで、英語、フランス語、イタリア語、中国語、ドイツ語、とにかくたくさんの言語があります。
さらに細かい方言だとか訛りなんかを掘り下げていくと、たとえば同じ日本の中でも地方によって言葉が変わることも珍しいことではなく、本当に言語って広くて奥深いんだなあとおもいます。面白い。
言葉って、その国や地域の特色や文化なんかも見えますよね。
方言がうっかり出てしまったとき、それってどういう意味? なんて聞かれたりして、でも、標準語でしっくりくる言葉がないなあ、なんてときありませんか。原語と翻訳を比べてみたときに、なんとなくニュアンスが違うなあ、とか。
違う場所で違う文化で暮らしている中で生まれた言葉って、やっぱり違ってくると思うんですよ。
そういう中で、わたしがあるときふと「不思議だな~」と思ったことがあります。
存在が不確かなものに対して、各国で共通した概念があって、きちんと名前が存在しているのってなんで?
どういう意味だよと思うかもしれませんが、たとえば、おばけとか幽霊とか、目に見えない不確かなものって、多少は国によってその意味やニュアンスは違うとは思うんですけど、似たような言葉があるじゃないですか。あと、龍とドラゴンとか、想像上の生物的な、なんかそういうの。
わたしたち、おばけや幽霊を英語で表現するのにghostという単語を使うと思うんですよ。
で、やっぱりそういうものって日本でも海外でも墓場に現れたりするんですよね。死者の魂とか、死霊、亡霊って言う概念、なんで共通して持っているんだろう? って思いません?
実際にghostという単語が日本のおばけや幽霊の訳語として意味やニュアンスが合っているかどうかは別として、死んだ者が霊になる、みたいな概念を遠く離れた地でも同じように持っているっていうのがすごいなと思うのです。
あと、たとえば龍とかドラゴンも。多少形は違うんですが、龍もドラゴンも空想上の生き物のはずなのに似たような存在を表現する言葉が別々の国に存在しているんですよ。誰も見たことがないはずなのに。いや、もしかしたら見たことがあるのかもしれない……だって、世界各地でそう呼ばれる生き物の概念が存在しているって、そういうことなのでは?
りんごとappleとかはわかるんですよ。日本人がりんごを指して「りんご」と言えば、英語圏の方は「なるほど、appleのことを日本ではりんごと呼ぶのか」ってわかるわけです。笑いながら「これは笑顔」って言えば「これはsmileだな」とか。
でも、日本人が「我々は死んだ者の魂を幽霊と呼びます」と言ったとしても、英語圏の方に死んだ者の魂が霊になる、という概念がなければ「なるほど、これはわが国ではghostと呼ぶものだ」とはならないですよね、たぶん。誰にでも見える、誰にでもわかる確かな存在ではないんですから。相手に同じ概念がなければ、成立しない。
中には当てはまらない言葉もあると思うんですよ。概念として日本に存在しないものを海外から持ち込んだときに「これは日本語では呼び方が当てはまるものがないから新しく名付けよう」とか「元の言葉のまま使おう」とか。逆もまた然り。それはそれでいいと思うんですよ。全然何も問題ない。新しい概念や新しい物なんだから、新しい言葉が生まれてくる。
当てはまらないもので言えば、たとえば「いただきます」とか「ごちそうさま」というのは日本の神道に由来する言葉だと言われており、英語ではそれに対応した言葉はないそうです。そもそも存在しない概念なら、訳せる言葉がなくて当然なんですよ。
けれど、お化けや幽霊や龍なんかは、存在が不確かなはずなのに確かにそこに共通する言葉が存在する。しかも全く同じではなく、似たようなもの。
ということは、双方にもともとその言葉や概念が存在していたってことじゃないですか。え、不思議! って思ったわけです。
いや、思わない人もいると思いますし、言語や文化や歴史を専門に研究している方たちにはその理由もわかっているのかもしれません。
どの国のどの文化が発端で、それがどのように伝わって、そういう概念が他国にも広まったんだよ、だから訳語が作られたんだよ、とか。宗教的な概念としてこの国からこの国に伝わったものなんだよ、だから共通認識があるんだよ、とか。あるのかもしれません。明確な答え。
でも、昔そのことに気付いた私は心底不思議に思ったんです。
日本にも海外にも、おばけや幽霊っていう概念がもともとあるってこと? 龍やドラゴンみたいな空想上の生き物の概念が、もともとそれぞれの国にあるってこと? って。
国と国が交流し始める前から、ghostも幽霊も、dragonも龍も、それぞれの国に概念として存在していたのか! それって面白いな! と思ったんです。
と、同時に、やっぱり本当に存在するのかもしれないな、とわくわくしました。だって、きっと誰かが見たから、その言葉が生まれたんでしょう? 誰も見ていないのにそんな似たような生き物の概念があっちとこっちの国で生まれます? やっぱり存在しているんですよ、お化けも幽霊も龍も。たぶん。
誰かが見たから名前がついて、それと似たようなものを離れた場所で見た人がいるから、やっぱり他の場所でもその存在に名前をつけた。
存在しないものに名前はつけようがないじゃないですか。だからきっと、存在したんです。
いや、別に、存在したかどうかは問題ではないんですが。
文化も宗教も違う遠く離れた場所で、似たような概念のものを指すそれぞれの国や地域の言葉が存在しているのって、面白いなあと思ったことがあるという話です。