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短編 : 『橡色なら読まれまい』#毎週ショートショートnote

    (410字)




 「夜からの手紙ならば、橡色を選びなさい」

 ある人に、そんなことを言われた


 苦しい胸の内を、キコはその色を選び書こうと決めた

 ーときは奈良時代ー

 奴婢であるキコはその色の服を着ていた

 言葉を理解できるキコは、始めは真っ暗な夜空に向かって、白くしなやかな人差し指を高くあげて記そうとした


 誰にも読まれなければ、罪にはなるまい


 夜が明けて、記した言葉が日の光にさらされたとしても、この暗い色の上の文字は解読されないはずだ


 愛情を記しても意味はない

 奴婢には一般人との婚姻が許されない

 「時代というのは、社会というのは、何であろうな。お前は違う時代を選べばよかったのに」

 よく育ての親は嘆いた

 読み書きが出来なければ
 言葉を理解しなければ
 気持ちを残したくなければ
 誰かに伝えたいと思わなければ
 感情さえ持たなければ

 そんな逆さまばかりを頭にいっぱいにして、キコは己の運命を呪って生きた


 現代には稀有な苦悩が、同じ国に存在した






 ※本日、10/11 夜までの〆切です

 お題【夜からの手紙】裏お題【激辛の鏡】

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