徹底解説、いまさら聞けないベンチャーキャピタルの基本知識
こんにちは、千葉道場ファンド ベンチャーキャピタリストの木村です。今回は2022年11月25日に開催した千葉道場主催の勉強会「ゼロからわかるベンチャーキャピタル」の模様をお届けします。
普段ベンチャーキャピタル(VC)と関わりがない起業家や起業準備中の方の中には、VCのビジネスモデルや特徴、エクイティを利用した資金調達について、十分に理解できていないという方もいるかと思います。しかし、設立間もない企業にとってVCからのエクイティを活用した資金調達は有力な資金調達手段の一つであり、その活用方法を知っておいて損はありません。
そこで今回は、千葉道場ファンドのベンチャーキャピタリスト2名が登場し、VCの基礎の基礎からわかりやすく解説する勉強会を開催。当日の様子をダイジェストでお伝えします。
エクイティ調達は必須にあらず。それでも利用する理由は?
今回登壇した千葉道場ファンドのベンチャーキャピタリストは、パートナー・石井貴基とプリンシパル・廣田航輝の2人。石井は元起業家で、会社売却を経て、2019年に千葉道場ファンドに参画しました。一方の廣田は、新卒から一貫してVCでの投資業務を経験した後、2020年に千葉道場ファンドにジョインしています。
元起業家と生粋のベンチャーキャピタリストという異なる視点を持つ2人が、モデレーターの木村の質問に答えていくかたちで勉強会は進みました。
まず、会社が資金を調達する方法には、大きく分けて以下2種類がある、という説明からスタートしました。
・デット:銀行借入や社債発行による調達のこと。
・エクイティ:新株発行を通じた調達のこと。
VCからの資金調達とは、エクイティ調達のことを意味します。起業家にとってエクイティ調達とはどのような意味合いを持つのでしょうか。
「VCからのエクイティ調達はドーピングだと思っています。場合によっては身体に悪影響があるから基本的には使わない方がいい。でも目的と手段が合致すれば強力な武器になります」と石井。どんな目的でその武器を使うのかを、廣田は次のように説明します。
「株式を発行して外部の人に渡すのがエクイティ。自分の身体を削ってお金に換えるような行為です。ではなぜ、大事な株式を外部に放出するのか。それは事業成長のアクセルを踏むためです」。
「10年かけて1億円を貯めて、そのお金で新たな事業にチャレンジするのも一つの方法ですが、エクイティを使えば、その10年をショートカットして1億円を調達でき、すぐに新たな事業にチャレンジできます。ただし資金を提供するVCからはそれなりのリターンを求められます」。
2人の意見が一致しているのは、起業したからといって、必ずしもエクイティ調達をする必要はないということ。自分たちはエクイティ調達をやるべきなのか、やらずに行くのか。そこから検討をすることが大切といえそうです。
エクイティ調達のメリットはレバレッジにあり
そもそも、必ず外部から資金調達しなければならないわけでもありません。少額の自己資金で起業し、その後は、事業で得た利益だけを使って地道に運営していく企業もたくさんあります。また、エクイティ以外の手段も豊富にあります。昨今、金融機関の創業支援融資は非常に充実しています。クラウドファンディングでの資金調達もしやすい環境にあります。
では、エクイティを利用する一番のメリットは何か。それはレバレッジだと廣田は言います。
「エクイティ調達によってレバレッジをかけることで、圧倒的な成長スピードを実現できます。逆にいえば、レバレッジをかけることで急成長させられるビジネスにしか、VCは投資しません。VCの投資領域がIT、宇宙、バイオなどの分野に絞られてしまうのは、赤字を掘るような事業投資に対して将来のレバレッジが効きやすいビジネスと考えられているからです」。
「飲食店チェーンのような店舗型ビジネスも素晴らしい事業だと思いますが、レバレッジが効きやすいかという観点では比較的難しいことが多いため、エクイティとの相性が良くないケースがほとんどです。」。
業種・業態、ビジネスモデルによっては、VCとは相性が合わないことがあるわけです。
ここで改めて、VCのビジネスモデルの解説が行われました。VCは、外部の投資家からお金をお預かりして、そのお金を投資してリターンを得るビジネスです。投資家から預かったお金は一定期間を経て最終的に返還しなければなりません。運用期間はさまざまですが、一般的には10年です。
千葉道場3号ファンドの場合、60億円をLP(有限責任組合員。外部投資家のこと)からお預かりし、2022年1月から10年の期間で運用しています。この60億円をどれだけ増やせるか、つまり良いパフォーマンスを出せるかが勝負所です。
なおVCの中には、GP(無限責任組合員)としてファンドの管理・運用の主体となっているメンバーがいます。人のお金を預かって運用するだけでなく、自分でもお金を出して、リスクを取ってファンドに投資しているメンバーです。GPの出資額は一般的にファンドの1%と言われます。
VCを理解するために集めるべき情報
起業家の皆さんがエクイティ調達を検討する際、VCのどんな情報をチェックして、相談に行ったらいいのか、各項目について解説がありました。
【ファンドサイズ、チケットサイズ】
ファンドサイズとは、VCファンドがLPからお預かりしている1ファンド辺り資金の総額のこと。チケットサイズは、新規投資の際の1回当たりの投資金額です。この水準を知ることは、「VCがどんなスタートアップ企業を投資対象としているのか」を知ることになります。
例えばファンドサイズ10億円のファンドがあったとすると、投資に回せるお金は約8億円ほど。なぜなら、管理報酬(ファンドの売上)を2割ほど差し引く必要があるからです。そして残りの8億円でスタートアップ企業に投資していくことになります。
10億円のファンドの場合、チケットサイズは数千万円であることが多いようです。チケットサイズが仮に平均2000万円なら、追加出資をしないファンドと仮定すると約40社に投資することになります。
この40社のうちの1社がIPOを果たし、ファンドはその株式を売却することで20億円のリターンを得られれば、ファンドの運営はひとまず成功です。仮に残り39社の売却益が0円でも、ファンドは集めた資金額の2倍のパフォーマンスを出せたことになります。
注意したいのは、ファンドサイズ10億円のうち8億円投資するファンドがあった時、そのすべての額を新規投資に回すとは限らないということ。半分は追加投資の予算にして、もう半分で新規投資するという方針のVCもあります。
このように、まずはファンドサイズを見ることで、自分の求める金額とファンドの投資方針が合っているのかを探ることができます。
【フェーズ】
「どのフェーズの企業に投資しているか」という方針も知っておきたいところです。例えば、シリーズA以降の企業に投資するファンドに対して、シードの起業家が出資を申し込んだら、「うちの想定しているフェーズとは違う」と断られる可能性が高いといえます。想定しているフェーズについて公式サイトなどで記載しているファンドもあるので、調べてみてはいかがでしょうか。
【投資の目的】
スタートアップにエクイティ投資するプレーヤーは主に、独立系VC、事業会社が運営しているCVC、そしてエンジェル投資家の三つに分かれます。
独立系VCは、ファンドのパフォーマンスを投資目的としています。つまり、シンプルにリターンを増やすために投資をします。意思決定権を持っているのもGPであり、基本的には繋がりがあるのであればGPからアプローチしたほうがいいもののどちらからいくかについてはこう廣田は指摘しています。
「ファンドのパフォーマンスに対して責任を負っているGPは、投資する・しないをシビアに判断します。一方で自社のファンドの投資家に対しても責任を追っており、投資家とのコミュニケーションに時間を割かなければならない一面も有しており、一概にGPからアプローチしたほうがいいとは言いづらい局面もあります。一方、ファンドのメンバーは、投資のモチベーションも高く、親身になって話を聞いてもらう事ができる可能性が高いと思います。」。
「ただ、そこでよくこんなことが起こります。起業家がVCの担当者と面談した時に、『ぜひ投資したいです』と前向きな返事をもらえたのに、その担当者が稟議を上げたら否決されるという事態です。担当者は前向きだったのにも関わらず、ファンドパフォーマンスに責任を追っているGPの判断で投資がお見送りになってしまうケースです。そこで大切なことは、VCの担当者を味方に付けて、『力を合わせてGPを説得しよう』という雰囲気を作ることです」。
独立系VC以外の出し手であるCVCの投資目的は何でしょうか。CVCにも、VCのようにファンドを設立しているケースと、事業会社の現預金から直接投資をして、それを「CVC」と呼んでいるケースの2つに分かれます。
前者はVCと同じように予算や期限を儲けているので、比較的投資のパフォーマンスを重視しています。一方、後者はもちろん投資のパフォーマンスも重視していますが、どちらかと投資のパフォーマンスよりも、本業とのシナジーを前提に投資をしています。「投資対象となる企業が、自社の本業と連携してどんなメリットがあるか」が明らかにならないと投資実行は難しいと言えます。この違いは知っておく必要があるでしょう。
【投資実行までのスケジュール】
スケジュールとは面談から資金払い込みまでの期間のことを指します。千葉道場ファンドのスケジュールは最短で2週間〜1カ月半です。ただ、500万や1000万といった小さな規模であれば、即日~1週間で決めるケースもあります。反対に大きな金額の投資になると、DD(デュー・デリジェンス)の負担も増すため、1カ月以上かかることになります。資金調達にのぞむために半年ほどのスケジュールを見積もることも必要な場合もあります。自社にとって必要な資金調達の時期を考えて、そこに間に合うようなスケジュールを組んでくれるVCを探す必要があります。
【ファンドレイズの時期】
レイズとは立ち上げのこと。例えば千葉道場3号ファンドは、2022年1月に立ち上げました。ファンドレイズの時期を知ることは、新規投資を積極的に行っているか否かを推測することができます。
例えば投資期間10年のファンドを組成した場合、多くのVCでは最初の2、3年に新規投資をします。そして、残りの7、8年で投資対象となる企業の成長支援を行い、最後には株式公開やM&Aなどのイグジットを迎えて現金化する必要があります。
したがって、ファンドレイズから2年くらいまでが積極的に新規投資をする時期なので、その頃に面談に行くことが定石です。特に組成したばかりで潤沢に資金があるうちに面談に行くのが吉です。
【投資社数】
ファンドサイズが同程度でも、20社に新規投資するVCもあれば、年間1社にしか新規投資しないVCもあります。新規投資社数の多いVCと会った方が、出資を受けやすいことは確かです。投資社数について公開していないVCもありますが、ホームページや資金調達についてまとめているサイト等の情報から類推できます。
VCをよく理解してから面談を申し込む
ちなみにVCの担当者は、起業家と面談するのが主な仕事。面談回数をKPIにしているVCもあります。したがって、ほとんどの企業は希望すれば面談できてしまいます。
しかしいくら面談したとしても、自社のビジネスモデルや希望調達額がファンドの投資方針と合っていないと、無駄足に終わる可能性が高いといえます。だからこそ闇雲に当たるのではなく、事前によく調べてから面談を申し込むことが大切です。
VCに関する情報は、ホームページやプレスリリースなどで公開されています。PR TIMES、INITIAL、STARTUP DBなどで確認してから面談を申し込むようにしましょう。ちなみに千葉道場ファンドの投資条件は、以下の通りです。
「千葉道場ファンドはシード・アーリー(プレシリーズA)またはレイターステージを主な投資対象としています。起業家コミュニティの千葉道場に付随したVCだからです。つまり、シード・アーリーステージの起業家に投資して、コミュニティに入っていただく。そこで先輩起業家などから学んでもらい、成長していただいた上で、IPO直前のラウンドで成長資金を投資することでご支援させてもらっています。入り口と出口で投資する点が特徴です」(石井)
今回の勉強会では「エクイティ調達はドーピング」「必ずしもやる必要はない」などの刺激的な意見も出ましたが、最後に廣田がエクイティ調達の素晴らしさを力説しました。
「千葉道場ファンドには、『起業家の時間は有限であり、一番大切である』という方針があります。人生の貴重な時間を使ってでも成し遂げたい事業に対して、レバレッジをかけてチャレンジする際に有効な手段がエクイティ調達といえます」。
「起業家の皆さんが後から振り返った時に、『世の中を変えられた』『いい人生だった』と誇りを持って言える。そんな企業をつくるための資金調達手段として、エクイティ調達を検討もらえれば嬉しいです」。
VCのビジネスモデルや考えを知り、自社の条件にマッチしたVCを選んで面談を申し込むことが、資金調達を成功させる第一歩といえます。起業家の皆さんにはぜひ参考にしていただければと思います。