コラム 母親たちは南西風 - 母系だけって他の祖先どこ行った 5
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ついに第5回まで続いたこのコラム。毎回大好評ですね!この連載を始めてからフォロワーの数が3倍になりました。これは凄いことですよ!並のインフルエンサーでは太刀打ちできないと思います。すごすぎる!!
さて、と。私のmtDNAハプログループの変遷は「L → L3 → M → M8 → CZ → Z → Z5」でした。今回はCZとM8とMについて調べたことを書いていきます。今回も参考にしたのは篠田謙一著『新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 NHKブックス』(以下、本)です。
まずはCZについて。CZは3〜4万年くらい前に中国北東部で発生しました。アメリカの先住民からもみつかった遠出民のCと我らがZを繋ぐ共通祖先です。CZはCとZが248dというコードを共有していることから名付けられたそうです。書いてあったのはNational Library of MedicineからのPMC(米国立医学図書館のオンラインデータベース)にある『Mitochondrial Genome Variation in Eastern Asia and the Peopling of Japan』(以下、論文)です。とすると、CZを持つ人が発見されたわけではなく、CとZを研究していたところこのふたつを結ぶ存在を机上で発見したということですね。今はもうおそらく存在しないCZ民、会いたかったです。
ところで、我らが兄弟のミトコンドリアC戦士はアメリカ先住民などで多数派を形成することもある一方、日本においては0.5%ほどしかいません。Cは拡散力の強いクレードですが発生初期に大拡散したというわけではなさそうで、元(げん)を築いた遊牧民の拡大に伴い広がっていった、つまり後の時代になって広がったのだろうと本には書いてありました。日本は元の影響をほぼ受けなかったので少数らしいです。元寇は13世紀のことですから人類史からしたらつい最近のことですよね。まだ想像が追いつくくらいの最近の歴史が私たちのハプログループに影響を与えているというのはとてもおもしろいです。元に襲撃された人たちからしたらたまらないだろうけど。
続いてM8。ハプログループM8はMから発生したクレードで、3〜4万年前に中国東北部で発生したそうです。私が使った遺伝子検査キットのHaplo 3.0の説明によるとCZも3〜4万年前に中国東北部で発生したと書かれているので、M8はわりとすぐにCZを生み出したのかもしれません。M8は東アジア特有のハプログループとのことです。
M8はCZの他M8aも生んでます。M8aは新石器時代(日本における縄文時代)以降に黄河から南下したとのこと。全体数は世界的に見て少ないものの北部漢民族には多くいるらしいです。M8aは日本人に1.2%ほどの割合でいるZ並みの珍しさを持つグループで、ということは M8 = M8a, 1.2% + C, 0.5% + Z, 1.3% = 3.0% になりますね。3%かあ。少ないけれど少なすぎるということもないかも。日本の人口が1億2000万人だとしたら360万人。すごい都会な札幌よりもちょっと多いくらいだからまあまあいるって感じかな。ちょっとだけだけどね。
ちなみに、我らがZは絶対数が少ないためか、しばしばM8に吸収される形で表現されることがあります。日本人のmtDNAハプログループの割合といったグラフでM8aやCやZが見当たらないと思ったらM8を探してみてください。M8が3%前後となっていたらその中にこの3つは吸収されているでしょう。少数ハプロの悲しき定め。
……と、嘆いている暇はありませんよ。M8をリサーチ中にZ5に関する重要なことを発見しました!日本全国、いや、Z5は今の所日本でしか発見されていないと思われる変異なので全世界に20万人(筆者の予測に基づく)しかいないZ5の皆さまお待たせしました。今まで謎に包まれていたZ5がどのようにZから分かれたのかに関する情報についてお伝えします!参考にしたのは先ほども紹介した論文です。下のリンクと引用はその論文の中にあったものです。
ななななんと、Z5はZ1からZ5までで唯一突然変異を共有していないクレードだったのです!上のリンクの図を見ると、Z1〜Z4までは突然変異152を共通に持つため家族感が強いですが、Z5は孤独な存在ということが判明しました。実生活そのままじゃないですか。
最後にMを見ていきますがよろしいですか。Mはかなり大きなクレードです。L3という出アフリカを成し遂げた集団から5〜6万年前に分かれました。L3から派生した集団のうちMはアジア特有となっていますが、その子孫は世界中に広がっています。日本人のおよそ4割を占めるD系列も共通祖先はZと同じMに行き着きます。
本の中にMに関するおもしろいことが書いてありました。Mの中のM1ですが、一旦アフリカを出た後でまたアフリカに戻ってきたそうです。本にはエチオピアで見出されたと書いてあります。そういう人たちもいるんですね。親近感がわく。
なお、同じくL3から派生した集団のNはアジアとヨーロッパに分布しており、そのサブクレードであるRからさらに発生したクレードはヨーロッパを代表するハプログループとなりました。Nは日本人のハプログループの中にもいて、N9aやN9bといったNだとわかりやすいものの他にもAがN系統です。また、RからはBとFが発生しています。日本人におけるNを共通祖先とする人の割合は3割強で、別の言い方をするとMを共通祖先とする人の割合は6割強となります。
ところで、第1回目の記事でZは比較的最近発見されたのだと思うと書きました。いつ発見されたか本に書いてありました。1990年代後半だそうです。
さらに、本の中でAやBやZといったアルファベットは大きな名称と呼ばれています。大きな名称は系統がわからないものに付けられるみたいで、初期にアメリカ先住民から発見されたmtDNAはA, B, C, Dでした。以前mtDNAのハプログループの名称はややこしいと書きましたが、その一例が本にあったハプログループYです。Yがみつかった当初は系統的な位置がよくわからなかったため大きな名称が付けられたそうですが、その後YはN9の側枝と判明したとのこと。側枝なら普通はN9a1aなどになるのでしょうね。
こういった事情があるためかアルファベットが足りなくなり、我らの親であるCZがCとZを隣り合わせるという斬新な表現方法に至ったのではないかと思われます。アルファベット2個が意味するものとは「CZからCとZが生まれたよ」ということで、M8の次がCZとかよりも全然わかりやすいですよね。でも、本来大きな名称が与えられて然るべきなのは分化が激しいクレードの共通祖先だと思います。そうなるとZはM8cなどに、Z5はM8c5などになるでしょう。インパクトが強い名前ではなくなるものの関係はわかりやすいです。
研究が進んでいくとそのうちアルファベットでは対応しきれなくなりそうなので名称大改変が起こるかもしれません。漢字ならたくさんあるから漢字を使えば良いと思います。Lは祖、Nは歐、Mは亜。Zは北が良いかな。他にも北方のハプログループはたくさんあるけれど漢字ハプロ提唱者は私だから北は渡さん。
自分のハプログループがわかる人はぜひ自分の集団に最適な漢字を当ててみてくださいね。なんで科学の記号っていつもアルファベットやギリシャ文字なんだろう?
続く!
え?まだ石のこと言ってるの?窓の外見ててよ。いっぱいあるから。
↓ 続き
参考:
PMCの『Mitochondrial Genome Variation in Eastern Asia and the Peopling of Japan(東アジアにおけるミトコンドリアゲノムの変異と日本の民族形成)』
Wikipediaの泉
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