僕らが旅にでる理由。
今日も一日、無事終わった。
夕焼けの中、歩いているとはな歌がついて来る。いつからミャンマー風になってしまったのだろう。
ミャンマーの人は箒ではいていても、ちょっとした隙間によくはな歌を歌っている。それも高らかにだ。楽しそうだなぁーと思っていたが、いつの間にか自分もその文化に染まっていた。熱唱しないよう気をつけよう。
サービス向上として、朝礼で日緬のあいさつを向かい合って唱和することにした。
昭和っぽいが、今のミャンマーに求められているのは 『三丁目の夕日』 のようなものなのだろう。社員旅行にもノリノリだ。
新人のころ、一回だけ社員旅行をしたことがあるが、浴衣姿の部長や課長と〆のラーメンをすすったのも今となっては楽しい記憶だ。
ミャンマーの避暑地へ行った夜、浜辺ではライブが繰り広げられていた。有名な歌手でも来ているのかと思ったが、朝になると、お揃いのTシャツの若者たちが波打ち際でたわむれていた。ミャンマーでは社長名がそのまま会社名というケースも多い。真っ白なTシャツにはビーチの写真と共に、
鈴木太郎 商店
2023 旅の思い出に
と筆記体で書かれていた。ほほえましい。そしてうらやましい。気恥ずかしくなるようなTシャツだが、きっといつかタンスの中にこれを見つけた時、この旅を想い出してニッコリするのだろう。それ以来、社員旅行をする(ほど、軌道にのせる)ということが密かな目標になった。
そんなある日、日本から全員分のポロシャツが届いた。ネイビーの背中には全拠点が記されている。もちろん、YANGON もだ。
アレ?これで社員旅行に行けるのでは。
Tシャツより Cool だ。
ミャンマーには素敵な観光地がたくさんある。三大ビーチの中で、バスで行けそうなところをピックアップして、アンケートをとった。やがてスタッフがやって来た。
最高級ホテルに2泊したいといってます。
えっっ??
プールバーもあります。
プールバーはいい。何なら入り浸りたい。
でもそれは、社員旅行ではないだろう。私がイメージしていたのは、鈴木商店なのだ。良いサービスを体験してほしいとは思っていたが、ビヨンセが横たわるようなプールサイドまで必要だろうか。
スタッフが選んだのはハネムーン向けのホテルで、せっせと価格交渉をしている。ハイシーズンの団体様に、先方もはりきっているようだ。
私たちはまだ滑走路にいます。これからテイクオフするところです。あと二か月、目標を達成したら二泊をカバーします。
なんだか、テレ東みたくなってきた。
スタッフに拡がる失望の顔、カオ。いいことをしようとすればするほど難しい。
「あなたは、どう思う?」
数字を司るスタッフに聞いてみた。かしこい彼女は首をかしげていった。
「せっかく6時間もかけて行くのだから、二泊はしたいです。」
そうよね。
「でも私は海辺育ちなので、山へハイキングに行きたいです。」
・・・。
かえって悩みがふえてしまった。どう落としどころをつけましょう。
貴方はミャンマーもいいけれど、もっとアジアを広くみるべきです。評価はありがたいが、もう少しだけ、このスッタモンダにまみえていたい。
ぼくらが旅に出る理由 / Yuko Ando