見出し画像

あやしい絵と美人画づくし参

本日、「あやしい絵展」を見に行きました。素晴らしい展示でした。

春休み期間中とはいえ、平日にも関わらず、ものすごい人の数に驚きました。でも、展示を見ると、この人気に納得。一部にロセッティなどの西洋美術の引用展示もあるものの、日本美術の「あやしい」銘品が非常に充実した展示です。

社長 あやしい絵展

今の世の中はちょっとオジイサンが失言すると、やれ男女差別だと騒がしく、あたかも男女に差があってはいけないかのような幼稚な社会になってしまいましたが、かつてこの日本は匂い立つ男女のロマンがプンプンの国であったことが、うかがわれる内容でした。

発見はいくつもありますが、ここでは泉鏡花の「高野聖」をめぐる明治・大正・昭和時代の画家たちの饗宴を見てみましょう。

画像1

驚いたのはこの主題での鏑木清方の二枚折屏風の右隻の表現とそれと対になるメロドラマの一部を描いた安田靫彦のそれです。明治37年のこの屏風はどういう経緯で成立したのかは解説がありませんでしたが、右隻清方「高野聖」では憧れるすべての男を動物に変えてしまうという魔性の女の艶めかしさが清方らしい解釈で描かれています。

安田靫彦は良寛に私淑した画家で、極めて清澄な人物画を得意とする人ですが、清方とセットで情動の激しい絵画「想夫憐」を描いて清方に引けをとりません。

 修行を辞めてしまおうかと想うまで僧侶の信念を惑わす女の魅惑。ふたりの入浴シーンは多くの画家の創造意欲を刺激するらしく、この場面での梶田半古、橘小夢などの作品も併せて展示されています。

 なかでも橘小夢の描く挿絵は、僧侶が何故か異様に艶かしく、このステレオタイプを無視したエロティシズムはいったいどんな美学がこの画家の内部に潜んでいるのか、見れば見るほど謎が深まるばかりです。

 男女差別を言い立てる現代の愚か者たちはこんな展示は見に行かないでしょうが、仮に彼ら彼女らが立ち会ったとしても、このエロとエゴの恐ろしい世界など受け止められず、きっと目を背けるばかりでしょう。ですがもはや神話的ともいえるエロティシズムの表現は「あやしい」表現の原点にあり、取りも直さず人間の心の根っこに根ざすもので、心がとろとろと溶けていく快感と不思議な安堵を味わうことができます。

画像3

 この他、明治時代に早世した青木繁のまさに神話に舞台を借りた男女の肉体の根源的表現、顔に大きな痣のある女が正面を見据える島成園の「無題」、甲斐庄楠音、北野恒富、上村松園、小村雪岱などの異様・異色な表現が日本美術表現の「濃さ」を示唆しており目が離せません。

画像4

 さて、私達秋華洞では4月2日から「美人画づくし参」刊行記念展を行います。

 今回の「参」は、「一」「弐」の画集表現を経て、これだけ多くの若い画家が「人物」を描くようになったという中間報告の様相を呈していると思います。そのなかにはかなりの力作が揃い、人物表現を愛する人々の目を楽しませることでしょう。

 ただ、実は池永が2010年頃に始めた日本画的人物表現のスタートからわずか10年しか経過していないとも言えます。仮に美術史が繰り返しのアナロジーをもつとすれば、現代「美人画」はまだ明治の半ばにやっと差し掛かったところかもしれません。今回は中国の画家たちが日本人とは異なる生々しい女たちを描いて、あたかも東京画壇に対置する大阪画壇のような形になっています。

 美しい女性が艶然と微笑む、それだけが現代の「美人画」だとしたら、いささか寂しいことで、人物表現、あるいは絵画表現の帳(とばり)を振り払うような「切ったら血がにじむ」ような表現が今回、そして次回と出てくることを私は期待しています。

 切ったら「ドル札」が溢れるような昨今の美術シーンのなかで様々な体液が息づく、あるいは吐息やトンチが表出するものでもよいのですが、私達が持つ人物画や美人画への先入観を壊すような作品、明治大正昭和の絵を現代的に乗り越える作品の登場を願いつつ、次回の展覧会の準備を進めています。

https://www.syukado.jp/exhibition/bijinga-zukushi-3/

美人画のトップランナー池永康晟が監修する美人画アンソロジー第三弾。
「美人画づくし 参」刊行を記念した展覧会を開催します。

展覧会情報

展覧会「美人画づくし 参」刊行記念展

会期[第一弾] 2021年4月2日(金)〜7日(水)

会期[第二弾] 2021年4月9日(金)〜14日(水)

会場ぎゃらりい秋華洞

時間10:00〜18:00

備考入場無料
3月31日(水)12時より事前販売いたします。購入をご検討の方はinfo@syukado.jp までお問い合わせ下さい。
池永康晟作品のみ抽選です。応募期間は4/2 10時から4/12 10時の予定です。
※前半、後半で作品を入れ替え、一週ごとの展示になります。
※各作家2点ずつの展示予定です。
※4月8日(木)は作品入れ替えのため、展示はお休みです。

画像5

<展示スケジュール>

第一弾

4月2日(金)〜7日(水)
池永康晟(通期展示)
中島華映、山本晴日、大島利佳、下重ななみ、むらまつちひろ、髙久梓、山下千里、沖綾乃

第二弾

4月9日(金)〜14日(水)
池永康晟(通期展示)
いろはあやの、山本有彩、石川幸奈、松原亜実、八木恵子、柳田真理、妃耶八、高資婷

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?