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美術と心とオカネの話

(築地ロータリークラブの会報に載せた文章です。)

私ども秋華洞ギャラリーでは、月に二回、書の「読み書き」の塾をやっております。いつも飲み会つきなので、とても楽しく歓談しています。その時よく聞かれるのは「美術品の真贋はどうやって見分けるの?」ということです。

ロータリーで親しいNさんに聞かれたとき答えたのは「それはですね、鏡を見ることです。そうすると自分の持ってるものの真贋がわかります。」「何だそりゃあ。ずいぶんひどい言い草だなあ。」

たしかに傲岸な言い方でしたね。でも僕の実感はこうです。美術品は、実にその人に相応しいものがあることが多い、ということです。

篤実に、暮らしや人の心を大事に生きている人には、そういう品物が集まりますし、人を出し抜いて、自分だけいい思いをしよう、と企んでいるような方には、そういうものが集まってきます。

仕事柄よくご自宅に招かれて査定をまかされる事が多いのですが、夫婦とも穏やかで優しい人柄のお家には、とても素晴らしい美術品があることが殆どですし、冷たい倉庫に放り出されて、ああ、あんた4社目だけど、高い値段つけたら売ってやるわよ、なんて方は、玉石混交の「石」ばかり、なんてことが、ままあります。

心穏やかな方は、美術品の良し悪しだけでなく、人の善し悪しもよくおわかりになります。近づけてよい商人とそうでない人の区別もつくでしょう。そして人の話も実に素直にお聞きになります。すると、すぐに何が買ってよいものかわかります。だから良いモノしか集まりません。

いつも猜疑心に苛まれている方は、なぜか質の悪い業者と付き合うようになり、偽の情報も自分だけのとっておきの真実と思い違いをして、悪いものを掴まされます。

美術は投資用資産の側面もありますが、何より大事な事は「心の投資」でもあるということです。先人が骨身を削って生み出した古美術や次の時代の評価に耐えうる価値を作り出そうと現代作家が奮闘した現代美術を讃え、自分もその文化の「心」と一体になること、心の価値を何より大事にすること。いっときの「欲」だけを追っかけている人は、人生でも、モノへの投資でも、本当の利益は得られない。

 美術品の真贋は、持っている人そのものの「真贋」に結びつく。それが偽らざる実感なのです。

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