高校演劇大会のラストシーンでやらかした話│ひとりアドベントカレンダー#22
高校演劇の卒業生なんです
ここ数年、テレビやラジオで高校演劇が取り上げられる機会が増えているような気がする。香川県立丸亀高校の「フートボールの時間」が注目を集めたり、兵庫県立東播磨高校の「アルプススタンドのはしの方」が映画化されたり。
私がよく聴いているラジオ番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でも、水曜パートナーの日比麻音子アナウンサーが高校演劇出身ということもあって、普段は政治報道でおなじみの澤田記者が高校演劇ガチ勢として特集に何度も登場している。
かく言う私も高校演劇出身である。富山県の県立高校の演劇部で、役者と音響効果担当を兼ねていた。この演劇部、毎年一定数の部員が集まるのでそれなりに人数はいるが、音響は音響専門の部員で、大道具は大道具専門の部員で……というようには賄えない。役者をやる部員も、何かしらの裏方を兼ねていることが多かった。
私は高校1年生の入部したてのころ、6月の自主公演(3年生の引退公演を兼ねている)のための劇中音楽を勝手に自分で作ってきたことをきっかけに、長く音響効果のリーダーを担当することになった。
学校の体育館から県民ホールの音響室まで
多くの運動部や、文化部の花形・吹奏楽部に大会があるように、高校演劇にも大会がある。
脚本は既成でもオリジナル(顧問作・生徒作・生徒顧問合作)でもいい。プロの大規模劇団のような大所帯の高校から、役者一人と数人のスタッフだけでやってのけてしまう少数精鋭まで、何人参加してもいい。そして、準備(もちろん部員だけで全部行う)15分、上演時間60分、撤収10分(!)という信じられないタイトな時間制限を守れるかどうかも勝負どころ。
私のように富山県内の高校演劇部にいた場合、夏~初秋に地区大会(新川・富山地区、高岡・富山地区)、通過すれば次は秋に富山県大会、上位2校に選出されれば冬(その年の年末)中部日本ブロック大会進出、さらにそこで上位1校に選ばれれば翌年夏に全国大会出場、という流れになる。
これらの大会を順番に通過していくために、日々の部活で稽古を重ねていくわけだが、学校の練習環境と劇場の環境は当然のごとく全然違う。音響効果は、学校では体育館のステージの舞台袖に隠れてラジカセで、劇場では客席後方の音響室ででっかい音響卓を相手に、格闘しなくてはならない。
▲音響室ってこんな感じです
練習環境と本番環境が違いすぎるうえに、もしミスをした場合は音響はミスしたそばからリカバー不能である。間違った効果音や劇伴音楽を流してしまったときの気まずさ、肝の冷えようは想像を絶する。そういうわけで、音響素材を入れておく記録メディアは、「練習環境でも本番環境でも使える」「ミスしにくい」という条件を満たしたい。
最初はわかりやすくCD-Rを使っていたが、トラック番号を送り間違えるミスが練習で多発したか何かで、ある時から1つのMDにつき1つの音素材を割り当てることにした。今思えば「(よりによって、あの死んでいった記録メディアの)MDかよ……」という感じはするし、MDを再生機器に出し入れする工数が爆増するし、それに、うちの部の音響効果のやりかたとしては必ずしも得策ではなかった。
高校演劇の大会では、音響効果のレギュラーメンバーも役者になることが多く、レギュラー陣が舞台上に出払っていて音響卓ががら空きになるタイミングが時折発生する。そういうときのために、普段は音響をやらない他のメンバー(それでも足りなければ他の部活からも召喚)を助っ人として召喚し、特定の場面だけ音響の操作をやってもらう。このとき、音素材の数だけガチャガチャとMDが卓周辺に散らばり、慣れない機材の操作もするとなると、混乱を招くこと必至である(これで音響リーダーをやりおおせていたのだから、我ながらあきれる)。
そんなできそこないの運用を続ける中、中部日本ブロック大会出場をかけた県大会の舞台のラストシーンで、その事件は起きた。
シャッター音を鳴らすはずだったのに
私の高校の演劇部の上演作品は、生徒顧問合作で、ある一台のフィルムカメラとその持ち主の思いが、世代を超えて継承されていく物語だった。
そのラストシーンで、最後にそのカメラを受け継いだ人物(高校生の女の子)が、海辺に立ち、舞台上から客席を向いた状態でシャッターを切る。シャッターを切った彼女はファインダーから顔を上げ、満たされた表情を浮かべる。波音が高まる中、緞帳が下りる……という幕切れである。なんだかすごくいい感じではないか。このラストシーンのシャッター音こそが、物語を締めくくる鍵だった。
▲海じゃないけどまさにこんな感じの爽やかなシーン。(出典:ぱくたそ)
その爽やかさとは裏腹に、音響卓周辺は混乱していた。たしか、最後のシーンの音響を担当する私が、直前のシーンまで舞台にいたこともあって、卓への到着が遅れたんだと思う。大急ぎで卓に着くと、音響臨時メンバーの部員が、最後のシャッター音のMDが見つからないか、機材の操作方法がわからなくなったかであたふたしている(このへんの記憶もあいまいになっている)。
私はその部員をなかば押しのけるようにし、舞台上の彼女がシャッターを切るばかりになったのを確認して、MDの再生ボタンを押した。
「ガシャーン」
劇場内に響いたのはシャッター音ではなかった。
やってしまいました、そして
別の場面で使った、ガラスが割れる音のMDが、再生機器に入ったままになっていたのだ。まったく意味不明のシーンになってしまった。
私たちの高校は、無事というべきかなんというか中部日本ブロック大会への進出が決まったのだが、大会終わりに審査員控室に呼ばれてフィードバックを受けたとき、
「あのラストシーンの、何かが壊れる音はどういう意味だったの? 思い出が壊れちゃうとか……」
と審査員にきわめてフラットに訊かれたときは、
「あ、あの、あれは……完全に私のミスです………………」
と蚊の鳴くような声で答えるしかなかった。顔から火が出るとはこのことだった。
審査員室をあとにして劇場の出口へ向かう途中、ひどく動揺している私を見かねた顧問の先生が「効果音のポン出し用の機材、買おっか」と言った。
CD-R、MDのガタガタな運用を経て、私が大ポカをやらかしたおかg……せいで、サンプラーのロングセラーとして名高い、SP-404SXを公費で買ってもらえることになった。それ以降の公演では、ずいぶん音響効果のオペレーションが楽になった気がする。
当時の部員のみなさん、その節はほんとすみませんでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?