【台本】二人芝居「土星」
(暗転の中、Bの声のみ)
B「あれ?ここは…土星の輪っか?なんで…。私走ってる、なんで走ってるんだろう」
(明転。Bが前方を見ながら走っている。しばらくして、Aが後ろから走ってくる。AはBを見つけ、スピードを早めてBの隣に並ぶ。二人、横並びで走りながら)
B「(Aに気がつき)はじめまして」
A「はじめまして」
B「前に会ったことありましたっけ?」
A「ありますね」
B「どこであいましたっけ?」
A「高島屋のバーゲンで」
B「ああ、私が右にいて」
A「私が左で。私が手袋を持ってて」
B「私はセットのマフラーを持ってて」
A「どっちが両方買うかって」
B「はい、揉めて」
A「あの時破かれたシャツです(Bにシャツの破けた部分を見せる)」
B「私もあの時の傷跡がここに(服をめくり、傷跡を見せる)」
A「(じっくりと中見て、ゆっくりとBの顔を見て)よく、無事でしたね」
B「はい、(しばらくAのシャツを見て)あなたも」
A「あの後お茶に行って」
B「いえ、あの後はカラオケに行きました」
A「あなたはミスチルを熱唱して」
B「あなたはコーヒーを飲みました」
A「コーヒーが美味しいお店で」
B「私あのコーヒー屋さんの店主と結婚したんですよ(薬指見せて)」
A「(薬指をじっと見て)それはキーホルダーの一部ですよ。(Bの指からそれを取って)私の自転車の鍵です」
B「はい、あなたのです。あの日、あまりにむしゃくしゃして」
A「(それを自分の薬指にはめながら)私もむちゃくちゃにとうもろこしを食べました」
B「(Aの薬指をじっと見ながら)はい、私が食べさせました」
A「(Bの顔を見て、それから自分の薬指を見て)あのとうもろこし屋の犬、元気ですかね」
B「(Aの顔を見て、少し強めに)あの犬は、今私の玄関先にいます」
A「(Bの顔を見て、思い出したように)そうですね、私が毎日餌をあげに行っています」
B「ああ、割り勘のエサ代」
A「今月は1万円です」
B「高いですね。(お金渡しながら)ローストビーフなんてあげなくていいのに」
A「(お金を確認して、しまいながら)あの犬が一番好きなのは、マグロの刺身です」
B「(Aの動作をじっと見ながら)いいですね、(Aの顔を見て)私もマグロ好きです」
A「今夜はマグロ丼にしますか?」
B「そうですね、漬け丼がいいです」
A「じゃあ、私がお吸い物作るので」
B「私がマグロ漬けます」
A「じゃあ1時間後に」
B「はい、ここで」
(二股に分かれてしばらく走るが、足元を見て、二人立ち止まる。恐る恐る輪っかの下を覗き込み、また戻ってくる)
(二人、また横並びで走っている)
B「またいつか会えるといいですね」
A「私はそうでもないんですよ」
B「(驚いたようにAの方を見て)私もそう思ってました」
A「じゃあこれ渡しておきます」
B「なんですか?」
A「結婚祝いです、1万円」
B「1万円…ありがとうございます」
A「じゃあ、私は先に帰ります」
B「え?」
A「先に帰りますね」
B「どこに?」
A「え?」
B「どこに…帰るんですか?」
(二人、それぞれの思いの中で、横並びで走っている。ゆっくりと暗転)
(完)
・・・
2024年3月23日
自主公演「夢かもしれない」にて上演