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不審なトライアルの思い出。

2018年に仕事用のブログに書いたものを加筆修正したものです。

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あるときふと思い立って、とある音楽製作ソフトの名前をぐぐったら、2017年末に販売終了していることが判明。ふーん、なら書いても大丈夫かしら。

その数年前、日頃お付き合いのある翻訳会社からある音楽ソフトのマニュアルの無償トライアルを受けてくれないかという依頼がありました。一応その業界にいた私に声がかかったんだなと思って引き受けたのですが、原稿を見て少々違和感を覚えたんですよ。

翻訳会社のトライアルというと、数パラグラフから1ページくらいの原文を渡されて、これを全部訳せというのが普通です。会社によっては、その前後の文章も参考用にくれることがあります。内容の基礎知識や文脈の理解に役立てるためです。
ところがこの案件では、別個のパラグラフがいくつか渡されて、そのところどころにマーカーが引いてあり、マーカーの箇所だけを訳せと指示されました。イメージとしてはこんな感じです。

画像1

(もう何年も前の話でファイルが見つからないのと、見つけたところでさすがに文章をそのまま上げるのもはばかられるので、サンプルとしてAlice’s Adventures in WonderlandのChapter 1から引用しました)

変なのとは思いましたけど、まあそういうこともあるかと思って訳して送りましたよ。結果はなしのつぶて。そのときは他にいい翻訳者が見つかったのかなと思っていたんですがね。

その翌年か2年後に、別の翻訳会社からまた無償トライアルの話があり、原稿をもらってみたら同じソフトのマニュアルっぽい原文。今度はExcelで、左のセルに原文があり、右のセルに訳文を入力しろと指示されました。

画像2

(同じくAlice’s Adventures in WonderlandのChapter 6から引用したサンプルです)

原文はそれぞれまったくつながりがなく、明らかに必要なところだけ抜き出した感じです。これでは翻訳能力のトライアルになりません。怪しいなあとは思ったんですが、引き受けちゃった以上しかたないので訳して送りました。結果はやはりなしのつぶて。

ここへ来てようやく思いました。これってまさか、トライアルの体で訳させておいて、その訳文をまんま実際のマニュアルに流用してんじゃなかろうかと。で、何度も同じ翻訳会社に頼むとバレる可能性があるのでそのたびに発注先変えてたりして。

この音楽製作ソフトはその時点でけっこうバージョンが進んでいたので、アップデートもそんなに大きくはないはずです。ちょこっと機能が増えたとかUIが変わったとかの程度なら、安く、いやできればタダですませt(以下略)という考えだった可能性もあるなと、2回引き受けてしまってやっと気付いた次第。

これでまた別の翻訳会社からトライアルの話があったら、こういうことが過去にあったので受けたくない、御社もこういう案件は断った方がいいですよと言うつもりでいたんですけど。

そうかー販売終了したのかー残念だなー(゚Д゚)

同業の皆さんは、こういうおかしな案件に引っかからないようお気をつけください。そして原稿を見ておかしいなと思ったら、取りかかる前に翻訳会社の担当者に問い合わせましょう。目の前の案件欲しさについ引き受けて馬鹿を見ることのないよう、自戒を込めて強くお勧めします。

そして翻訳を発注する企業の担当者様のお目にこの記事が留まることがありましたら、決して真似をなさらないようお願い申し上げます。

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本当、最初のトライアルの時点で「こんなトライアルありですか?」と訊いておけばよかったと今でも思っています。もしかすると翻訳会社にも一銭も入っていない可能性があるので。

まあ、このソフトの会社自体は今でもあるので、もしこんな案件が降ってくるようなことがあればそのときは言わせてもらいます。

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