レジ袋 【旅と英語と思い出と】
私が初めて海外に出たのは高校2年生の夏休み。10日間程度のアメリカへのホームステイだった。
英語が好きだった私にとって、以来、海外に出る=英語を学ぶチャンスという認識になってしまっている。机に向かってする勉強と違って、実体験を通して学ぶ英語はその場その場の成り行きなので、疑問に思ったその瞬間に質問をしないとほぼ永久的に学ぶチャンスを逃すということが多い。まして、旅の最中で出会う人に会うことは多分もうない。
あのとき聞いておけばよかったな、と今でも思うことがある。アメリカへのホームステイの最中、そのホームステイプログラムに一緒に参加した日本人の友達と小さなお店に行ったことがあった。ちょっとしたお土産を売っているお店で、おばあさんが経営していた。いや、経営していたかはわからいないがともかくおばあさんがレジにいた。友人らしき客のおばあさんと談笑していた。そんなローカルなお店だ。
私は友人と小さな店内を物色し、かなり時間をかけて数点の商品を選んだ。リンゴの香りがするハンドソープを買ったと記憶している。レジに持っていくとおばあさんは、
"You guys finally decided."
と言った。高校生の私でも「やっと決めたのね」という意味であることは分かった。ここで、"finally"を本当に日本語の「やっと」と同じ意味で使えるということを知った(試験勉強のために意味は辞書通り覚えるが、それが本当に文字通りの意味で使えるのかについては懐疑的だった)。
なるほど、生きた英語だと、学びを得て勉強意欲が向上した私は、覚えたての単語を使いたくなった。どこでどう覚えたのか忘れてしまったが、ビニール袋のことを"plastic bag(プラスチックバッグ)"と言うらしいという知識が当時の私にはあった。そこで、「袋をください」と言いたくて、"Plastic bag, please."と言った。今思えば、袋は"bag"でいいだろうと思うのだが、当時の私は"bag"=「鞄」と思っていたので、「ビニール」を省略してはならないと考えたのだ。
すると、おばあさんは、「え、プラスチックの?」と言いながら、一生懸命探してくれ、結局、プラスチックの弁当容器か卵の容器みたいなものを出してきて入れてくれた。もちろん、途中から、これは間違ってるなと思ったけれど、それを説明するほどの英語力もなく、お礼を言ってありがたく受け取った。
実に親切なおばあさんだった。若い、どう見ても外国から来たアジアの子のことだ。文化も考え方も全然違う。買ったものをどうしてもプラスチックの入れ物に入れたい理由があるのだろうと思ってくれたのかもしれない。その時に、カタコトでも何か伝える勇気があればレジ袋をアメリカでは何と呼ぶのか知ることができただろう。そして、おばあさんがたまたまプラスチックの入れ物と解釈しただけで、実は"plastic bag"と言うこともあるかもしれない。そのへんの詳しい事情も分かったかもしれないのだ。そして、おばあさんの労力も申し訳ない。
ネットで調べればレジ袋の英語での呼び方はすぐに分かることだけれど、レジ袋は禁止になった国も多く、エコバッグ持参がほぼ常識になった今、もうレジ袋について話すことはないのではないかと思う。ないのだから知らないくてもいいことではある。ただ、あの当時、一つ学ぶチャンスを逃したというその事実がちょっと悔しかったりする。