お天道さま 【旅と英語と思い出と】
どんな言語にも別の言語に翻訳しにくい言葉というものがある。日本語で英語にしにくい言葉の一つがタイトルの、「お天道さま」ではないだろうか。最近はあまり耳にすることはなくなった。昔からそれほど頻繁に見聞きする言葉ではなかったが、おじいちゃん子だった私は、祖父と一緒によく見た時代劇でよく聞いたという印象がある(余談だが、最近は泥棒を意味するジェズチャーも見なくなった。現在70代の方にすら通じるのか怪しいくらいだ。気になる方は調べてみてください)。
お天道さまとは、「太陽」も意味すると思う。だが、英語に訳す場合に「The sun」でいいのだろうかという疑問は残る。太陽という意味もあるようだが、それだけではない。時代劇に出てくる場合、「お天道さまは見逃しても、この遠山桜は…」というかの有名な決まり文句か、「お天道さまはお見通しだ」、「お天道さまには逆らえない」とか何かとても大きな、ともすれば擬人化されたような存在感がある。どうやら悪事によく気づき、夜でさえ目をみはらしているらしい。
The sunの太陽は特に見ているようには思えないし、とりあえず、夜はいない。他の星ならまだしも、太陽に関しては「見えないだけ」ではなく、本当に夜はお留守だ。子供の頃は、「だから泥棒は夜盗みを働くことが多いのか!」と間違った納得をしていた(それを祖父に伝え、「ははは。そうかもしれんね」と、ますます誤解を助長するうような返事をされた記憶すらある)。
さて、そんな子供も成長して多少なりとも知識を得、たどり着いた結論が「お天道さま=天照大御神説」だ。インターネットを調べてもそんな情報はない。ないが、今の私はこの説に妙に納得している。天照大神は日本の神話における太陽神である。日が昇るも沈むも、かの大神様が采配なさっている。神様なら悪事も見ていらっしゃるだろうし、昼夜問わず四六時中目を光らせていらっしゃるに違いない。
ということで、話は唐突に変わるが伊勢神宮に参拝してきた。伊勢神宮はその天照大御神が祀られている神社だ。お天道さまへの顔向けはギリギリできる人間だと自負してもいる。参拝したのは、思いつきだった。なぜか急に、「日本に生まれたんだから一度くらい伊勢神宮に参拝しておかないと」と思ったのである。とは言え、私の住む東京から伊勢市は散歩がてら行けるような距離にはない。宿を手配しての小旅行となった。
参拝したというだけなので、特にこれと言ってオチはないのだが、とにかく伊勢神宮のエネルギーはすごかったということだけは伝えておきたい。出雲大社には何度か参拝したことがあるが、全く別物という印象を受けた。いや、衝撃を受けたと言ったほうが正しいかもしれない。神様をお祀りしているお社はそれぞれとても古く、茅葺きだったりする。場所も、ほぼ手つかずと思われる自然の中だ。何がどうと端的に説明はできないが、とにかくとても特殊な場所だと感じた。それを証拠にかはわからないが、帰宅後目眩で一日寝込んだ。ご利益云々はおいておいても、一度は行ってみることを心からお勧めする。
ただ、私に霊感だの特殊な能力だのは一切ないことも付け加えておきたい。