【悪性脳腫瘍との共存】住宅ローン編vol.1
悪性脳腫瘍と共存しながら生活する中で、記録しておきたいなと思ったこと、もしかしたら近しい境遇の方の参考になるかも、と思ったことをつらつらと書いてみます。
治療終了から3年。子どもを持ちたい気持ちと将来への不安
先日、我が家のスーパーひろきくんが30歳の誕生日を迎えました。2019年2月に悪性脳腫瘍と診断され、余命1年半と宣告されてから5年3か月。30代の大台に乗る記念すべき日を私が盛大にお祝いできたのも、彼がこれまで生きていてくれたおかげ。そして彼がこれまで生きてこれたのは周囲の皆様のおかげであり、改めて人は人に生かされているんだなあと実感した数日間でした。いつも私たちを見守ってくださっている皆様、本当にありがとうございます!
さて、私たち夫婦には結婚前から話し合ってきたことがあります。子どものことです。実のところ、私自身はキャリアのこともあり、絶対に子供が欲しい!とは考えていませんでした。一方、ひろきくんには「子どもを持つことは一つの夢」という明確な意思があり、そのために放射線治療の前に精子の冷凍保存もしていました。彼の話を聞いて、もちろん、望んで必ずしも叶うものではありませんが、彼と一緒に子どもを育ててみたいという気持ちが芽生えたと同時に、万が一、がんが再発して彼に何かあったとき、もうひとり家族がいたらきっと心強いだろうし、そのあとも前を向いて生きていけるような気がする、そう感じて、子どもを持つことを前提にライフプランを考えることにしました。
とはいえ、入籍、結婚式、ハネムーンという新婚イベントが終わってすぐに妊活を始めよう!となったわけではなく。色々と考えなければいけないことはあったのですが、一番大きなハードルはお金の問題でした。子育てにお金がかかるのは周知のことかと思います。そのため、多くの子育て世帯は保険に加入したり、団信付きの住宅ローンを組んでを自宅を購入し、万が一の時に備えていらっしゃると思うのですが、我が家の場合、悪性脳腫瘍の罹患によってひろきくんが「がん既往歴あり」となってしまうため、加入できる保険や団信が限られてくることが大きなネックでした。
我が家では非常にポジティブに捉えていることですが、ひろきくんの病気のこともあり、私たちにとって「死」はとても身近な存在。よくお互いが死んだときにどうするか、について話し合い、残された側がなるべく困らないようにできる手続きを済ませたり(委任契約と任意後見契約公正証書の作成もしました。この話もまたどこかで・・・)、子どもを持った後にどちらかが死んでしまってもやっていける状況をつくるために出来ることを検討しており、保険と団信は是が非でも加入したいものでした。
幸い、保険に関しては信頼のおけるファイナンシャルプランナーのやましーさんのサポートのもと、既往歴に関係なく加入できるものを見つけることができたのですが、子どもを持つことを前提とすると正直心許なく。。がん既往歴があっても加入できる緩和型の保険もあるのですが、それは治療終了後5年後が経過しないと対象にならず。金銭的に一定程度安心できる環境になるまで子どもを持つことは先送りしたいという思いと、一方で自分たちの身にいつ何があるか分からない、ということも身に染みて理解している私たちにとっては非常に悩ましい状況でした。
がん既往歴がある人も入れる団信がある!?リサーチの開始
そんな時、ひろきくんと同じ悪性脳腫瘍を患った経験があり、保険関連の仕事をしているマキさんから、治療終了から一定期間が経過していれば加入できる団信があるかもしれない、との情報をいただきました。さらに調べてみると、なんと2021年にカーディフ生命が「がん既往歴があっても条件次第で入れるがん団信の商品提供を広島銀行と始めた」、とのリリースを発見。まさかがん既往歴があっても入れるがん団信があるとは思いもよりませんでした。広島銀行のホームページには情報が掲載されていなかったため、何とか情報を拾おうとデスクトップリサーチを進めたところ、広島銀行だけでなく、関西みらい銀行、第四北越銀行、八十二銀行、三十三銀行でも「がん既往歴があっても入れるがん団信」を提供していました。
※2024年5月末現在。日本にある全銀行を調べたわけではないので、他行でも同様の商品がある可能性はあります。
いずれの銀行も商品自体はカーディフ生命のものだったのですが、概要や対象の記載については各銀行によってまちまち。ただ総じて「過去に罹患したがんの種類や治療の内容、期間によって加入できる場合がある」という趣旨でした。
ひろきくんは「最悪中の最悪」である悪性脳腫瘍を患っていたので、正直この書きぶりだと難しいのかもしれない。そう思いはしたものの、戦わずして負けることなかれ。広島銀行、関西みらい銀行、第四北越銀行、八十二銀行、三十三銀行に電話で問い合わせをしてみました。
「悪性脳腫瘍」は対象外も、調べる中で得られた収穫
結果は、いずれの銀行もたしかにがん既往歴があっても入れるがん団信も商品として取り扱っていたものの、「悪性脳腫瘍は対象外」でした。
※対象となる可能性があるがんについてはこちらにも記載の通り、甲状腺がん、大腸がん、精巣がん、前立腺がん、悪性黒色腫とのこと。
残念。。という気持ちはもちろんありましたが、前述の通り、そもそも難しいだろうなと思っていたのでひどく気落ちすることはなく、むしろこんな団信もあるのか、きっとこれで救われる人もいるんだろうなと思うと嬉しい気持ちになりました。
また、基本的にがん団信は「生まれて初めてがんと診断された場合」にローン残高が0になる、というものが多いのですが、ご相談する中で八十二銀行さんから、「重度のがんと診断された場合」にローン残高が0になる商品もある、と教えていただくことができたのも収穫でした。もちろん過去にがんに罹患したことがない人は前者の条件のほうが良いと思うのですが、既にがん既往歴のある我が家のケースでは、後者のほうが審査が通る可能性が高いのです(もちろん審査してNGの場合も大いにあります)。結果的には今回、私たちが購入を希望する物件が八十二銀行さんの対応エリア外だったので実際に審査をすることはなかったのですが、他行でも同様の条件の団信があるかもしれない、と希望を持つことができました。
ただ、こちらも残念ながら…なのですが、購入希望の物件を取扱可能な銀行12行(ちなみにネット銀行は審査が厳しいなどもあり、いくつかトライして早々に断念)のHPから団信を調べたところ、八十二銀行さんと同様の商品はなかなかなく。唯一新生銀行さんの一般団信+安心保障付団信は良さそう、と思ったのですが、スケジュールの問題もあり、最終的にはある地銀で一般団信への加入を前提に申し込むことにしました。
いよいよ本審査!の前夜に気づいてしまったこと
本申込に向けて銀行のアポを取り、書類を揃えていた前夜。物件購入に向けての書類がまとまっている分厚いフォルダを整理していたところ、事前審査審査の際に不動産屋さんと一緒に確認しながら記入し、今回とは別の銀行さんに提出した一般団信の申込書兼告知書の記入要領が目に留まりました。告知書の記入にあたっては不動産屋さんから銀行にも確認してもらい、「最後の治療から3年以上経過しており、再発していないか確認するために定期的に病院で検査している」状態であれば告知対象外、と確認していたので、問題ないはず、、と思いつつ、そういえばちゃんと読んでなかったな…と、じっくり読んでみたところ。「告知対象となる事例」に、「10年前に胃がんと診断され手術を受けた。その後再発・転移もなく現在は1年ごとに通院し、経過観察を受けている」との記載を発見してしまったのです。
この記載を発見した時の感情は何とも表現しがたいのですが、この事例が告知対象ならばひろきくんの状態は告知対象であるし、告知事項があるということは団信の審査に落ちる可能性があるということなわけで。家購入の手続きを進めながら、「引っ越したらこんな生活をしよう」「きっとこんなことが起きるね」と2人で妄想を膨らませていたので、実現しないかもしれないと思った瞬間は正直結構落ち込みました。
動揺のあまり、友人が来た時に飲もうと思っていたワインを二人で空けてしまったのですが、飲みながらローンが組めないなら古民家を格安で買ってDIYしようとか、とにかく生活コストが安いところに引っ越そうとか、あれやこれや話しているうちに、「これもまた人生だなあ」と思えるようになってきて、そもそもまだ審査結果も出てないのに、ショックを受けるのは早すぎる!とポジティブさが戻ってきました。
家を買えなくても死ぬわけではないし、大切なのは家族で楽しい日々を送ること。子どもを持つことを見据えた金銭的な不安解消についてもまだまだ手立てがあるはず。危うく手段が目的化する悪い例になるところでした。とはいえ、住みたいまちに自分の家を買うというのは大きな決断であって、ある人にとっては夢でもあること。それが、たまたま若い時にがんになったから叶わないかもしれない、というのは、誰も悪くないことですが複雑な気持ちになりましたし、改めて普段自分が思っている「当たり前」の得難さを身に染みて感じる機会にもなりました。
悪性脳腫瘍との共存は続く
そんなこんなで迎えた本申込。団信の告知書には「完治」か「経過観察中」か、の選択肢があったのですが、ひろきくんはちょうどその間、いわゆる「寛解」状態。何と書くべきか悩みはしたものの、無事提出はできました。いまはとにかく、状況を正しく伝えて審査してもらえるように出来ることをするのみ。
我が家の住宅購入がどうなったかはまた時間があれば記録として記事にしようと思いますが、今回私たちが住宅ローンを組むために調べたことがどなたかの役に立てば嬉しいな…と思っています。また悪性脳腫瘍との共存は一生続いていくものなので、またそれに付随するものがあれば家族の記録の意味も含め、こうやって記事にしたいなーと思います。
それでは☺