街同人・西澤みず季 句集『ミステリーツアー』三十句撰

雪の中少女のままで二百年
一族の顔吊られをり糸瓜棚
静脈に針全身が春の海
滴りの一打虚空にショパン満つ
新月の鋤鍬鎌や子を孕む
冬灯円錐形の中に馬
番号で呼ばれし漢風花す
オリーブの切断面に父の顔
人恋うて肺の悴む音すなり
落款に真紅の卍花の冷
足元一村杏の花の海
太陽を追ひ詰め泰山木咲けり
鮠の腹裂くや夕虹溢れ出す
夏館森は夜中に迫りくる
夏つばめ緋の稜線となりにけり
砂場から乳歯一本敗戦忌
深雪晴「毒」のタンクローリー過ぐ
大時計逆回りして結氷期
調停の朝の寒紅定まらず
方舟に乗せるとすれば男と蛇
体内に海鳴りのあり茄子漬ける
舌先で探りし苦さ青葉木菟
心太食べますか空飛びますか
肩越しに腕の近づく夜長かな
十六夜や白すぎる子の生まれたる
姿より声の記憶や寒夕焼
キューピーの眼の裏の寒夜かな
夏雲や千尾の魚の中に足
夕虹やワイングラスの中に森
蘖や背に一刀の手術痕

所感

 『街』の同人・西澤みず季氏の第一句集。
 注目はなんといっても以下の句だ。

方舟に乗せるとすれば男と蛇

 他の句会ではこんな句を見たことがなかった。見たことのない句、極端な句に出会えるのが『街』の醍醐味だと思う。とにかく勢いが魅力的な句集だった。『街』に通う以上、自分もこれくらい好き放題にやらなければいけないのではと反省している。

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