僕の髪の毛は誰も切ってくれない、いや切れない
オーストラリアに移住してきて13年目。日本人美容師夫婦と9、7、2歳の男の子のママことモンブランです。
全豪テニス、女子優勝、大坂なおみ選手おめでとうございます。
久しぶりにテレビでオンタイムで見てました。
これで、全豪優勝は2回目。すごいですね。
私、テニスのルールすら分からなかったんですが、メルボルンに来て覚えました。
会場が車で10分圏内にあります。そして、本来なら、予選はすべて無料で見に行けますし、キッズデーというのがあって子供向けのイベントがあったりして、テニスというものを身近に感じることができます。
今年の全豪オープンはこんな状況なので、開催も危ぶまれていました。棄権した選手もいました。
そんなテニスが終わると、メルボルンは秋です。
今日は友達の子供をカットしに行ってきました。
その子供は自閉症とてんかんを持ち合わせていて、3歳ですがしゃべることができません。
じっと座ってられないし、ときどき大きな声を出したり、キィーと声をあげたりします。
1歳ごろにお父さんが押さえつけてバリカンで坊主にした。
多分、その時もめっちゃ大変であばれてバリカンでもガタガタだったと思う。
だからそれから切ってない。
肩下10センチ以上伸びていた。
でも結ぶのも嫌がる。【オーストラリアでは幼稚園、保育園、小学校の子供たちは外で遊ぶときは帽子は必ずかぶらないといけないルールがあります。】
それだけ紫外線が強いのでしょう。
でも髪が長くてお団子に結んだら、帽子が浮いてくる。
だから今日はさっぱり短くしたい。というお母さんの要望。
希望は今どきなサイド刈り上げてトップを少し長めに残したフェードのようなスタイル。
お母さんが抱っこして動画を見せていたけど、ハサミの切る音がイヤみたいで私の手を振り払ってきた。
そして、動画も集中できず、私が持ってきたおもちゃも興味を持ったのは一瞬。それよりも髪の毛を切られるのがイヤ!!
切ろうとして髪の毛をもったら、反対を向くし、大きな声で嫌だと一生懸命抵抗してきた。
とりあえず、肩下10センチを切った。
ガタガタ。左が長く右が短い。仕方がない。
お母さんからの要望は叶えてあげられなさそうだった。
私に対して警戒心を持っているので、近寄ってこないし、近寄るとすぐに逃げる。
ソファーに座っているときに、1束切った。
そして、テレビの前でもう1束切った。
くしを通されるのがイヤなのかも、と思い手で持って切った。
そして、部屋中に髪の毛が散らばった。
それでもまだ、短くなってなかった。
お母さん(友達)と嫌がるならやめた方がいいけど、どこまでが彼の許容範囲なのかを聞いた。
すると以前家で切ったときは無理やり手足を押さえつけて切ったし、大きな声は日常でも出してるから大丈夫と言われた。
そして、庭に出た。
私は、カットしていると正解のラインが見えてくる。
ここをこう切って、ここを短くして、ここを残してという私の中でのゴールデンラインと呼ばれる正解が見えてくる。正直、部屋で切ってた時はこのラインが見えなかった。
しかし、シャボン玉で遊んでいるところに行ってまた一束切った。
見えた。
そして、私はハサミをセニング(スキばさみ)に持ち替え、庭の鉢植えの下にたまってる水で遊びだしたところを追いかけてセニングを動かした。
今までで一番切れた。
そして、水がスキなことに気が付いて、お母さんに言ってキッチンから大きなボールに水を入れてもらって庭で水遊びをしている後ろ姿にハサミを入れた。
ボールの水をかけられようと、髪の毛が服につくのなんてどうでもよかった。
ただ、この子の髪の毛を短くして、もっと楽に日常をおくってほしい。少しでもストレスを減らしてあげたかった。
障害がある子はオシャレな髪型にできないのですか?
してはいけないのですか?
丸刈りか伸ばしっぱなししか選択がないのですか?
理由があって伸ばすのはいいと思うけど、誰も切ってくれないからってただ伸ばすことしかできないのは、全然違う。
例えばお店に行ったとしても大声で嫌がるので、他のお客さんに迷惑をかけるだろうし、店内を歩きまわるからそれを追いかけながら切るのは大変。もしかしたら断られるかもしれないし、もしくは途中で諦める。
だって切れる状態じゃないのだから。
美容師も、耳や首の後ろを切ってしまうかもしれないという不安もある。
多分、お母さんが1番わかっている。
私は友達だったから、お母さんに寄り添うことができたけど、もし、お店にこの子が来たら切る決断をしただろうか?
お家だから、友達だから、時間を気にしなくてもいいからという色んな理由で引き受けた。
そして、何よりこの子の髪の毛を切ってあげたかった。
大変なことを知っていたから。
逆に私以外誰が切れるの?自信過剰かもしれないけど、幼いころから知っていて、その大変さもお母さんから聞いていたから。
そして、ゴールデンラインに近づいた。
子どものカットは100点を目指すのではなく、80点を目指す。
そして、自分の中の80点をクリアした時、お母さんから
「すごく短くなったねー。かっこよくなったよ。頼んでよかった。モンブランさんに頼んでなかったらパパに坊主にされてたよ」
と子供に声をかけるのが聞こえた。
そして、「ありがとう」と「はいどうぞ」の間くらいの片言の言葉と笑顔をもらって家を出た。
美容師をしていて1番最高な瞬間。
そして、美容師でよかったと思える瞬間。
こちらこそ、ありがとう。