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大好きなまま役に立ち続けるー商業書道家になるまで③

商業書道家の小笠原麗と申します。

こう自己紹介できるようになるまでのこと。
書はライフワークだと思えるようになるまでの、約15年間のこと。


技術を安売りするな

社会人になってからも細々と続けていた書の活動。
趣味といえばちょっと物足りなく、かといって仕事かといわれれば、生活のためにやってるのではないし…と思ってピンとこない。

そんな話を、会社で雑談程度にぼやいていた時に言われたひとこと。

「技術を安売りしちゃだめ!」

ベテラン上司からのこのお叱り。

心配してくださった上でのことばだったけれど、当時のわたしには理解ができなかった。

色紙書きの経験(前回参照)が大きかったから「役に立ちたい」と「書かせてもらえる機会はありがたい」という気持ちがかなり強かった。
それをエネルギーに、活動しちゃいけないの・・・?
プライベートな時間を使ってやっているんだから問題ないじゃん・・・

1回こういうマイナスな部分に気づいてしまうと、ものすごーく簡単に引っ張られてしまうわたし。

書くことが、楽しくなくなってしまった。


揺らぐことのない軸

楽しく書けないことはとても辛かったから、書との付き合い方について、改めて考えてみた。

仕事だと思うからいけないのかもしれない。じゃあ割り切って、完全な趣味にしてしまう?その方がラクかも。新たにどこかの会派に属して、師範を目指して、ゆくゆくはお習字教室を開くという道だってある・・・

でも、自分の書がどこから始まって、何がおもしろくてここまで続けて来たかを考えたら、そのルートでないことは明らかだった。

結局行きつくのは、高校1年のときの自分。
芸術・書道に出会ったときの、あのワクワク感がすべて。

「書道はおもしろい!好きだ!」という思い。
筆文字を書ける技術で役に立ち続けたい・・・書道を大好きなままで。

この軸はしっかり持っていたい。
そこをずらしてまでやるのは何か違うな、ということに気付いた。

そして、このわがままを叶えるには、営業職としての自分を無視することはできない。
ありがたいことに、クリエイティブな活動を応援してくれる会社だったから、それを味方にして、再スタートすることにした。


筆文字の書ける営業

決めたキャッチコピーは「筆文字の書ける営業」

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内容は本人まかせの2つ折り名刺を採用している我が社。
とりあえず形からじゃ~ということで、信頼している友人カメラマンにポートレートを撮ってもらい、書道を全面に押し出した写真に変えた。


また、自社のデザイナー向けにポートフォリオを作り、わたし筆文字書けまーす!ということをアピールしていくと、写真集や書籍のタイトルを書かせてもらえる機会が増えた。

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あくまでも、自社で受注した物件のデザインのひとつ。
筆文字単体の仕事でも、わたし個人の仕事でもない。

これでは「技術を安売りするな」という上司のお叱りを改善できたとは言えないのかもしれない。
それでも、このスタンスで活動することは、とても心地が良かった。

好きで楽しく書いている、しかもそれで役に立てている(はず)。
何よりも、"書道を好きなまま続ける"という、最も優先したいところを満たしているから、しばらくこれで行こう!と割り切った。

これなら、続けられる。


恵まれた環境

商業書道に関わるようになって、書道(筆文字)が、もっと好きになった。

明確な書風の希望がある場合以外は、いくつかのパターン書いてみるところから。正統派とちょっと踏み込んで遊んでみたもの。筆を変えてみたり書道辞典をひいてみたり・・・でも可読性は保つように。

筆文字だけだったものがデザインの一部になって出てきたとき、毎回本当に感動する。
色が変わる、横が縦になる、活字と組み合わせる、写真と合わせるなど。
へー!こっちを選んだか~!!という驚きや、書いたわたしにも見えなかった、気づけなかった意味を、お客様、デザイナー、担当営業が見出してくれることも。


恵まれた環境にいると思う。

営業職でありながら制作もすることを理解してくれる部署のみなさん、積極的に筆文字を活用しようとしてくれるデザイナーのみなさん、お客様の反応を報告してくれる担当営業たち・・・優しすぎると思うし、ものづくりって楽しいと思わせてくれて、本当にありがたい。

こうして、自社内で"筆文字書ける人"という立ち位置は確立することができたと思う。

さて、ここからどうする?


商業書道家へ

"筆文字の書ける営業"というキャッチコピーも使いつつ、商業書道家という肩書きを加えてみようと決めた。

もうちょっと外に出てみるのも良いかな、と思ったことが1番の理由。
活動を応援してくれる方々と、もっといろんなものを作ってみたい。

その一歩として、日本デザイン書道作家協会へ入会。
これまでの実績を提出する審査もあって、もしひとりで活動していたらこういう考えには到らなかったなぁと、改めて実感した。

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「Design 書」(一般社団法人日本デザイン書道作家協会会報)No.129より


学校あるばむ営業。商業書道家。
名刺にも「商業書道家」を追加して、今、自己紹介をするときはこの2つを答えるようにしている。

印刷会社の社員だから、きっと商業書道家の方が副業とかダブルワークのもうひとつの方になるんだろうけど、その感覚はほとんどない。
というより、わけて考えるのを最近辞めた。

そして、書道のみで生きていくつもりも、今のところはない。
会社員の方は変わる可能性があるけれど、書道と長く一緒に生きられることを考えると、一本化しない方が、わたしは良いと思う。


2020年7月末の時点では、ここまで。

ここから、どうなっていくだろう?
書道を大好きなまま、役に立ち続けること。
この軸をしっかり保ったままみんなと見ていく景色が、どうか明るいものでありますように。

(終わり)

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